「今年の新語2023」の選評-全文表示

「今年の新語2023」選考委員会の様子

1. 「たしかに聞いた」ということば多数

 2023年5月、新型コロナの扱いが「5類感染症」に移行し、さまざまな活動が再開されました。そうした世情もあってか、「今年の新語」の投稿総数も大幅に増えました。前回の1,036通に対し、今回は2,207通でした。

 人々が活動的になり、コミュニケーションが増えると、新語も生まれやすくなります。今回は、「たしかによく聞いた、周囲でも話題になった」ということばが多く投稿されたという印象を持ちます。

 たとえば、投稿数最多の「蛙化(かえるか)現象」は、2023年前半に特に話題になりました。好きな相手と両思いになった途端、相手のことが、童話「かえるの王様」のカエルのように気持ち悪く感じられる現象です。

 もっとも、「蛙化現象」の意味は流動的です。交際を始めた後、相手の言動が気になり、カエルのように嫌いになるという現象を言うこともあります。国語辞典に載せるかどうかは様子見としたいところです。「今年の新語」では、今後の辞書に採録されてもおかしくないことばを選ぼうとするため、「蛙化現象」は「選外」として記録しておきます(選外のことばについては、選評の末尾で触れます)。

 投稿数の第2位は「アレ」でした。阪神タイガースの岡田彰布監督がキャンプイン初日、「優勝」を婉曲(えんきょく)に「アレ」と表現したのが最初でしたが、実際に優勝が目前になると、このことばは流行語になりました。とはいえ、「あれ」はすでに国語辞典にあり、〈口にしにくいことを、遠まわしにさすことば〉(『三省堂国語辞典 第八版』)という意味も載っています。2023年の象徴的な流行語ではあるものの、ランキングからは外れました。

 投稿数の上位をさらに見ると、第3位「Chat(チャット)GPT」、第4位「増税メガネ」、第5位「生成AI」と続きます。2023年は生成AIが急激に普及した年です。その状況が投稿内容に現れています。

 ただ、この年は『三省堂現代新国語辞典』(現新国)の第七版が書店に並んだ年でもあります。この辞書は最新のことばを多く採用し、「ChatGPT」「生成AI」も項目に立てています。今回の選考では、すでに『現新国』にあるという理由でランクインしなかったことばがいくつかありました。また、「増税メガネ」は内閣支持率が下落気味の岸田首相につけられたあだ名ですが、侮蔑的な響きもあり、さすがに辞書には載りそうにありません。

 一方、投稿数が同数で第8位だった「地球沸騰化」「かわちい」は、選考委員の評価も高く、「今年の新語2023」の大賞と第3位に選ばれました。詳しくは、この後に述べていきます。

 

 最終的にベストテンにランクインしたことばを見ると、例年になく「硬派なことば」が並んでいることに気づきます。「硬派」とは、ここでは、私たちの今後を考えるにあたって重く受け止めなければならない、ということだと考えてください。ランキングの大半が、笑ってすまされない、深刻なことばで占められました。2023年はそういう年だったという事実の前に立ちすくむ思いです。

2. 危機を明確に警告する「地球沸騰化」

大賞 地球沸騰化

三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2023」大賞「タイパ」

 今回大賞に選ばれたのは「地球沸騰化」でした。このことばは元の発言者が分かっています。

 2023年7月、世界の平均気温が観測史上最も高くなる見込みだという発表がありました。これを受けて、国連のグテーレス事務総長は7月27日に記者会見し、「地球温暖化の時代は終わった。地球沸騰化の時代(the era of global boiling)が始まった」と述べました。

 私たちの生活実感としても、この年の夏は異常な猛暑でした。テレビの気象情報は連日のように「危険な暑さ」について注意を喚起しました。データの上からも、日本の平均気温は気象庁が統計を取り始めてから125年間で最も高くなったことが分かっています。地球の過去10万年で最も暑かった可能性を指摘する報告もあります。

 猛暑だけではありません。日本各地で線状降水帯(積乱雲の帯状の連なり)が発生し、記録的な大雨による大きな被害が続きました。気象庁気象研究所などのチームは、この高温や大雨について地球温暖化の影響を指摘しています。さらに、海外では、大規模洪水のほか、干魃(かんばつ)や森林火災などが人々を脅かしています。

