3. 「ハルシネーション」に気をつけろ
2位 ハルシネーション
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
ハルシネーション〈名〉[←hallucination]人工知能(AI)が、事実とは異なる情報を生み出してしまうこと。「━を警戒する」《由来》もとは「幻覚」の意。その情報の文体そのものは、もっともらしいので、注意を要する。
2023年を情報技術の面から見ると、これまでとはまるで違う驚嘆すべき光景が現れています。2022 年11 月に米国Open AI 社が公開した生成AI「ChatGPT」は、人間が入力した文章に対して、まるで人間と同じように流暢(りゅうちょう)な文章で答えを返します。世界的に大反響を巻き起こし、公開後2か月のうちにユーザー数は1億人に達しました。2023年4月には、グーグルで「ChatGPT」という語の検索頻度がピークを迎えています。多くの人が実際に体験し、まさしく生成AIの普及元年といった様相を呈しました。
生成AIは、入力された情報を基に、文章や絵、音楽などを生成するAI(人工知能)です。ChatGPTの場合は、ユーザーと対話しながら答えを返すので、「対話型AI」とも言われます。
たとえば、ChatGPTに「生成AIを学生が使うメリットとデメリットを1つずつ述べてください」と求めると、かなり的確に答えてくれます。メリットは「学習内容の理解が深まり、知識の幅が広がる」、デメリットは「自ら調査や批判的思考の機会が減少し、問題解決能力が低下する恐れがある」だそうです。
一方で、生成AIを使う場合に注意すべき重要なポイントがあります。それがベストテンの2位に入った「ハルシネーション」です。英語のhallucination、つまり「幻覚」から来ています。まるで幻覚を生み出しているかのような、事実とは異なる回答のことです。
試みに、「○○大学出身の著名人を10人挙げてください」と求めると、実際にはその大学の出身でない人物を並べることがあります。あまりにも堂々と答えるので、うっかり信じてしまいそうです。ウェブサイトの情報もあわせて参照させた場合、答えはやや改善されますが、なおもハルシネーションが残ります。
生成AIが急速に普及しつつあるこの状況で、「ハルシネーション」は知っておきたい重要な概念だと判断されました。ランキングの2位として申し分ないと考えます。「生成AI」自体はすでに『現新国』第七版にあるために不採用になったことは、すでに述べたとおりです。
もっとも、せっかくなので、『現新国』に載った関連項目の説明をここに掲げておきます。高校生の利用者を意識した、丁寧な説明になっていると思います。
『三省堂現代新国語辞典 第七版』に掲載されているもの
せいせいエーアイ【生成AI】〈名〉条件に応じて、文章・画像・音声などのさまざまなコンテンツを自動生成するAI(人工知能)。[Generative AIの訳語]
チャットジーピーティー【チャットGPT】〈名〉[ChatGPT]アメリカの団体が開発した、人間からの質問に対して自然な回答を行い、要求に応じて長文も作成できるようにふるまう、生成AIの一つ。攻撃性・差別・わいせつなどの不適切な表現を使わないように調整されている。