3. 「ずっこける」だけでなく「横転」
2位 横転
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
おう てん━[横転]⦅名・自サ⦆①左または右のほうへ回転すること。②よこに たおれること。「―事故」③〔俗〕思わず ずっこける(ほど おどろく)こと。「点数 低すぎて―・大―」〔二〇二〇年代に広まった用法〕
2024年に急速に広まった、あるリアクションを表すことばがあります。今回2位に選ばれた「横転」です。
「横転」は、従来はもちろん「横に倒れること」でした。自転車がぬかるみで横転すると、大けがをするかもしれません。注意が必要です。この「横転」が、SNSなどのやりとりでは、何かと言うと使われます。
〈偏差値下がってて横転〉〈1年前も同じこと言ってて横転〉〈推しが可愛すぎて横転〉などなど。実例を見ると、どれも中心には驚く気持ちがあります。ただし、それだけでなく、場合によって落胆する、苦笑する、あきれるといったニュアンスが加わります。従来の俗語で言えば「ずっこける」が一番近いでしょう。
「横転」の広まり方は、ツイッター(X)の投稿頻度からも分かります。各年の11月2日午前0~9時の状況を目視で確認すると、2020~2022年は70~80件程度、2023年は105件だったのが、2024年になると650件に激増しています。誰もが盛大に横転するようになりました。
少しずっこけるだけではもの足りなくなっているのでしょう。「横転」と言えば、「新婚さんいらっしゃい!」(テレビ朝日系)で桂文枝さんが見せた「椅子コケ」(現在は藤井隆さんが継承)がイメージされます。あんなふうに派手に転んでみせたくなるような出来事が、日常生活には多いのかもしれません。
「横転」はいろいろな文で使える汎用性があり、今後はさらに日常語として広まる可能性があります。ただ、現時点では、誰もが知らずに使っている「言語化」のインパクトに一歩を譲ると考え、2位としました。
3位 インプレ
『新明解国語辞典』編集部
インプレ0〔インプレッションの略〕インターネット上のコンテンツで、広告やSNSの投稿などがユーザーによって見られた回数を言う俗称。広告料の支払いの算定など、その効果をはかる指標に使われるが、実際には内容の良否善悪や真偽を裏付けるものではない。「━ゾンビ5〔= SNSでインプレ数を増やすことで得る広告収益のために大量の迷惑投稿を行なうアカウントをののしって言う語〕」
3位には「インプレ」が入りました。「インプレッション」の略で、「インプ」とも言います。「インプレッション」は多くの国語辞典に「印象」の意味で入っていますが、インターネットでは広告表示のこと、特にSNSでは投稿が表示された回数のことを指します。この意味を載せる辞書はまだ多くないようです。
「インプレ」が3位になったのは、主として「インプレゾンビ」が理由です。SNS空間にはびこり、情報伝達を阻害する「インプレゾンビ」とは何なのか。
ことの発端は2023年、ツイッターから名前を変えたXが、インプレによる収益化の仕組みを作ったことでした。条件を満たした上で、投稿が多く人目に触れれば収益化につながる。そう判断した人々が、他人の投稿に無意味な返信を大量に送ったり、注目された投稿と同文の投稿を繰り返したりするようになりました。ゾンビのように増殖し、一向に減らないこれらの投稿や、またその投稿者は「インプレゾンビ」と呼ばれます。
2024年1月の能登半島地震の時には、インプレゾンビによって無意味な大量の情報が流され、正確な災害情報の伝達が妨げられました。人々がSNSによって重要な一次情報を得ている今日、インプレのあり方はこの先も議論になると考え、3位としました。