選評 目次
いろいろなことばに投稿分散
1. コロナ時代2年目の戸惑い
2021年もコロナに明け、コロナに暮れようとしています。新型コロナウイルスの感染拡大は2年目に入り、さらに深刻な局面を迎えました。東京都の場合、合計245日にわたって「緊急事態宣言」または「まん延防止等重点措置」が出され、人々は会食・イベントなど、さまざまな方面で活動を控え続けました。「ステイホーム」が叫ばれた前年春に比べて、全体として「人流」は減らなくなったとはいいながら、長期にわたる自粛生活に人々は疲れ切っています。
人々が活動を抑制した結果、言語活動も低調になった面があるかもしれません。2021年には「今年特に広まった」「将来辞書に載ってもおかしくない」と感じられることば(本企画の対象となることば)が少なかったという印象を持ちます。選考委員は例年「今年はさしずめ、このことばがランクインするだろう」というイメージを持って選考委員会に臨みますが、そのイメージが描きにくい年でした。
2021年最大のイベントと言えば東京オリンピック・パラリンピックです。過去の大会では「自分で自分を褒めたい」「チョー気持ちいい」などの名言が多く生まれたのに対し、東京大会では〈お茶の間をにぎわせた「流行語」は少ない〉(『毎日新聞』2021年8月9日)とも指摘されています。名言や流行語は本企画の対象ではありませんが、新しいことばが生まれにくかった状況を感じさせます。
今回の投稿総数は延べ1,525通でした。このイベントに関心を寄せてくださった皆さんに心から感謝いたします。数の上では、多くの「コロナ新語」が誕生した前回(2020年)の4,854通、前々回(2019年)の2,017通に比べて少ない結果です。ただ、投稿受け付け日数を前回の72日から55日に短縮したため、1日の平均では投稿数は平年並みです。そうは言っても、「2021年はこれ!」と熱烈に推されることばが少なかったのも確かです。2019年は「タピる」、2020年は「ソーシャルディスタンス」「コロナ禍」などに投稿が集中しましたが、今回はいろいろなことばに分散しました。
最も多くの投稿数があったのは「親ガチャ」で、38通でした。後述のように、この語は「○○ガチャ」の形でベスト10の2位に入選しました。ただ、投稿数の面では、2番目に多かった「○○しか勝たん」(非入選)の35通とさほど違いはありませんでした。「2021年は『親ガチャ』の年だった」と言えるほどのインパクトはなかったと思われます。
ちなみに、「○○しか勝たん」は「○○が最高」という意味の俗語で、前回2020年にも投稿がありました。ひとつのフレーズであり、定着するかどうか見極めにくいため、前回は類義語の「優勝」(=大満足・最高)を6位に選びました。今回も「○○しか勝たん」は見送りましたが、妥当な判断だったかは後の評価にゆだねます。
2. 音楽から一般化した「チルい」
大賞 チルい
今回、私たちが大賞に選んだことばは「チルい」でした。「何ですか、それは」と言う人も多いかもしれません。投稿数は「チルい」「チル」を合わせて4通でした。いわば下位のことばをすくい取った形です。それでも、「チルい」は今年の大賞にふさわしいと考えます。
「チルい」は「リラックスした様子だ」「落ち着いて気分がよい」などの意味で使われます。「ゆったりとしたチルい曲」「チルいギター」のように音楽で使う例が目立ちますが、「最高にチルい時間」「チルい雰囲気」など、一般にも使われます。青森などの方言「あずましい」(気持ちがいい・安心である)の意味とも通じます。
2010年代後半、徐々に広まってきたことばです。もともとは音楽分野で使う「チルアウト(chill-out)」から来ています。2019年刊行の『大辞林 第四版』(デジタル版)では、「チルアウト」は〈クラブなどで激しく踊った後などに高ぶった気持ちを落ち着かせること。また、その際に聞く楽曲〉と説明しています。音楽のチルアウトに関しては、1990年代半ばから新聞に記事があります。
「今年の新語」の投稿としては、2016年に初めて「チルする」(落ち着く)や「チルってる」(落ち着いている)が寄せられ、2017年に「チルアウト」、2020年に「チルい」が寄せられました。いずれも「チルアウト」およびそれを略した「チル」の派生形です。