 こうした状況に際し、「このままでは、人間の暮らしやすい環境はなくなってしまうのではないか」と、問題を改めて深刻に捉えた人も多いでしょう。国連事務総長の「地球沸騰化」という表現は、地球が危機的な状況に立ち至ったことを明確に警告するものでした。時代を画する重要なキーワードであり、このことばをおいて大賞はほかにないと判断されました。

 「地球沸騰化」は事務総長個人の一回的な発言です。また、「『地球が沸騰する』という表現は不正確だ」という冷めた見方もあります。しかしながら、今後「地球温暖化」や「気候変動」のテーマについて語られる際には、たとえば〈“地球沸騰化”の世界〉(NHK「クローズアップ現代」2023年11月27・28日)のように、このことばに触れた表現が多くなると予想されます。国語辞典にも必要なことばとなるでしょう。

 現在の新たな段階を最初に「地球沸騰化」と表現した人は、一応グテーレス事務総長と考えられます。ただ、これまで「地球沸騰化」ということばの例は皆無ではありませんでした。たとえば、『東京新聞』2008年3月16日付では、70代男性の投書者が、「温暖化」という快く好ましい語感のことばに代わって、より緊張感のある「地球過熱化」「地球沸騰化」などを提案しています。また、かなり以前、ある雑誌で猛暑を嘆いた書き手が「地球沸騰化」と表現した例を、選考委員のひとりは記憶しています。

 学術的には、今後も「地球温暖化」「気候変動」が使われていくと思われます。それでも、人々の危機意識が本当に深刻であれば、「地球沸騰化」という表現も引用され続けるでしょう。「忘れてたけど、昔、国連事務総長が使っていたね」というように、一時的な危機意識の盛り上がりに終わってしまわないことを祈ります。

3. 「ハルシネーション」に気をつけろ

2位 ハルシネーション

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

ハルシネーション〈名〉[←hallucination]人工知能(AI)が、事実とは異なる情報を生み出してしまうこと。「━‬を警戒する」《由来》もとは「幻覚」の意。その情報の文体そのものは、もっともらしいので、注意を要する。

 2023年を情報技術の面から見ると、これまでとはまるで違う驚嘆すべき光景が現れています。2022 年11 月に米国Open AI 社が公開した生成AI「ChatGPT」は、人間が入力した文章に対して、まるで人間と同じように流暢(りゅうちょう)な文章で答えを返します。世界的に大反響を巻き起こし、公開後2か月のうちにユーザー数は1億人に達しました。2023年4月には、グーグルで「ChatGPT」という語の検索頻度がピークを迎えています。多くの人が実際に体験し、まさしく生成AIの普及元年といった様相を呈しました。

 生成AIは、入力された情報を基に、文章や絵、音楽などを生成するAI(人工知能)です。ChatGPTの場合は、ユーザーと対話しながら答えを返すので、「対話型AI」とも言われます。

 たとえば、ChatGPTに「生成AIを学生が使うメリットとデメリットを1つずつ述べてください」と求めると、かなり的確に答えてくれます。メリットは「学習内容の理解が深まり、知識の幅が広がる」、デメリットは「自ら調査や批判的思考の機会が減少し、問題解決能力が低下する恐れがある」だそうです。

 一方で、生成AIを使う場合に注意すべき重要なポイントがあります。それがベストテンの2位に入った「ハルシネーション」です。英語のhallucination、つまり「幻覚」から来ています。まるで幻覚を生み出しているかのような、事実とは異なる回答のことです。

 試みに、「○○大学出身の著名人を10人挙げてください」と求めると、実際にはその大学の出身でない人物を並べることがあります。あまりにも堂々と答えるので、うっかり信じてしまいそうです。ウェブサイトの情報もあわせて参照させた場合、答えはやや改善されますが、なおもハルシネーションが残ります。

 生成AIが急速に普及しつつあるこの状況で、「ハルシネーション」は知っておきたい重要な概念だと判断されました。ランキングの2位として申し分ないと考えます。「生成AI」自体はすでに『現新国』第七版にあるために不採用になったことは、すでに述べたとおりです。

 もっとも、せっかくなので、『現新国』に載った関連項目の説明をここに掲げておきます。高校生の利用者を意識した、丁寧な説明になっていると思います。

『三省堂現代新国語辞典 第七版』に掲載されているもの

せいせいエーアイ【生成AI】〈名〉条件に応じて、文章・画像・音声などのさまざまなコンテンツを自動生成するAI(人工知能)。[Generative AIの訳語]  

