4. 非対称的な取り扱いへの警鐘
4位 しゃばい
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
しゃば・い〈形〉冴さ
えない。なんの変哲へん
てつもない。つまらない。気前がよくない。「せっかく盛り上がっているのに、このあと付き合わないなんて、━よ・ゲーセンの無料サービスにしてはしゃばくないか」《由来》もともとは、一九八〇年代の、いわゆる「ヤンキー」の言葉だったが、近年、再流行した。平凡で通常の世の中を意味する「娑婆」の形容詞化から、なんの面白みも感じられない、といった意味に転じた。
4位の「しゃばい」は、源流をさかのぼれば、遅くとも1980年代からあることばです。当時の辞典類や用語集を見ると、「ださい」「かっこ悪い」の意味と説明されています。
21世紀に入ると、「しゃばい」は別の文脈でも使われます。「オシャレでヤバい」「世知辛い、厳しい」などと説明する辞典類があります。ただ、これらの意味での使用頻度はあまり高くありませんでした。
ところが、2023年からは「今年の新語」にも投稿が寄せられるようになり、今回は14通集まりました(投稿数17位)。「しゃばい」が再流行しているのです。投稿者のみなさんの解釈によれば、意味は「格好悪い」「根性がない」「さえない」「イケてない」などであり、これは「ださい」に通じるものです。「しゃばい試合」(つまらない、しょぼい試合)もこれに準ずる用法でしょう。一方、「しゃばいカレー」という使い方もあります。これは「しゃばしゃばした水気の多いカレー」ということで、これだけは独特の意味を持ちます。
5位 権力勾配
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
けんりょく こ┓うばい[権力勾配]人やグループの間に生まれる、権力の強さの(見えにくい)ちがい。「カップルの間に―がある」〔二〇二〇年代に広まった ことば〕
5位の「権力勾配」は、権力の強さの違いのことで、対等に見える関係の中にさえも存在するものです。たとえば、医師と患者は本来、対等な関係です。でも、患者が医師に対して気後れし、自分の希望を伝えることを遠慮するケースもあるかもしれません。この場合、医師と患者の間には権力勾配が存在する可能性があります。
「権力勾配」は1960年代にはすでに使われていたことばで、特にどの分野ということもなく、学術的な文章で使われました。それが、2020年前後から、一般の新聞でも少しずつ使用例が増えてきました(確認できる最古例は2018年の『朝日新聞』『河北新報』)。SNSでも、見えない力関係の不平等を論じる投稿などで「権力勾配」をよく目にするようになりました。
たとえ対等な関係のカップルでも、周囲が一方だけに負担を強いることもあります。これも権力勾配の一種です。「権力勾配」ということばは、見えにくかった人間関係の非対称性を明らかにしていると言えます。
6位 男消し
『新明解国語辞典』編集部
おとこ けし 0ヲト
コ-【男消し】事件を報じる報道文などで、加害者である男性の性別が記されない傾向。加害者や被害者が女性の場合には性別が記されることに対し、その非対称性を指摘する語。「―構文〔゠男性であることを明らかにしない書き方〕」
6位の「男消し」もまた、非対称的な取り扱いに警鐘を鳴らすことばです。特に2025年に入ってから、SNSで「男消し」という現象が議論の対象になりました。報道の見出しで、たとえば「女性タレントを脅迫か 24歳の容疑者を逮捕」というように、加害者が男性であることを示さない一方、被害者が女性であることは強調する事例が多いというのです。ライターのヒオカさんは、この「男消し」の議論を皮切りに、さまざまな場面で見られる男女の取り扱いの非対称性を指摘しています(『朝日新聞 Re:Ron』7月9日)。
「男消し」ということばによって、それと分かりにくい形で女性が不利益を強いられていることが議論の 俎 上 に載り始めました。このことばをきっかけに、見えにくいところに存在する不平等に、いっそう光が当たるようになるかもしれません。
