選評 目次
気づかずに使っている新しい言い方
1. おかげさまで「今年の新語」10周年
「三省堂 辞書を編む人が選ぶ 今年の新語」は今回で10周年を迎えました。記念すべき節目を迎えられたのも、このイベントを応援してくださる皆さまのお力添えのおかげです。心より感謝申し上げます。
2014年に選考委員のひとりが個人的に「今年からの新語」を募集したのが、言わばイベントの前史でした。その年だけの流行語ではなく、「この先も使われそうなことば」を集め、ベスト10を選定しました。ちなみに、その時の上位3語は「ワンチャン」「それな」「あーね」でした。
2015年には三省堂主催で「今年の新語」のイベントが始まりました。その年を代表する日本語で、今後の辞書に見出しとして採録されてもおかしくないものを10語選ぶというのが趣旨です。翌2016年からは選考発表会を開催し、参加者の皆さんとともに、新しく日本語に加わったことばを祝うのが恒例となりました。
この10年間で大賞に選ばれたことばは次のとおりです。「じわる」「ほぼほぼ」「忖度」「ばえる(映える)」「―ペイ」「ぴえん」「チルい」「タイパ」「地球沸騰化」。いかがでしょうか。「懐かしい」というよりは「普段の生活で使っていることば」「今も新しく感じられることば」がいくつもあるのではないでしょうか。
一時的な流行語を選ぶイベントであれば、ランクインしたことばは、年月とともに懐かしく思われてくるはずです。でも、私たちのイベントでは、今後も使われると見込まれる新語を集めた結果、実際に「普通のことば」になったものが多いのです。私たちの見込みはそれほど外れなかったと言えるでしょう。
もっとも、中には「予想に反して、あまり使われていない」と感じられることばもあります。そんなことばも、「この先どうなるか分からない」と期待を込めて観察を続けています。
今回の投稿総数は1,813通でした。中でも目を引いたのは、学校単位で応募してくださったと思われる一括投稿が複数あったことです。「今年の新語」のイベントが、教室のみなさんに現代語について考えていただく契機になったとすれば、大変うれしく思います。
一括投稿の後押しもあってか、「それな」(同意を表す語)は今回の投稿数の7位(20通)でした。このことばは、前述のように2014年の「今年からの新語」の2位に選ばれています。でも、10代の人々にとってはなおも新鮮さを失わず使われているようです。また、「あーね」(これも同意を表す語)は全部で9通投稿されていましたが、やはり2014年の3位に選ばれており、鮮度の落ちないことばと言えます。
なお、今回の投稿数の1位は「50-50(フィフティー・フィフティー)」で、79通でした。大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手が「1シーズン50本塁打・50盗塁」を達成したからです。偉業を象徴することばですが、国語辞典に載せるべきかどうかは迷うところです。他の投稿多数の語は、この選評の末尾に記します。