「チルい」が特徴的なのは、「外来語+い」の形の形容詞だという点です。「今年の新語2016」の2位に入った「エモい」の解説でも述べましたが、このような形容詞は「ナウい」「エロい」「グロい」など少数です。「キュートな」「スリムな」「ポップな」「リアルな」など「外来語+な」(形容動詞)は多くありますが、「外来語+い」(形容詞)が成立するには高いハードルがあります。そのハードルを越えた「チルい」は、特に若い世代にとって、日常的で基本的な感覚を表すことばになったと考えられます。
2021年、ある清涼飲料水の広告コピーに〈チルする?〉が登場しました。「このドリンクを飲んで、ゆったり落ち着こう」ということでしょう。また、動画投稿アプリのTikTokでは、進路指導を受ける生徒の口調で〈あーし〔=私〕の夢っすかー? 超チルなラッパー〉とつぶやく動画が人気になり、これをまねた動画も多く生まれました。こちらは「超気楽に生きてる、イカしたラッパー」というほどの意味でしょうか。いずれも、見る人々が「チル」の意味を理解できる素地があってこそ成立する表現です。
「チル」「チルする」「チルってる」「チルい」「チルな」は、安楽を求めたい気持ちから使われることばであり、ストレスフルな今の状況をよく反映していると考えました。「チル」を代表形とするのが妥当かもしれませんが、語形の珍しさに着目し、「チルい」の形で大賞に決定しました。
3. 秋のマスコミで「親ガチャ」話題
2位 ○○ガチャ
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
がちゃ【ガチャ】〈造語〉結果のよしあしが自分で選べず、偶然に左右されること。よくないことを引き当てた うらみごとや言い訳に用いる場合も多い。「親━(=親の地位や収入などによって、子の人生や運命がほぼ決まってしまうこと)・国━・時代━」[もともと、ソーシャルゲームで、アイテムやキャラクターを引き当てることをガチャと呼んだことによるが、ガチャは擬音語に由来する]
今回の投稿数で「親ガチャ」が最多だったことは述べました。「ガチャ」は、「担任ガチャ」「職場ガチャ」など、さまざまに使われる造語成分です。応用範囲が広いことから、「○○ガチャ」の形で2位に入りました。
「親ガチャ」は、ちょうど「今年の新語2021」の募集期間(9月8日~11月1日)に特に話題になりました。9月7日、社会学者の土井隆義さんがウェブメディア「現代ビジネス」で学生のことばとして紹介しました。どんな親の元に生まれるかをガチャ(ソーシャルゲームでアイテムを得るためのくじ)に見立てたもので、人生が家庭環境で決まってしまうという嘆きを表しています。土井さんの文章を踏まえ、15日にテレビ朝日、16日に日本テレビ、19日にTBS、21日にフジテレビ(東京の場合)と、民放各社が「親ガチャ」を話題にしました。瞬間風速的に話題が沸騰したことが、投稿数を押し上げた面がありそうです。
ただ、この「ガチャ」ということばは、これまできわめてユニークな歴史を経てきました。そのユニークさだけでも、上位に入賞する資格は十分にありました。
「ガチャ」は本来、駄菓子店などに置かれた、カプセル入りおもちゃの自動販売機のことです。ダイヤルをガチャガチャ回して、どんなおもちゃが出てくるかは運次第。かっこよく「カプセルトイ」とも言いますが、子どもたちは以前から「ガチャガチャ」「ガチャポン」「ガシャポン」などと呼んでいました(商標でもあります)。
21世紀に入って、ガチャはスーパーやファミレスなど、あちこちに置かれるようになりました。現在、量販店や観光スポットにさまざまなガチャが並ぶ風景は日常化し、購買層も年齢を問いません。
国語辞典は、長らくこの意味の「ガチャ」を載せていませんでした。遅ればせながら、21世紀になって「ガチャガチャ」「ガチャポン」などとともに載せるようになりました。
やがて、ソーシャルゲーム用語としての「ガチャ」が一般化します。ガチャを引いてすべてのアイテムを購入すると、特典で希少アイテムが得られるという「コンプガチャ」が問題化したこともありました(2012年)。ゲーム用語の「ガチャ」も国語辞典に載りつつあります。
現実をゲームのガチャに見立て、理想としない親の元に生まれることを「親ガチャに外れた」などと言うようになったのは、さらにその後のことです。「今年の新語」では2018年からこの意味の「ガチャ」が投稿されています。「○○ガチャ」のバリエーションは、「友だちガチャ」「人生ガチャ」など、いろいろな例があります。
