過去の選考結果-「今年の新語 2023」の選評

6. 「リポスト」が一般名称になった

8位 リポスト

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

リポスト⦅名・他サ⦆〔repost=再投稿とう
こう
〕〘情〙〔SNSで〕ほかの人の投稿を、改めて自分のアカウントで紹介しょう
かい
すること。「気に入った絵を━する」

 8位の「リポスト」は、日本語で言えば「再投稿」ですが、SNSでは他の人が投稿した内容を、自分のアカウントに表示させて紹介することを言います。インスタグラムでは以前からの用語でしたが、フェイスブックでは「シェア」と呼び、かつてのツイッターでは「リツイート」と呼んでいました。

 ところが、2023年7月24日、ツイッターはブランド名を唐突に「X」に変更しました。主要な情報インフラの呼称変更に、困惑と混乱が広がりました。「ツイート」は「ポスト」となりましたが、「ツイッタラー」「ツイ消し」「パクツイ」などの派生語も多く、それぞれの呼び名がどう変わるのか、現時点ではまだ分かりません。

 「ツイッター」はこれまで小型国語辞典の項目にもありましたが、簡単に名称が変わってしまう現実を見ると、今後、個別のSNSの用語を項目に立てていいのかどうか、慎重に検討する必要を感じます。ただ、「リポスト」の名称は、これで複数の主要なSNSで使用されることになり、言わば一般名称という位置づけになりました。

9位 人道回廊

『大辞林』編集部

じんどう かいろうじんだう
くわいらう
5【人道回廊】 〔humanitarian corridor〕武力紛争の際、民間人の避難や人道支援物資の輸送などのために一時的に設ける、戦闘を停止し安全を保証する経路。当事者間の協議や、国際社会の要求によって設ける。

 9位の「人道回廊」(humanitarian corridor)は、戦闘地域から民間人を避難させる経路(脱出ルート)のことです。新聞では1990年代から使用例が見られますが、一般に知られたことばではありませんでした。

 2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって間もない3月、当事者間で人道回廊の設置が合意されました。この時、「人道回廊」という概念を初めて知った人も多かったはずです。もっとも、その後まともに機能していないという報道も目立ちました。このような用語は、ウクライナ侵攻のような異常な状況でもないかぎり、必要にならないことばだと考え、前回の「今年の新語2022」ではランクインしませんでした。

 ところが、2023年10月、イスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスとの間に軍事衝突が起こり、ガザ地区に人道回廊が開設されました。ウクライナとガザ、2つの地域における悲惨な状況は、「人道回廊」が私たちにとって特殊なことばでないことを知らしめました。小型国語辞典に載ってもおかしくないことばといえます。

10位 闇バイト

『新明解国語辞典』編集部

やみ バイト3【闇バイト】 (主としてSNSなどインターネット上で)アルバイトとして募集した者を脅してやめられなくしたうえで、特殊詐欺や強盗などの実行役をさせる犯罪行為。反社会的集団が、自ら手を汚すことなく犯罪を行なうきわめて卑劣な行為。

 10位の「闇バイト」は、特殊詐欺を手伝うなど、犯罪行為に協力するアルバイトのことです。2023年1月、闇バイトのメンバーらに海外から特殊詐欺を指示していた人物が逮捕され、このことばはたちまち知られるようになりました。SNSで「高収入のバイト」などという誘い文句で人手を集めるのが常套(じょうとう)手段です。

 「闇バイト」は、「闇営業」「闇サイト」などと使う「闇」(社会やルールに反してひそかに行われる)に「バイト」がついただけの単純なことばです。闇バイトが割に合わないことも明らかであり、消えていって当然のことばのようにも思われます。ところが、実際には、この種のバイトへの勧誘はSNSで今日も盛んに行われています。若い人々などを、その自覚もないままに犯罪に引き入れてしまう危険なバイトであり、存在を無視することはできません。国語辞典で扱う場合は、危険性が分かる説明が必要となるでしょう。

*    *    *

選外 

オーバーツーリズム

蛙化現象

グローバルサウス

生成AI

近しい

 今回、惜しくもランクインはしなかったものの、選考委員が注目したことばをいくつか「選外」として示しておきます。まず、本文で触れた「蛙化現象」「生成AI」の2語。

 さらに、新型コロナが「5類」に移行した時期から、観光地で見られるようになった「オーバーツーリズム」や、G7広島サミットで連携強化が議題となった「グローバルサウス」、そして、「物との関係が近い」の意味で使用例が多く見られるようになった「近しい」。これらの語にはランクインしてもおかしくないものも含まれますが、2023年刊行の『現新国』――すなわち『三省堂現代新国語辞典 第七版』にすでに項目があるため、選外となりました。ここに、その項目の語釈を紹介しておきます。

『三省堂現代新国語辞典 第七版』に掲載されているもの

オーバーツーリズム〈名〉[overtourism]観光客の過剰な集中による弊害。観光公害。 

グローバルサウス〈名〉[Global South][南半球の]発展途上国や新興国。[対]グローバルノース

ちかし・い【近しい】〈形〉❶[人との]関係が近い。「わりと―間柄・被害者に―人物の犯行・近しく思う(=親近感を持つ)」❷[物との]関係が近い。縁遠くない。「フットサルはサッカーに―スポーツだ」[語源]もと、ク活用の文語形容詞「近し」を、「親し」のようにシク活用で使うようになったもの。

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