三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺
見えない文字と見える文字 文字のかたちを考える
文字のかたちのよりどころ、「見えない文字(字体)」をあぶり出すユニークな発想!
文字のかたちを楽しむ待望の一冊!
- 文字のかたちのよりどころ、「見えない文字(字体)」をあぶり出すユニークな発想。
- 文字のかたちを楽しむ本。
- 目次:「ツ」のような「シ」の正体/ギャル文字が教えてくれること/漱石は誤字ばかり書いたのか/くずし字にも字体はあるのか/「子ブタの貯金箱」の説明書を書いたのは誰だ/他 8章。
特長
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あとがき
本書執筆のきっかけはいろいろありますが、一つは、2010年12月の早稲田大学での『早稲田日本語研究』創刊20周年記念シンポジウムです。私は、光栄なことにパネリスト3人のうちの一人として声をかけていただきました。日本語研究の面白さを、「正しい」日本語と現実の日本語というテーマで少し話してほしいといわれ、これまで大学で講義してきたことなどをかき集め、「聞こえない音、見えない文字、気づかないことばのきまり」と題してお話ししました。ところが、この機会に話しておきたいということがたくさんあり、恥ずかしいことに予定の時間を超過して、しかもまだ話が終わらなかったのです。そのシンポジウムの内容は、参考文献に挙げた『早稲田日本語研究』第20号をご覧いただければいいのですが、ともかく、話し足りなかったという思いが私の中に残ってしまいました。また、話せたことについても、もっと多くの人に聞いていただきたいという気持ちが湧いてきました。本書は、私が多くの人にお話ししたいことのうち、「見えない文字」に関わることについてまとめたものです。
私の文字のかたちへの興味が決定的になったのは、神戸山手女子短大に就職した年です。秋永一枝先生のご指導のもと声点の資料を見ていた私は、女子大学生たちの丸文字の洗礼を受け、「いけのくんへの手紙」に出会いました。平声点、丸文字、鏡文字の三つが、私を「見えない文字(実現している文字のよりどころ)」へと強く誘いました。
秋永先生には、御礼とともにお詫びを申し上げねばなりません。大学入学以来ずっと先生にご指導いただいてきました。先生からご指導いただいたことの中心は、私が話したいことのもう一つ「聞こえない音」の方なのですが、そちらが後回しになってしまいました。申し訳ございません。本書の第6章では声点を取り上げましたが、かえって先生を心配させてしまうような内容です。出来の悪い教え子ですが、今後とも、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
山手短大の女子学生たちとの出会いも貴重でした。たいへん遅くなりましたが、お礼を言いたいと思います。山手短大、愛媛大学、甲南女子大学、神戸大学の学生の皆さん、おかしな調査に協力してくれてありがとう。
「いけのくんへの手紙」は、入院している池野君へのクラスメートからの励ましの手紙の中の一通です。生まれてすぐ入院した娘と池野君が同室だったことで、出会うことができました。手紙を書いた池野君のクラスメート、池野君、出会わせてくれた娘(よくなってからは、ずっと元気です)に、感謝したいと思います。
あらためまして、文字のかたちの話を多くの人に聞いてもらいたいという私の願いを聞き入れ、全面的に支持・支援してくださった三省堂飛鳥勝幸様に、心より御礼申し上げます。
2013年4月
佐藤 栄作
著者略歴
佐藤 栄作(さとう えいさく)
1957年、香川県三豊郡(現三豊市)生まれ。1985年、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程中退。神戸山手女子短期大学講師、助教授を経て、1996年、愛媛大学教育学部助教授。2001年より同教授。2008年から4年間、附属中学校長を兼任。著書(共著)に『日本語アクセント史総合資料索引篇』(東京堂出版1997)、『同研究篇』(同1998)など。