チャットジーピーティー【チャットGPT】〈名〉[ChatGPT]アメリカの団体が開発した、人間からの質問に対して自然な回答を行い、要求に応じて長文も作成できるようにふるまう、生成AIの一つ。攻撃性・差別・わいせつなどの不適切な表現を使わないように調整されている。

4. 「かわちい」は感情を主観的に表す

3位 かわちい

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

かわち・いかは
ちい
⦅形⦆〔俗〕かわいい。「━デザイン・こんな自分が━」〔二〇二〇年代初めに特に広まった ことば〕

 3位の「かわちい」は、「かわいい」をちょっとふざけて言ったことばです。「○○のイラスト、かわちいなあ」「かわちいコーデ」「自分がかわちい」などと使います。ティックトックが発祥とも言われます。

 「かわちい」の増加の様子は、たとえばツイッター(X)に1日に出現する回数の変化を調べると分かります。例そのものは10年以上前からありますが、増えてきたのは2010年代後半からです。2020年代にはさらに増え、2023年に特に急激に増えました。11月現在では1日に約4,000回程度つぶやかれています。

 「かわいい」の「いい」が「ちい」になる理由は、「ちい」が子どもっぽくてかわいらしいから、とも言えます。ただ、それだけでは説明として不十分です。「ばっちい」や「みみっちい」はかわいらしくないからです。

 子どもが使う「うれちい」「おいちい」などの「ちい」は、「しい」が変化したものです。「しい」がつく形容詞には、「楽しい」「恐ろしい」など、感情を主観的に表すことばが多く含まれます。

 そう考えると、「うれちい」「おいちい」などと同じ語尾を使うことで、「かわちい」は「心からかわいいなあと思う」と、感情を強めた表現にしていると考えられます。

 「かわいい」は若い世代の基本語のひとつですが、そこに小さな、しかし確実な変化が訪れているところに注目し、3位に選びました。硬派なことばが並ぶランキングの中で、「かわちい」は清涼剤になっています。

4位 性加害・性被害

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

せい かがい[性加害]性暴力など、性的な害をあたえること。「━をおこなう・━を受ける」(↔性被害ひが

せい ひがい[性被害]性暴力など、性的な害を受けること。「━に遭
  
う・━を受ける」(↔性加害)

 4位の「性加害・性被害」は非人間的な行為に関係することばですが、重要な概念と考えて選びました。

 2023年には大手芸能プロダクションの創業者の性加害行為が大きく報道されるなど、性加害・性被害の問題に注目が集まりました。ただし、単に注目された用語だからランクインさせたわけではありません。「性加害」も「性被害」も、以前から広く使われてきた印象がありますが、実はここ数年急速に一般化したことばです。特に「性加害」はこれまで例が多くありませんでした。主要な国語辞典にはどちらも載っていません。

 従来、「セクハラ」「痴漢」「性暴力」(またはその被害)などの表現は一般的でしたが、それらすべてを含む表現が私たちの身近には用意されていませんでした。ところが、「性加害・性被害」ということばが一般化したことにより、性に関する多様な加害・被害をカバーした議論ができるようになりました。

 これはちょうど、1980年代末に「セクハラ」(セクシュアルハラスメント)ということばが一般化した状況に似ています。「セクハラ」ということばによって、性的な発言や身体接触など、性や性別に関する嫌がらせを広く議論の対象にすることができるようになりました。

 「性加害・性被害」ということば自体には、際立った特徴はありません。言わば地味なことばですが、性に関する人権侵害を議論するために不可欠な語句として、今の時代に迎えられたのです。

5. 体裁を取り繕う「○○ウォッシュ」

5位 ○○ウォッシュ

『新明解国語辞典』編集部

ウォッシュ (造語)〔wash〕 世間に知られては都合が悪いことや不正を糊塗し覆い隠す意図をもって、自らの善行を吹聴し、言い立てること。ウォッシングとも。「グリーン━‬5〔= 環境や健康に対して実際には効果がないにもかかわらず、いかにも環境に配慮し、効果があるかのように見せかけること〕・ホワイト━‬5〔= 汚れを覆い隠すために表面を白く塗りつぶすことから、うわべをつくろい、ごまかすこと〕」

