漢字の現在:皇帝が書かせた手書きの『康煕字典』―前編

2017年 5月 8日 月曜日 筆者: 笹原 宏之

漢字の現在 第299回 皇帝が書かせた手書きの『康煕字典』―前編

 「四庫全書」を調べ直してみようと思った。

 これは、清朝の勅撰の一大叢書であり、世界史の教科書にも登場する。時の乾隆帝が、全国から書籍を取り寄せて、学者たちに選りすぐらせたものである。原本は接収して、提供者には写本を返したと聞く。清朝に都合の悪い内容を検閲したため、禁書に指定して焼いたり、本文の字を別の字に改変したりすることもあった。

 中国の学者の中には、手っ取り早くこれを用いて調べごとを済ませるだけでなく、論考に本文をそこから引用する人までいる。電子版も流布しており、そこには誤入力もあるのだが、とにかく3500点余りの典籍に記された延べ10億文字がすでにデータとして打ち込まれているので、全文検索が可能となり、画像もわりと簡単に入手できるためであろう。さらに、これを包含して余りあるデータベースも、すでに刊行されている。

 文献学を学べば、あるいは文献研究をしている人と話すと、これは写本として政治色を帯びているため、研究用の資料としては使わない方が良いという話を繰り返し聞く。私もそう習ったため、その巨体をどこか軽蔑するような目で、そこにしかないときには仕方ない思いで扱っていた。

 しかし、この叢書は、その性質をよく理解した上で扱うならば、実に多くの未開拓の情報に満ちていることを教えてくれると気づいた。

 その統治のためのテキストの改変などの政治色については、最近、集中的に調べたことをまとめた小著『謎の漢字』に触れた。本を執筆し、刊行するとなると改めて勉強し、情報を整理しなくてはならず、そしてその過程で新しいことも次々と分かる。そこから新たな疑問も次々と派生し、新規の課題にも恵まれる。謎は謎を呼ぶのだ。解決のためには、また図書を読み、足を運んで調べていかなくてはならない。それは、今も続いている。

 「四庫全書」の政策的な面にも面白味があるのだが、公式な書籍としてこれを見たときに、もっと興味深い事実が次々と顔を出すのである。こうした文献も、資料性をふまえたうえで検討をしていかなくてはなるまい。以前、「龍」の伝承古文について、一つの字形が書籍や写本に転記されていく中で、何がどのように、どこまで変化していくのかを追って、『墨』誌に連載したときから、これは楷書でも、と感じ始めていた。そして最近、とみに気になってきた。

 「四庫全書」は、手書きによって書写、編纂された叢書であり、そこから活字にされた聚珍版と呼ばれる書物はごく一部に過ぎない。文淵閣本に対して副本が作られ、7種類も中国各地に配置されたが、清末の数々の騒乱によって半分以上がこの世から失われてしまった。

 いま日本では、文淵閣本、文津閣本、そして編纂過程で作られたダイジェスト版の「四庫全書薈要(かいよう)」の影印版を、図書館で閲覧することができる。ネット上や書籍でも、それらの一部を見ることはできる。膨大な資料に飛び込む環境ならば、実は整っている。

 先日、白川静記念東洋文字文化賞の授賞式のために、立命館大学に伺った。地味な調査研究にも励ましを与えて下さる方々には感謝するばかりである。衣笠キャンパスに向かうバスの車内では、そういうものがないかと探していた用例がたまたま見つかった(図)。

バスの車内で 「つぎ止まります」「次とまります」

「つぎ止まります」「次とまります」

表記の不統一、表示を制作した会社の違いと言えばそれまでだが、どうして「次止まります」「つぎとまります」としないのか。読みやすくしてあげようという配慮が、そこに感じられないだろうか。

 空が広いキャンパスは、高校時代に憧れた時計台のほかに、新設の図書館があり、そのガラス越しの吹き抜けに面して、「四庫全書」の一本が書棚一杯に堂々と配架されていた。中国の温家宝氏から寄贈されたものだそうだ。表彰式のあと、後ろ髪を引かれながら一旦会場を離れ、そこへと向かった。

