5. フレーズを略した「ガクチカ」
6位 ガクチカ
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
がくちか【ガクチカ】〈名〉学生時代に、学業、サークル活動、アルバイトなどで、(とくに)力を入れたこと。多く、就職のための、面接の場面や、エントリーシート(=学生が雇用主がわに提出する身上書)で話題になる。《由来》「学生時代に力を入れたこと」の「学」と「力」の先頭二字を組み合わせて「ガクチカ」と略したもの。ひらがなや漢字では書きあらわされない。文や句がもとになったものとしては、ほかに、「鴨か
もがネギを背負し
ょってきた」→「カモネギ」、「あけましておめでとう」→「あけおめ」などがある。
6位の「ガクチカ」は就活用語です。就職面接で問われる「学生時代に力を入れたこと」の略です。
メディアでは10年以上前に現れています。2010年8月26日放送の日本テレビ「news every.」では就職試験を取り上げ、関連して「ガクチカ」にも言及しました。当時はほとんど知られていなかったことばです。
このことばが徐々に知られはじめたのは2010年代後半でした。2023年の「今年の新語」とするには、いささか年数が経っている気もします。ただ、ウェブサイトでの検索数のグラフを見ると、毎年3月(就活解禁の頃)に周期的に現れる山が年々高くなっており、「ガクチカ」はまだまだ普及途上、まさに「昔の新語」と言えます。成長株のことばとして、6位に選びました。
このことばは、「学生時代に力を入れた」というひとつのフレーズを略した点が特徴的です。企業が学生の就職について「親に確認を取る」ことは「オヤカク」と言います。フレーズを略すのが好きなのでしょうか。
7位 一生
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
いっ しょう━[一生][一]生まれてから死ぬまでの間。生涯しょう
がい。「幸福な―・―の お願い〔=一生で一番大切な お願い。大げさに言うことも多い〕・〔副詞的に〕―忘れない・そんなにテレビが好きなら、―見ていなさい」[二]⦅副⦆〔俗〕ずっと。「きょうは ねむくて―ねてた」〔二〇二〇年代に広まった用法。現在や過去のことにも使えるところが[一]と ちがう〕
7位の「一生」は、「生まれてから死ぬまでの間」という意味ならば、どの国語辞典にも載っています。ところが、最近は面白い使い方が広まっています。
たとえば、「推しの動画が尊すぎて一生(=ずっと)見てる」「今日は休日なので一生寝てた」さらには「昨日は友だちの家でお菓子を一生食べてた」などという言い方をするのです。
言い訳ばかりする人に「一生言ってなさい!」と捨てぜりふを言うことは昔からありました。この「一生」は「この先もずっと」という意味です。一方、新しい用法の「一生」は、現在のことや過去のことにも使います。「一生食べてた」と過去形で言われると、従来の感覚では、その人がもう一生を終えたような感じがします。
調べてみると、この言い方は10年以上前からけっこう例があります。それでも、多くの人には目新しさを感じさせるであろう言い方なので、あえて「今年の新語」に記録しておくことにします。
8位 酷暑日
『新明解国語辞典』編集部
こくしょ び3 【酷暑日】一日の最高気温がセ氏四〇度を超える日の称。〔日本気象協会の用語〕
8位の「酷暑日」は、気候変動を示唆する新語のひとつです。従来、暑い日を指す気象用語としては、「夏日」(最高気温が25度以上の日)、「真夏日」(同じく30度以上の日)がありました。ところが、それより暑い日が増えたため、2007年に気象庁が「猛暑日」(同じく35度以上の日)を設けました。インパクトの強い用語でしたが、今は猛暑日が続くこともごく普通になりました。そこで現れたのが「酷暑日」です。
もともと「酷暑日」は最高気温が35度以上の日を言うマスコミ用語でした。ところが、2007年に「猛暑日」ができたため、「酷暑日」は宙に浮くことになりました。2023年になって、日本気象協会(気象庁とは別)は気象予報士にアンケートを取り、最高気温が40度以上の日を「酷暑日」と決めたのです。
知名度は今ひとつですが、これからは酷暑日が増えるのでは、という嫌な予感とともに、8位としました。