人生はいろいろなガチャによって決まってしまう、と考えるのはネガティブすぎます。一方で、「格差社会」(2006年)と言われる状況がなおも続き、多くの人が「自分の力ではどうしようもない」と感じていることも事実です。「○○ガチャ」は、そうした閉塞感、無力感を、自嘲的に表したことばです。
4. 「マリトッツォ」流行は終わっても
3位 マリトッツォ
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
マリト┓ッツォ〔イ maritozzo〕パンをカスタネットのように ひらき、生クリームをたっぷり つめこんだ菓子か
し。
3位の「マリトッツォ」は、今回のベストテンの中で最も心が明るくなることばです。生クリームをたっぷり挟んだ菓子パンのこと。イタリアでは昔からありますが、日本では2021年に入ってメディアで多く紹介されるようになり、6月には「グーグルトレンド」の検索頻度がピークに達しました。
シンプルと言っていいお菓子ですが、挟まれた生クリームの存在感は圧倒的なものがあります。食品としてはこの年一番のヒット商品になりました(日経トレンディ「2021年ヒット商品ランキング」)。
「流行はいずれ終わる。辞書に載るほど定着したと言えるのか」と聞かれることもあります。流行は終わっても、一度人気の出たスイーツには多くのファンがつきます。1990年代、ティラミスやナタデココなどが爆発的にヒットした時は、一過性の現象と言われ、「いずれ消えるのでは」と収録を見合わせた国語辞典もありました。でも、今はどれも普通に買えるお菓子です。マリトッツォも同様になるだろうと判断しました。
4位 投げ銭
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
なげせん【投げ銭】〈名〉①ふるく、芝居や見世物などで観客から舞台へ、また、大道だい
どうで通行人から芸人などへ、芸の代価として、紙に包んだ銭ぜにを投げ与えたこと。また、その銭。[類]おひねり・チップ ②ウェブサイトで、無料で企画やコンテンツを作成したことに対して、応援の意味を込めて寄付すること。また、そのときのお金やネット独自のポイント。「━システム・━サイト」③時代劇・時代小説の主人公、銭形平次ぜにがた
へいじが、悪玉めがけて投げつける銭。「決め手の━を飛ばした」
4位の「投げ銭」は、かつては大道芸人や、舞台上の芸人などに投げて渡す小銭のことを言いました。インターネットが普及すると、面白いと思ったコンテンツに贈るポイントやお金も指すようになりました。亀井肇『平成新語・流行語辞典 外辞苑』(平凡社)では、1999年のことばとして「投げ銭システム」を紹介しています。気に入ったホームページに、投げ銭感覚でカンパを行うシステムです。
2017年、ユーチューブでメッセージとともに投げ銭が送れる「スーパーチャット」(スパチャ)の機能が実装され、投げ銭システムが広く知られるようになりました。スパチャでの投げ銭が1億円を超えた音楽公演の配信も話題になりました。2021年にはツイッターが投げ銭機能「Tip Jar(ティップジャー)」を装備し、このシステムはいっそう身近になりました。コロナ禍も契機となって、パフォーマーの活動の場がオンラインに移りつつあります。「投げ銭」は、そんな現状を象徴することばと言えるでしょう。
5位 人流
『新明解国語辞典』編集部
じん りゅう0 ―
リウ【人流】〔「物流」に対して〕旅客の輸送。またはそれに関係する活動。「―の要」〔単に人の(移動の)流れの意にも用いられる。例、「―を抑制し感染症の拡大を防ぐ」〕
5位の「人流」は、文字どおり移動する人の流れという意味です。新型コロナウイルス感染拡大の2年目、事態が深刻化した2021年によく使われるようになりました。たとえば1月、小池百合子東京都知事は緊急事態宣言を出すよう国に求め、〈ここでただちに徹底した人流の抑制を図る必要がある〉と述べています。
従来の使用例を見ると、一種の経済用語として「人の流れ」の意味で使われる例が大半です。たとえば、〈環太平洋地域の人流、物流、商流、情報流〉(『朝日新聞』〔大阪版〕1989年4月11日)のように、「物流」などと並列的に使われています。これが感染拡大防止の文脈に応用されたのです。
