6. 従来の日本語にも通じる?「顔ない」
10位 顔ない
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
かお な┓・い[顔ない]かほ
-⦅形⦆〔俗〕〈おどろいた/困った/はずかしい〉気持ちだ。「遅刻ちこ
くしそうで―・質問に答えられなくて―」〔二〇二〇年代に広まった ことば。「顔色をなくす」「人に合わせる顔がない」などに通じる語感がある〕
10位の「顔ない」は若い世代を中心に使われていることばです。SNSでは2024年に使用例が増えました。意味はやや曖昧なところがあります。〈遅刻しそうで顔ない〉と言えば「驚いた」「困った」といった感じ。〈質問に答えられなくて顔ない〉は「恥ずかしい」「情けない」といった感じでしょうか。
語源は「顔」と「無い」の単純な複合ですが、従来の日本語を連想させる部分もあります。たとえば、「顔色(かおいろ)をなくす」「顔色(がんしょく・かおいろ)を失う」(ともに、驚きや恥などで青くなる)、「人に合わせる顔がない」「面目ない」(ともに、相手に恥ずかしい)など。さらに昔にさかのぼれば、古語では「面伏(おもてぶ)せなり」(面目ない)ということばもあります。
若い世代が作り出したことばが、伝統的な日本語とどこか通じるのは面白い現象です。ただし、この先意味がきちんと定まって使われるようになるか、少し不安を残すため、10位としておきます。
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選外
界隈
裏金
アニマルウェルフェア
このほか、ベスト10には入りませんでしたが、記録しておく価値のあることばは無数にあります。そのうち3語について「選外」として言及しておきます。
■界隈
投稿数の1位が「50-50(フィフティー・フィフティー)」だったと冒頭に触れましたが、2位はこの「界隈」でした。「新宿界隈」などは従来の使い方ですが、「サブカル界隈」「言論界隈」など「ある分野(の人たち)」の意味で多く使われるようになりました。ただ、『三省堂国語辞典』にこの意味がすでに載っているため、入選の条件を満たしませんでした。
■裏金
投稿数の3位でした。2024年は政治家のパーティー収入が政治資金収支報告書に不記載だった事実が表面化し、「裏金」と強く批判される事態になりました。「裏金」は、辞書では取引や商談の場合を想定した説明に止まる場合も多いのですが、今回まったく新しい意味が現れたとまでは言えないと考えました。
ちなみに、投稿数4位以下のことばは次のとおりです。「闇バイト」「猫ミーム」「BeReal」「それな」「はて?」「メロい」「うますぎやろがい」。このうち「闇バイト」は2023年に10位にランクイン、「それな」は2014年の「今年からの新語」で2位にランクインし、さらに「メロい」は今回ベストテンの6位に入りました。
■アニマルウェルフェア
「動物福祉」と訳されることばです。ペットが飢えたり、傷病にかかったりせずに育てられる、あるいは、家畜が快適な環境で飼育されるなど、動物が大切にされる状態を言います。まだ十分に普及したことばではなく、投稿数も1通でしたが、多くの家庭でペットが家族同様の存在になっている現代、重要な概念になりつつあります。