 見慣れた文淵閣本と比べると、冒頭に付された提要が古く、総編纂官の紀昀(きいん)の直しが入っていないものかと、興味を引かれる。清代ともなると資料がたくさん残されており、これも朱で書き込まれた原稿が残され、刊行されている。私は、学部は中国文学専修だったので懐かしいが、国字を研究するには漢文・中国語と漢字を広く捕捉しておくことが前提となるわけで、細々とだが膨大な漢籍を調べることも続けている。

 これらは、清朝に最盛期をもたらした皇帝である乾隆帝が編纂を命じ、みずから閲覧(御覧)したものである。つまり勅撰であり、さらに小著に記したとおり、漢字の字形にうるさいこの皇帝が、完成後も目を光らせていた本である。当時の科挙を受けたり、合格したりした人たち数千人の筆になる筆跡が、その紙面に残されているわけであり、当時の公的な字体・字形を反映していると見ることができる。

 実は、この叢書には、康煕帝が編ませた『康煕字典』まですっぽりと収められている。類書(百科事典)もそういうことをしてきたが、大部の字書まで取り込むのはさすが国家規模の叢書である。よく旧字体のことを「康煕字典体」のように呼ぶが、それは直接には明朝体のような書体で版本に印刷された字体を指す。「四庫全書」の編纂時には、おそらく殿版つまり内府本の『康煕字典』(1716)を眺めながら、一字一字書写されたのだろう。つまり、清朝の役人やそれに準ずる筆耕たちが毛筆で書いた『康煕字典』の字形、という唯一無二の価値を有するのである。最近まで、その存在や意義をきちんと認識していなかったのだが、やっと小著を執筆する中で、そこに思い至ることができた。(つづく)

 

付記 台湾の故宮博物院図書館には「四庫全書」と「四庫全書薈要」に『康煕字典』があるという言及が谷本玲大氏の「康煕字典DVD-ROM解説・マニュアル」(2007)と、それに基づく「概説康煕字典」(2015)に見られた。それらは、中国での先行研究より、北京の故宮博物院に、殿版に基づく、印刷本と見紛うばかりの出来映えとされる康煕年中内府朱墨精抄本があるとの指摘を引く。康煕帝は、一旦献上された『字典』に納得がいかずに、追補を命じたとされるが、それがどの時点のものか、気になるところである。

 

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【筆者プロフィール】

『漢字の現在』 『国字の位相と展開』笹原宏之(ささはら・ひろゆき)
 早稲田大学 社会科学総合学術院 教授。博士(文学)。日本のことばと文字について、様々な方面から調査・考察を行う。早稲田大学 第一文学部(中国文学専修)を卒業、同大学院文学研究科を修了し、文化女子大学 専任講師、国立国語研究所 主任研究官などを務めた。経済産業省の「JIS漢字」、法務省の「人名用漢字」、文部科学省の「常用漢字」などの制定・改正に携わる。2007年度 金田一京助博士記念賞を受賞。著書に、『日本の漢字』(岩波新書)、『国字の位相と展開』、この連載がもととなった『漢字の現在』(以上2点 三省堂)、『訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語』(光文社新書)、『日本人と漢字』(集英社インターナショナル)、編著に『当て字・当て読み 漢字表現辞典』(三省堂)などがある。『漢字の現在』は『漢字的現在』として中国語版が刊行された。最新刊は、『謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば』(中公新書)

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【編集部から】
漢字、特に国字についての体系的な研究をおこなっている笹原宏之先生から、身のまわりの「漢字」をめぐるあんなことやこんなことを「漢字の現在」と題してご紹介いただいております。前回は「河津の「滝」(たる)の歴史」でした。

この連載への質問、また「ここでこんな字が使われていた」などの情報は、問い合わせフォーム( http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/support/question.html )から、「漢字の現在」への質問・情報である旨を記してご投稿ください。


『日本国語大辞典』をよむ―第7回 タヌキとサルトリイバラ

2017年 5月 7日 日曜日 筆者: 今野 真二

第7回 タヌキとサルトリイバラ

 『日本国語大辞典』は動植物名も見出しとしているので、「アカゲザル」(動物)「アカアシクワガタ」(昆虫)「アカアマダイ」(魚)「アカガシ」(植物)などの見出しがある。しかしその一方で、幼体がミドリガメという名前で売られ、日本中にひろく棲息するようになったアカミミガメは見出しとなっていないので、見出しとなる何らかの基準はあるのだろう。「ミドリガメ」は見出しとなっていて、「アメリカ原産のヌマガメ科の子ガメのこと。背甲が緑がかっているためにこの称があり、ペットとして人気がある」と説明されている。

