過去の選考結果-「今年の新語 2022」の選評


「今年の新語2022」選考委員会の様子

1. ベストテンが作りにくい時代

 「新語のベストテンが作りにくい状況が続いている」。選考委員の率直な気持ちです。2023年も世の中を揺るがすような出来事が多く起こりました。でも、それによって、国語辞典に載せたいことばが大幅に増えるかというと、そうとも限りません。

 「今年の新語2023」に寄せられたことばを見ると、投稿数の2位に「国葬」、10位に「キーウ」(ウクライナの首都)、11位に「宗教二世」(新興宗教の信者の子)などのことばが含まれています。世の中の出来事が、投稿の内容に影響を与えていることが見て取れます。

 とはいえ、「国葬」は辞書にすでに項目があり、「キーウ」などの都市名は小型辞典では扱わない場合が多く、「宗教二世」も辞書の項目としてはなじみません。重大なニュースのことばでも、必ずしも〈今後の辞書に採録されてもおかしくないもの〉(イベント趣旨より)とは限らないのです。

 新語のベストテンが作りにくい理由は、もうひとつあります。それは、「昔の新語」とでも言えばいいでしょうか、昔から使われていることばが、今なお古びずに「新語」と意識されている例が多いのです。こうした「昔の新語」は、過去の「今年の新語」ですでにランクインしている場合もあります。

 たとえば、今回「エモい」(心が揺さぶられる感じだ)が投稿数の6位になりました。ところが、「エモい」はすでに6年前の「今年の新語2016」でベストテンの2位に入っています。投稿数12位の「草」も「今年の新語2017」の6位です。「昔の新語」が、今でもなお新しいと感じられていることが分かります。

 そう言えば、世の中はリバイバルブームです。2000年頃の服装が再び「Y2Kファッション」として若い世代に受け入れられています。平成時代のグッズも再評価され、「平成レトロ」ブームが起きています。

 ことばも同様なのかもしれません。Z総研の「Z世代が選ぶ2023上半期トレンドランキング」を見ると、2010年代前半に広まった「それな」(そうだよね)や、遅くとも1990年代にはネット上で顔文字とともに使われた「アセアセ」(汗をかく、焦る様子)などが、若い世代の〈流行った言葉〉に選ばれていました。

 「コロナ時代」もすでに3年続いており、それが新語の少なさに反映しているのか、という気もします。イベントなどが徐々に再開されてはいますが、人々はまだ十分に活動的な気持ちになれないのかもしれません。

 こうした状況下で、「辞書に載せたい今年の新語」を選ぶことができるだろうか。選考委員は少なからぬ不安を感じていました。ところが、激論の末に選ばれたベストテンを見ると、今という時代を映すことばや、これからの時代を予感させることばが並びました。中には「昔の新語」と言えるものも複数ありますが、どうしても捨てがたく、ランキングに入れました。苦心の選考結果を、どうぞじっくり味わってください。

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