
選評 目次
見えにくかったものが見えてきた
1. ことばは目の前で音もなく変わる
2025年は昭和元年から数えて100年に当たります。この100年間に、日本は大戦や大規模災害、経済の浮沈などを経験しました。戦前と戦後では人々の暮らしも、考え方も、そしてことばも激変しました。その後はどうでしょう。昭和から平成、平成から令和へと移る中で、ことばは一時に激変するというよりは、静かに、しかし確実に変化してきました。10年と言わず、1年の間にもことばは変わります。その変化の一端をつかみたい──というのが「今年の新語」のねらいでもあります。
今回(2025年)は全部で延べ2,378通の投稿をいただきました。ここ5年間で投稿数が最も多く、関係者一同喜んでいます。書店の応募箱からの投稿や、図書館でポスターをご覧になった方からの投稿も増えてきました。学校の先生が主導してくださったと思われる投稿も目立ちました。多くの方々のご協力によって、年末の恒例イベントとして定着してきていることを実感します。
投稿語を見ると、2025年を反映したことばが多く含まれています。大阪・関西万博のマスコット「ミャクミャク」(投稿数2位)、米価高騰に関連する「備蓄米」「古古古米」(投稿数5位・8位)、米大統領による「トランプ関税」(投稿数9位)など。日常よく使われるようになった「○○界隈(かいわい)」「メロい」(投稿数1位・3位)も多く投稿されました。ただし、この2語はすでに前回(2024年)にそれぞれ選外・6位としたことばです。
こうした多くの投稿語と、選考委員自身の観察したことばの中から、「今後定着すると見込まれ、国語辞典に載ってもおかしくないことば」を10語選びました。いつもながら、とても難しい作業でした。
「今回は文句なくこれだね」と、議論する前から分かっていることばが多ければいいのですが、なかなかそうはいきません。議論は白熱しました。たとえば、大賞に選んだ「ビジュ」は、動画投稿アプリなどで話題になりましたが、「以前からあることばではないか」「『ビジュアル』を略しただけ」と見ることもできます。それでも、そこに人々の意識の変化が読み取れると、私たちは考えました。
戦後を代表する国語辞典編纂者・見坊豪紀は〈ことばは目の前で音もなく変わる〉(『ことばの海をゆく』)と述べています。「特に新語・新用法でもないだろう」と見過ごしがちなことばの中に、しばしば注目すべき変化が現れているということです。そうした変化を何とかすくい取ろうと努めました。
ランクインしなかった投稿語の中にも、「平凡そうだが、確かに新しさがある」と気づかされることばが少なくありませんでした。投稿者の皆さんの鋭い言語感覚に改めて驚かされました。
今回選んだ10語は、一見地味に見えても、そのことばが存在することによって、もやもやした思いが言語化できたり、見えにくかった問題が見えてきたりするものが多いと感じます。1語ずつ解説していきましょう。