この語については、「人をモノ扱いしているようで違和感がある」という意見も多く聞かれます。心情的には理解できますが、コロナ収束後も広く使われる見込みがあり、国語辞典の項目にはほしいことばです。
5. 変容した日常を映すことば
6位の「ウェビナー」、7位の「ギグワーク」は、どちらもコロナ禍で変容した日常を映しています。
6位 ウェビナー
『新明解国語辞典』編集部
ウェビナー01〔webinar ← web+seminar〕インターネットを介して行なう講演会や研修会。また、そのためのアプリケーションなど。
「ウェビナー」は、「ウェブ」と「セミナー」の合成語です。ウェブ会議システムを用いて講演や対談などの模様を配信し、チャットなどを使って質問なども受け付けるものです。コロナ禍で、会議や飲み会などもリモートで行うことが多くなりましたが、講演などのイベントもリモート形式が珍しくなくなりました。今後、こうしたコミュニケーションのスタイルはいっそう普及することでしょう。
語構成に着目すると、「ウェビナー」(web+seminar)のように、ある語(の頭)と別の語(のお尻)を融合させたことばを「カバン語」と言います。スーツケースのふたと底を合わせるようにしてことばを造るからです。「今年の新語2020」の9位「グランピング」(glamorous+camping)などもカバン語です。近年、こうした語構成の外来語が多く日本語に入ってきているのは、注目すべき現象です。
7位 ギグワーク
『大辞林』編集部
ギグ ワーク3〖gig work〗インターネット経由で発注先から直接個人で請け負う単発の仕事。労働機会の拡大や人材活用、副業の促進などに資する反面、多く低賃金であることや、雇用契約がなく、トラブルに際しての補償のないことなどが問題視される。
「ギグワーク」は「単発の仕事」ということです。単発といっても、その日一日だけ働くバイトなどとは違います。たとえば、飲食店からスマホのアプリを通じて宅配業務の依頼があったとき、都合がよければ請け負う、というような労働形態です。「ギグ」は本来、一夜かぎりのライブ演奏のこと。その場かぎりで気軽に演奏するように、自分のペースで仕事ができるところから「ギグワーク」の名がつきました。
こうした働き方から生まれる「ギグエコノミー」は、コロナ禍以前から話題になっていました。コロナ時代に入り、宅配サービスへのニーズが急速に高まったことで、さらに注目されることになりました。
縛られない働き方である一方、ギグワーカーの立場の弱さも指摘されます。今後「ギグワーク」がことばとして定着するかどうかは、労働者が十分に保護されるかどうかにかかっているでしょう。
8位 更問い
『大辞林』編集部
さら とい0 ―
とひ【更問い】記者会見などで、会見内容の不明な箇所をただしたり、関連する質問を発したりすること。また、その質問。「事前に通告した質問以外の―が禁じられていることに不満が噴出する」
8位の「更問い」は、政治家などの記者会見の場で、回答が不十分だと感じた記者がさらに質問することです。「ぶら下がり」(移動中などに要人に行う取材)や「囲み取材」(対象者を囲む合同取材)などは、すでに載せている国語辞典もありますが、今後は「更問い」も載せるべきかもしれません。
報道記者の用語かと思ったら、むしろ役所の隠語のようです。ある省庁では、会見で記者に「さらに問われた」場合はここまで答える、という想定問答があるといいます(『朝日新聞』2002年2月13日)。
この「更問い」は、菅義偉氏が首相になってからよく耳にするようになりました。首相の会見は、記者ひとりにつき質問を1回までに制限し、「更問い」に答えないとして批判されました。後に菅氏は会見スタイルを修正したともいいますが、「更問い」禁止の是非はその後も議論されました。願わくは、記者会見が自由な雰囲気で行われ、「更問い」が死語にならないようにしてもらいたいものです。
6. 新用法が付け加わる「おうち」
9位 おうち○○
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
お うち[一]おうち━[お(△家)]「家い|う
え|ち」の尊敬語・美化語。「―のかた〔=保護者のかた〕」[二][造〉自宅での。「―カフェ・―時間・―居酒屋」〔二十一世紀になって広まった言い方で、二〇二〇年の新型コロナウイルス感染かん
