2. 誰だって輝く「ビジュ」がある
大賞 ビジュ
大賞に選んだ「ビジュ」は「ビジュアル」の略で、「見た目、外見」の意味です。2025年、ダンスボーカルグループM!LKの歌「イイじゃん」に出てくる〈あれ/今日ビジュイイじゃん〉……というラップが流行しました。動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)には、ラップに合わせて振り付けを見せる動画が集まりました。
今回、「ビジュいいじゃん」が31通で投稿数の6位でした。このほか、「ビジュ」12通、「今日ビジュいいじゃん」2通、「ビジュ良い」2通を合わせると47通になります。
「ビジュ」そのものは、以前からあった略語です。2009年のツイッターの投稿にも〈○○ちゃんのビジュ神すぎる〉〈○○様のビジュが完璧〉など、特にアイドルファンの間で使われた例が残っています。ただ、2010年代までは、あくまで一部の人が知ることばでした。
ところが、2020年代になると、「今年の新語」への投稿語にも「ビジュ」や「ビジュ爆発」(見た目がとてもよいこと)などが見られるようになります。「ビジュ」関連は、2021年―1通、2022年―4通、2023年―2通、2024年―2通と、コンスタントに投稿されています。そして、2025年は前述のように47通と激増しました。一般にも「ビジュ」はよく聞かれるようになり、ランクインはちょうどいいタイミングと言えるでしょう。
よく聞かれるだけではありません。M!LKの「イイじゃん」の影響もあってか、「ビジュ」の使われ方も変わってきました。SNSのインスタグラムで「#ビジュいいじゃん」を検索すると、実にいろいろな写真が並びます。男女のアイドルの写真はもとより、子どもや年配の人の写真、ペット、さらにはラーメンなどの料理の写真も「#ビジュいいじゃん」です。たしかに、見た印象がいいことは、アイドルの特権ではありません。
見た目を褒めることばには「美人」「イケメン」などいろいろありますが、多くはモデルやアイドルのような容姿を想定したことばです。必ずしも多様な人々のいろいろな美しさを表現してはいません。はつらつとして表情の美しい人でも、「美人」「イケメン」の範囲に入らないこともあります。
ところが、「ビジュ」は壁を取り払いました。誰しも、「今日はちょっと決まってるかな」と思える日があります。そんな場合、「今日はビジュがいい」と表現できます。M!LKのラップでも「みんな自分らしくていい」という意味合いで〈イイじゃん〉と歌っています。「誰だって輝く容姿を持っている」という、見えにくかった事実が、「ビジュ」によって可視化されました。とても重要なことばだと評価して、大賞に選びました。
付け加えれば、日本語では「ビジュアル」は「視覚的」のほか、広告業界で「大胆なビジュアル」のように「視覚効果」の意味でも使われてきました。人の見た目を「ビジュアルがいい」のように言う例は1990年代から多く観察されます。21世紀にはビジュアル系バンドを略して「ビジュ」と言う用法も生まれています。
