「今年の新語 2025」の選評

5. 「共連れ」にいっそう注意を

7位 共連れ

『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

ともづれ【共連れ】〈名〉(オートロックなどのように)進入が認められている人だけが入れる所に、入ることができない立場の人が一緒にまぎれて入ってしまう行為。「━防止対策」《参考》違法ではない場合もあるが、不安をかき立てたり、犯罪を構成したりする場合もあることから、近年、問題となっている。

 7位の「共連れ」はセキュリティー用語です。オートロックの建物に入る人の後ろから、無関係の侵入者が続いて一緒に入る手口のことです。2025年8月の神戸での殺人事件をきっかけに問題となりました。

 「共連れ」は昔から「一緒に行動すること(人)」「道連れとなること(人)」の意味で使われてきました。たとえば、「共連れもなく出かける」のように使います。セキュリティー用語としても、1990年代の専門雑誌には使われた例があります。したがって、最近できたことばとは言えません。

 ただ、今回の事件が起こるまで、「共連れ」はさほど知られた用語ではありませんでした。オートロックのマンションなどに出入りする際、部外者が侵入しないかと思いつつ、深く考えなかった人も多いはずです。

 事件を契機に、この手口の名前を知った人は、建物の出入りにいっそう注意するようになったのではないでしょうか。これも、ことばによって問題が明らかにされた一例と言えます。

8位 体験格差

『大辞林』編集部

たいけん かくさ 5【体験格差】家計の苦しさから、子供にスポーツや習い事、旅行などの機会を与えられないなど、子が得られる体験に、親の社会状況や経済状況によって生じる格差。

 8位の「体験格差」は子どもたちの間に起こりうる格差の問題です。子どもの家庭環境などによって、スポーツや文化活動などの体験を自由にできる子とできない子の間に格差があるというのです。

 このことばは、新聞各紙では21世紀に入ってからちらほら出てきますが(最古例は2008年の『琉球新報』)、よく使われるようになったのは2024年前後からです。この年、今井悠介さんの『体験格差』(講談社現代新書)が刊行されました。それによると、調査対象とされた体験が直近1年間でゼロだった小学生は、世帯年収600万円以上の世帯では1割程度なのに対し、300万円未満の世帯では3割近くに上っているということです。

 「子ども時代は、いろいろな楽しいイベントに参加できて当然」といった思い込みは、「体験格差」ということばによって打ち砕かれます。学校以外の体験から学ぶ機会を奪われている子どもが多くいるのです。存在するのに見えなかった問題を、このことばは鮮明に照らし出しています。

9位 夏詣

『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

なつ もうで[夏詣]-ま
うで
〔「初詣」に対して〕夏〔特に七月一日以降〕に神社や お寺へ お参りすること。[由来]二〇一四年に東京都台東区の浅草神社が提唱、しだいに広まった。

 9位の「 なつ もうで 」は風流な語感のあることばです。ただ、伝統的な日本語ではなく、ここ10年ほどの間に全国に広まった新語です。2014年に東京の浅草神社が提唱した行事の呼び名で、初詣から半年たった節目(7月1日以降)に、神社やお寺にお参りするというものです。

 たしかに、年末年始には社寺に大勢の人が集まりますが、夏にお参りするというイメージはあまりありません。そこで「初詣」と韻を踏んだ「夏詣」の習慣を広く定着させようということでしょう。

 参加する社寺は、2018年7月の資料ではまだ100に達していませんでしたが、2025年11月現在では605を数えます。この調子ならば、夏のおなじみの風景になる日も遠くないはずです。白い日傘にネッククーラーとハンディファンを携えた参拝客が集まるようになるでしょう。

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