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「映画評大全」の内容より

  • はじめに

はじめに

     本書は1996年3月から2016年4月までに共同通信文化部が全国の加盟新聞社に配信した映画評約930本から成る。この期間に日本で公開された邦画、洋画を対象に共同通信文化部記者が執筆した。巻頭で映画担当記者の仕事と、映画評の役割について解説し、巻末には映画作品名、監督名、俳優・声優名、本文中のキーワードなどの索引を付した。

     共同通信の正式な名称は「一般社団法人共同通信社」といい、全国の新聞社と放送局が加盟社、契約社となって運営されている報道機関である。政治、経済、行政、国際問題、事件、事故、スポーツ、科学、文化など、世界で日々起こるあらゆる事象を取材し、硬軟の記事を24時間配信している。本書に収めた映画評も配信記事の一つで、新聞の芸能面で掲載されることを想定したものだ。

     文化部が担当する映画関係の記事には、監督や俳優へのインタビュー、注目作の公開などの話題、アカデミー賞やカンヌ、ベネチア、ベルリンといった国際映画祭の報道、映画関係者の訃報、そして映画評がある。これらの記事は文化部芸能班に所属する映画担当記者が担当している。一般紙に配信するため、年齢や関心が異なる不特定の読者に向けてできる限り分かりやすく書かなければならない。同時に、映画評には記者の主観も盛り込まれたコラムという性格があるため、それぞれの評の末尾には執筆記者の1字署名を付けて配信している。映画記者の仕事の詳細は「解説」に譲るが、評が独りよがりにならないために、記者のセンスと知識、筆力が重要であることは言うまでもない。

     なお本書は配信時に読者が目にした映画評をそのまま記録することを原則としており、一部の評に監督名を補ったほかは、加筆修正はしていない。また2009年6月以降本文中の数字が漢数字から洋数字に変わったことや、2010年の常用漢字改定に伴う表記変更に関しても配信時のままとし、現時点からの表記統一はしていない。

     評を執筆する映画は基本的に全国で上映される作品の中から選ぶ。単館上映の作品、自主製作の作品は読者が観賞する機会が限られるため、記事として取り上げる場合は週1本の定期的な映画評ではなく、単独の記事や識者の寄稿などで配信することが多い。

     通信社の重要な仕事は日々の出来事を速報し、解説し、検証することである。言い換えれば、記事とは事象と読者をつなぎ、時代の諸相を浮かび上がらせるものだ。映画評もまた、映画の送り手と新聞読者をつなぎ、作品が公開された時代を反映している。

     本書「映画評大全」は、共同通信が配信している文化関連記事を分野別に編み直すシリーズの3冊目に当たる。前2冊の「書評大全」(1998年から2014年までの約5000編を収録)、「追悼文大全」(1989年から2015年までの約770編を収録)と同様、1冊にまとめることによって新たな読み方と価値が生まれるだろう。

     本書は20世紀末から21世紀初めの日本で公開された映画の記録であり、私たちが何を楽しみ、何によって感情を豊かにしてきたのかを後世に伝える役割を担っている。ぜひ、関心のある映画、思い出の映画から読み始め、時空を超えてさまざまなストーリーが繰り出される映画の興奮と感動、爆笑と涙、勇気と慰めを、映画記者の個性とともに読み取ってほしい。それらの作品を実際に見ることでも味わいが増すだろう。本書を読むことと作品を見ることを行き来する人が1人でも増えることを願っている。

     本書所収の映画の製作に携わった方々に敬意を表します。また共同通信加盟新聞社と読者の皆さまにも深く感謝いたします。前2冊に続き、三省堂出版局の飛鳥勝幸部長には索引の作成をはじめ煩雑な実務を的確に進めていただきました。加えて、本書が読者に届くまでにお世話になった多くの方々に御礼申し上げます。

    2016年6月
    共同通信文化部長 杉本 新