 5位の「○○ウォッシュ」は、企業などが批判をかわすために体裁を取り繕う活動を指します。もともと、「しっくい(で白く塗る)」という意味の「whitewash」という英語があり、「ごまかし」「体裁を繕う」の意味が派生しました。さらに「wash」を用いて、実体の伴わない見せかけの活動を指すようになりました。

 英語では1980年代末に「greenwash」が現れました。環境にダメージさえ与えていながら、環境保全に積極的であるかのように見せる活動です。21世紀には日本語でも「グリーンウォッシュ」が広まり、特に2020年代によく目にするようになりました。他にも、国連活動に参加してイメージを取り繕う「ブルーウォッシュ」(国連のシンボルカラーにちなむ)、LGBTに寛容であるかのように見せる「ピンクウォッシュ」(同性愛者のシンボルカラーにちなむ)、SDGsの達成に積極的なように見せる「SDGsウォッシュ」などが指摘されます。見せかけだけの活動に厳しい目が向けられる現代、「○○ウォッシュ」という造語法は増えると予想されます。

6位 アクスタ

『大辞林』編集部

アクスタ0〔アクリル-スタンドの略〕アクリル樹脂製の板に、アニメ・ゲーム・漫画等のキャラクターや人物写真などを印刷したもの。台座に立てて鑑賞したり、写真を撮ったりして楽しむ。

 6位の「アクスタ」は「アクリルスタンド」の略語です。アニメやアイドルなどのショップで、人物などの写真や絵を印刷した、透明なアクリル板のグッズを見かけるようになりました。土台にはめこんで立たせることができます。ごく簡単な作りのグッズですが、広まったのは意外に最近です。グーグルでの検索頻度をウェブサイト「グーグルトレンド」で調べると、「アクスタ」は2010年代後半から検索数が増えています。2022年9月には男性アイドルたちの「アクスタストア」がオンライン限定でオープンし、ファンによるアクスタの争奪戦を指す「アクスタ戦争」ということばがSNSで飛び交いました。

 2020年代に入り、「推し活」(ファンとして応援する活動)ということばがすっかり定着しました。アクスタを戸外の風景とともに写真に撮り、SNSに投稿することも盛んになりましたが、これも「推し活」の一環でしょう。「推し活」の裾野が広がったことが、比較的安価で買えるアクスタの普及に貢献しているのかもしれません。

7位 トーンポリシング

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

トーンポリシング〈名〉[←tone policing]議論の中身ではなく、その口調や態度などを問題として指摘し、話を本題からそらすこと。「悪賢い━‬にひっかかる」《由来》toneは「口調、音調」、policingは「警察による警備や規制」の意。

 7位の「トーンポリシング」は、相手の主張に対し、その中身を問題にしないで、話し方や態度などを批判して論点を逸らすことを言います。「ポリシング」は磨くこと(polishing)ではなく、警察のように取り締まること(policing)です。つまり、「発言のトーンの取り締まり」ということです。

 責任を問われた企業の代表が、記者会見の場で、強く迫る質問者たちに対して「落ち着いてお願いします」と述べたことがトーンポリシングではないかと指摘されました。SNSの議論でも、トーンポリシングによる論点のすり替えについて、批判する意見を見ることが少なくありません。

 議論や話し合いは穏やかに行うのが基本です。とはいえ、問題の当事者が必死に訴えるあまり、トーンが強くなることもあります。そのことを論点逸らしに利用してはならないと、私たちは自戒すべきでしょう。

6.「リポスト」が一般名称になった

8位 リポスト

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

リポスト⦅名・他サ⦆〔repost=再投稿とう
こう
〕〘情〙〔SNSで〕ほかの人の投稿を、改めて自分のアカウントで紹介しょう
かい
すること。「気に入った絵を━する」

 8位の「リポスト」は、日本語で言えば「再投稿」ですが、SNSでは他の人が投稿した内容を、自分のアカウントに表示させて紹介することを言います。インスタグラムでは以前からの用語でしたが、フェイスブックでは「シェア」と呼び、かつてのツイッターでは「リツイート」と呼んでいました。

 ところが、2023年7月24日、ツイッターはブランド名を唐突に「X」に変更しました。主要な情報インフラの呼称変更に、困惑と混乱が広がりました。「ツイート」は「ポスト」となりましたが、「ツイッタラー」「ツイ消し」「パクツイ」などの派生語も多く、それぞれの呼び名がどう変わるのか、現時点ではまだ分かりません。