せん拡大に ともない、特に使う機会が増えた〕
9位には「おうち○○」が入りました。「おうち」は「家」の美化語であり、従来と意味が大きく変わったわけではありません。「今年の新語」にランクインしたのは不思議に思われるかもしれません。
ただ、使い方には変化が生じています。まず、21世紀に入り、「おうちカフェ」「おうちレシピ」など「おうち○○」の形で造語成分として使われることが多くなりました。従来なら「家庭○○」「自家製○○」など、漢語を使って表現したところを、柔らかく「おうち」と表現したものです。
さらに2020年、コロナ禍で「ステイホーム」の呼びかけが広まると、「おうち時間」が流行語になりました。「外に出られなくても家で楽しもう」というポジティブな気持ちがこめられています。緊急事態宣言などの期間が長く続く中で、「おうち居酒屋」「おうちごはん」などの言い方も多くなりました。
現在、雑誌を見ると、〈コロナ禍で大ブーム到来♪ うまい餃子を食べるおうち調理の極意〉〈どうする!? コロナ禍のおうちごはん〉のように、コロナ禍と「おうち○○」を関連させた表現によく出合います。「おうち○○」が従来にも増して日常語になったことが分かります。その状況を記録するため、9位に選びました。
10位 Z世代
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
ゼットせだい【Z世代】〈名〉一九九〇年代後半から二〇〇〇年代以降に出生した世代。生まれたときから、あたりまえのようにインターネット環境が整っていて、情報を得たり、価値観を形成する際のよりどころとするところに特徴がある。デジタルネイティブ。ジェネレーションZ。[もともと、一九六〇年代から七〇年代生まれをX世代、八〇年代から九〇年代生まれをY世代と呼んでいて、その次に位置する世代。みずから名乗る世代名として用いられる傾向がある]
10位の「Z世代」は、生まれたときからインターネット環境があり、ごく自然にデジタルメディアに触れて育った1990年代後半以降の世代のことです。いわゆる「デジタルネイティブ」の世代です。なぜ「Z」かと言えば、その前に「X世代」「Y世代」があるからです。
「X世代」は、カナダの作家クープランドの作品名に基づき、「得体の知れない新人類世代」を指した呼び名です。1960年代後半~70年代前半生まれに相当します。「Y世代」はその次の世代で、1990年代前半までに生まれた人々を指します。その次の世代だから「Z世代」というわけです。
2021年に入り、唐突に「Z世代」だけが知られるようになりました。「X」「Y」の世代はさほど知られていないのに、「Z」だけが注目されています。その点を面白いと評価し、ランキングの最後に選びました。
特定の世代の呼び名は、個別性が高く、小型国語辞典の項目にはそぐわないとも言えます。でも、「団塊の世代」「氷河期世代」などは小型辞典にも載っています。この先も長く使われ、よく聞く言い方となるなら、辞書にあってしかるべきでしょう。
* * *
前回の「今年の新語2020」と同様、今回もコロナ禍の中での選定作業になりました。一過性の可能性がある、あまりにも「ベタ」なコロナ関連語などはランクインしませんでしたが、選に漏れたことばの中には興味深いものも多くありました。それらのうちいくつかを「選外」として記録しておきます。
選外
じゃないほう
「そうじゃないほう」の一部「じゃない」が、一種の形容詞として、「主要ではない」の意味を持つようになりました。漫才コンビなどで「じゃないほうの人」と言えば「目立たないほうの人」。秋にはドラマ「じゃない方の彼女」(テレビ東京系)も始まりました。
鼻マスク
マスクをしたのはいいが、鼻だけが出ている状態です。「鼻マスク」と言えば鼻にマスクをしているかのようですが、実際は「鼻出しマスク」であるところが不思議です。「あごマスク」が「マスクをずらしてあごにかけた状態」であるのと対照的です。
黙食
つばが飛ぶのを避けて「黙って食事すること」の意味の漢字熟語です。2021年1月、福岡市のカレー店がSNS上に「黙食」のポスターを公開したところから一般化しました。銭湯では「黙浴」が使われるなど、関連語も生まれました。「黙示」「黙認」などと同様、以前からあったことばのように、つい錯覚します。