「今年の新語 2025」の選評

6. クマと人との共生は可能か

10位 緊急銃猟

『大辞林』編集部

きんきゅう じゅうりょうきんきふ
じゆうれふ
5【緊急銃猟】クマやイノシシ等の害獣が人の日常生活圏に侵入した際に、危害を防止するために緊急に行う銃猟。〔近年のクマによる人身被害の増加に際して、2025年(令和7)鳥獣保護管理法の改正によって制度化。住民の安全確保のうえ、市町村長の判断で発砲を認める〕

 10位の「緊急銃猟」は深刻化するクマ被害と密接に関係します。2025年には全国のクマの出没件数が急増し、年度の上半期(4月~9月)だけで初めて2万件を超えました。市街地にまでクマが現れて人を襲うニュースが、10月以降連日のように報道されました。市街地のクマは「アーバンベア」という用語でも呼ばれています。

 この事態を見越して、すでに4月に改正鳥獣保護管理法が国会で可決され、9月から施行されました。この法律の中に新しく定められたのが「緊急銃猟」です。アーバンベアが出没した際、市町村長の判断で銃猟(猟銃を使った駆除)が可能になりました。

 「猟銃」は知っていても、文字を入れ替えた「銃猟」は初耳だという人も多いかもしれません。この緊急銃猟だけでは問題は解決しないでしょう。クマと人の共生をどう図っていくか、長期的な課題になりそうです。

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選外 

今これ

チャッピー

取適法

 このほか、選考委員会で議論にはなったものの、ベストテンには入らなかった語句がいくつかあります。そのうち3語を「選外」として記録しておきます。

 ■今これ 

SNSで「今こんな状態だ」と伝えたいときに使うことばです。「これ」の具体的な内容は添付画像(ミーム)などで示します。たとえば、「明日テストなのに勉強してなくて今これ」と書いて「バンザイ(降参)をしている人」の画像を添える、といった具合です。
 文字だけでなく写真や絵が添えられることで、初めて完結する表現です。その点に新しさがあります。似た言い方に「今ここ」があり、「現在、状況がどの段階まで進んでいるか」を表すのに使います。ただ、こちらは文字だけでも十分に伝わりそうです。


 ■チャッピー 

投稿数7位(26通)のことばです。生成AIの中でもよく使われているChatGPTは、若い世代の間ではこんな愛称で呼ばれるようになりました。「チャットジーピーティー」なら「チャッティー」でもよさそうですが、語の途中の「ピー」を使っているのが特徴的です。響きが可愛らしいからでしょう。AIを搭載したロボットの出てくる米映画「チャッピー」とは関係なさそうです。
 かなり浸透している呼び名ですが、固有名詞なので、国語辞典には採用しにくいことばです。


 ■ とり てき

2026年1月に施行予定の「中小受託取引適正化法」の略です(旧「下請法」を改正したもの)。下請けなど、受注者を守る仕組みを作る法律で、発注者が一方的に代金を決定することなどを禁じています。多くの企業に関係する大切な法律です。もっとも、ことばの面に関する私たちの議論は、「とりてき」の読み方が訓読みと音読みのまぜこぜで面白い、という程度にとどまりました。

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