 「ツイッター」はこれまで小型国語辞典の項目にもありましたが、簡単に名称が変わってしまう現実を見ると、今後、個別のSNSの用語を項目に立てていいのかどうか、慎重に検討する必要を感じます。ただ、「リポスト」の名称は、これで複数の主要なSNSで使用されることになり、言わば一般名称という位置づけになりました。

9位 人道回廊

『大辞林』編集部

じんどう かいろうじんだう
くわいらう
5【人道回廊】 〔humanitarian corridor〕武力紛争の際、民間人の避難や人道支援物資の輸送などのために一時的に設ける、戦闘を停止し安全を保証する経路。当事者間の協議や、国際社会の要求によって設ける。

 9位の「人道回廊」(humanitarian corridor)は、戦闘地域から民間人を避難させる経路(脱出ルート)のことです。新聞では1990年代から使用例が見られますが、一般に知られたことばではありませんでした。

 2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって間もない3月、当事者間で人道回廊の設置が合意されました。この時、「人道回廊」という概念を初めて知った人も多かったはずです。もっとも、その後まともに機能していないという報道も目立ちました。このような用語は、ウクライナ侵攻のような異常な状況でもないかぎり、必要にならないことばだと考え、前回の「今年の新語2022」ではランクインしませんでした。

 ところが、2023年10月、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスとの間に軍事衝突が起こり、ガザ地区に人道回廊が開設されました。ウクライナとガザ、2つの地域における悲惨な状況は、「人道回廊」が私たちにとって特殊なことばでないことを知らしめました。小型国語辞典に載ってもおかしくないことばといえます。

10位 闇バイト

『新明解国語辞典』編集部

やみ バイト3【闇バイト】 (主としてSNSなどインターネット上で)アルバイトとして募集した者を脅してやめられなくしたうえで、特殊詐欺や強盗などの実行役をさせる犯罪行為。反社会的集団が、自ら手を汚すことなく犯罪を行なうきわめて卑劣な行為。

 10位の「闇バイト」は、特殊詐欺を手伝うなど、犯罪行為に協力するアルバイトのことです。2023年1月、闇バイトのメンバーらに海外から特殊詐欺を指示していた人物が逮捕され、このことばはたちまち知られるようになりました。SNSで「高収入のバイト」などという誘い文句で人手を集めるのが常套(じょうとう)手段です。

 「闇バイト」は、「闇営業」「闇サイト」などと使う「闇」(社会やルールに反してひそかに行われる)に「バイト」がついただけの単純なことばです。闇バイトが割に合わないことも明らかであり、消えていって当然のことばのようにも思われます。ところが、実際には、この種のバイトへの勧誘はSNSで今日も盛んに行われています。若い人々などを、その自覚もないままに犯罪に引き入れてしまう危険なバイトであり、存在を無視することはできません。国語辞典で扱う場合は、危険性が分かる説明が必要となるでしょう。

*    *    *

選外 

オーバーツーリズム

蛙化現象

グローバルサウス

生成AI

近しい

 今回、惜しくもランクインはしなかったものの、選考委員が注目したことばをいくつか「選外」として示しておきます。まず、本文で触れた「蛙化現象」「生成AI」の2語。

 さらに、新型コロナが「5類」に移行した時期から、観光地で見られるようになった「オーバーツーリズム」や、G7広島サミットで連携強化が議題となった「グローバルサウス」、そして、「物との関係が近い」の意味で使用例が多く見られるようになった「近しい」。これらの語にはランクインしてもおかしくないものも含まれますが、2023年刊行の『現新国』――すなわち『三省堂現代新国語辞典 第七版』にすでに項目があるため、選外となりました。ここに、その項目の語釈を紹介しておきます。

『三省堂現代新国語辞典 第七版』に掲載されているもの

オーバーツーリズム〈名〉[overtourism]観光客の過剰な集中による弊害。観光公害。 

グローバルサウス〈名〉[Global South][南半球の]発展途上国や新興国。[対]グローバルノース

ちかし・い【近しい】〈形〉❶[人との]関係が近い。「わりと―間柄・被害者に―人物の犯行・近しく思う(=親近感を持つ)」❷[物との]関係が近い。縁遠くない。「フットサルはサッカーに―スポーツだ」[語源]もと、ク活用の文語形容詞「近し」を、「親し」のようにシク活用で使うようになったもの。

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