5. 法律名が先に立項された「公益通報」
7位 公益通報
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
こうえきつうほう【公益通報】〈名・自動サ変〉職場で経験した、同僚、上司等による、法令に違反している行為を、不正目的ではなく、定められた窓口にうったえること。「━者しゃ
」《由来》二〇〇四年公布、二〇〇六年施行の公益通報者保護法は、公益通報した側が不利な扱いを受けないことを定めている。
7位の「公益通報」は、2024年になって注目を浴びた用語です。兵庫県の県民局長が、知事の行為を不適切と告発したのに対し、知事側はこれを中傷であるとして局長を解任しました。局長は当初、文書をマスコミや警察に配付し、解任された後、改めて県の窓口に「公益通報」として文書を提出しました。
一連の出来事の報道から「公益通報」という用語がクローズアップされました。刑法などの法規に違反する行為を知った人が、不正な目的でなく行う内部通報のことです。告発した人は、解雇などの不利益を被ることがないよう、法律によって保護されます。
2004年に公益通報者保護法が公布され、2006年に施行されました。この時は大きな関心が集まり、『大辞林』などの国語辞典にはこの法律名が立項されました。一方、「公益通報」自体は、これまで主な辞書には載っていませんでした。今回、「公益通報」の認知度が上がり、辞書に載るべき用語になったのは間違いありません。
8位 PFAS
『大辞林』編集部
ピーファス1〖PFAS〗〔Per- and Polyfluoroalkyl Substances〕有機フッ素化合物の一部であるペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称。数多くの合成化合物を含む。熱や薬品に強く、水や油をはじく性質から撥水剤・界面活性剤・乳化剤・消火剤・コーティング剤など幅広い用途で使用される。分解されにくい性質から「永遠の化学物質」とも呼ばれる。〔PFASに含まれるPFOS(ピーフォス)、PFOA(ピーフォア)などの一部物質について、人体などへの有害性が指摘され使用規制が進むなか、地下水や河川、土壌や水道水で検出が相次ぎ問題となっている。〕
8位の「PFAS(ピーファス)」はある種の有機フッ素化合物の総称で、一部の物質が有害とされています。自然環境の中で分解されにくく、人体に入ると健康被害を引き起こすことが指摘されています。泡消化剤などに使われたPFASによって、日本を含む世界各地の水源が汚染され、問題化しました。
日本では11月、国による水道水の調査結果が初めて公表され、2024年度は目標値を下回ったといいます。一方、昨年度まで目標値を超えていた地点も多く、人体に残留した成分の影響に懸念が残ります。
「今年の新語」で2018年に7位に入った「マイクロプラスチック」もそうですが、人間が自ら作り出し、この先も人間を苦しめるであろう物質が存在します。「PFAS」の危険性が今後も長く継続するとすれば、国語辞典の見出しに立てることが妥当でしょう。
9位 インティマシーコーディネーター
『大辞林』編集部
インティマシー コーディネーター10〖intimacy coordinator〗
映画やテレビなどで性的なシーンや裸のシーンを撮影する際に、演出側と俳優の間の調整役として働く人。また、その職業。安全かつ快適に、双方合意のもとで撮影が行われるよう、演出側の意図と俳優の意向の両方を確認し、俳優を身体的・精神的にサポートする。
9位の「インティマシーコーディネーター」は近年注目されるようになった職業です。従来、映像や写真の制作現場では、俳優やモデルに裸体や性に関する表現を求めるにあたって、十分な配慮がなされないこともありました。インティマシーコーディネーターは、制作側と出演者側との調整役となり、撮影のサポートなどの業務に携わります。映像・写真の制作現場でもハラスメント防止の意識が高まったことが背景にあります。
この職業の名は、日本では2020年代に知られるようになりました。2024年7月には、邦画の制作現場で俳優がインティマシーコーディネーターを求めたにもかかわらず、監督が応じなかったことが報じられ、批判の対象になりました。こうした報道をきっかけに、この職業がより広く認知されていくと予想します。
「インティマシー」は「親密」の意味ですが、ここでは抱擁・キスなどの親密な行為を指します。カタカナことばは分かりにくいので、国語辞典は原語での用法を踏まえて分かりやすく説明する必要があります。