 『日本国語大辞典』をよんでいると、次のような見出しがあった。

1くさいなぎ【野猪】〔名〕「いのしし(猪)」の古名。一説に、「たぬき(狸)」の古名ともいう。

2こわみ〔名〕「たぬき(狸)」または、「あなぐま(穴熊)」の異名。

3たたけ【狸】〔名〕(「たたげ」とも)(1)「たぬき(狸)」の異名。(2)筆の穂にする狸の毛。

4たのき【狸】〔名〕「たぬき(狸)」の変化した語。

5とんちぼお 方言〔名〕(1)動物、むじな(狢)。忌み言葉。(2)狢の子。(3)動物、たぬき(狸)。

6はちむじな【八狢】方言〔名〕動物、たぬき(狸)。

7まみ【貒・猯・狢】〔名〕穴熊(あなぐま)、狸(たぬき)などの類。

8めこま【狸】〔名〕「たぬき(狸)」の異名。

 2「こわみ」の使用例として、「和訓栞〔1777~1862〕」の「こはみ 狸に似てちひさく好んて人家に住其身の内至て強きをもて名く是むじな成へし」という記事があげられている。『日本国語大辞典』第2版には「主要出典一覧」などを示した「別冊」が附録されている。それによると「和訓栞」のテキストとして、具体的には1898年に刊行された『増補語林 倭訓栞』を使っていることがわかる。これは活字テキストである。亀甲括弧内にある「1777~1862」は『和訓栞』の版本が刊行された年である。実は活字テキストには「狸に似てちひさく好んて人家に住其身の内至て強きをもて名く是むな成へし」とあって小異(太字部分)がある。ついでに版本(中編巻8・31丁表)を確認してみると、「狸に似てちひさく好んて人家に住り其身の内至て/強きをもて名く是むな成へし」とあって濁点は使われていない。なぜ依拠テキストを調べてみようと思ったかといえば、「住い」は「住ひ」ではなくてほんとうに「住い」と書いてあるのかなと思ったことと、「むじな成へし」の箇所で、「むじな」では濁点を使い、「成へし」では使っていなかったので、そういうことは絶対ないというわけでもないが、なんとなく落ち着かない感じがしたためだ。調べた結果、少しずつ異なっていたが、それを問題視しようとしているわけではまったくない。このくらいのことはあるだろう。

 4は「タヌキ」から「タノキ」になったのであれば、「ヌ」が「ノ」に変わった、つまり母音の[u]が[o]に替わった「母音交替形」にあたる。室町時代頃には[u]が[o]に替わる母音交替形が少なくなかったことがわかっている。「クヌギ(櫟)」が「クノギ」になった例などが知られている。

 5と6とは方言だから、あまり耳にしたことのない語だが、「とんちぼお」はなんかかわいい感じがする。

 7の「まみ」は東京都港区麻布に「まみあな」という地名がある。

 上では「タヌキ」「アナグマ」「ムジナ」と3種類の動物の名前がでてきているが、たしかに山の中で遭遇した動物が何か、ということはよほど動物に詳しくなければわからないだろうし、文献に記されている動物が何かだって、その記事から特定できるとは限らないから、いろいろと「揺れ」が生じることは自然であろう。

 さて今度は植物名の話。『日本国語大辞典』をよんでいて、「サルトリイバラ」には異名が多いことに気づいた。そもそも「サルトリイバラ」があまり知られていないかもしれないが、『日本国語大辞典』は次のように説明している。

さるとりいばら【菝葜・猿捕茨】〔名〕(1)ユリ科の落葉低木。各地の山野に生える。高さ〇・六~二メートル。茎はつる性で節ごとに曲がり、まばらにとげがある。(略)和名はサルが棘(とげ)にひっかかる意からつけられた。漢名、菝葜。さるとり。さるかき。さるかきいばら。さるとりうばら。さるとりばら。さんきらい。わのさんきらい。

 上にも幾つかの異名があげられているが、上以外にも次のような見出しを見つけ出すことができる。「いぎんどう」「いびついばら」「うまがたぐい」「かからいげ」「かごばら」「さるかけいばら」「さんきらいいばら」「たまばら」「ほらくい」には「植物「さるとりいばら(菝葜)」の異名」と記されている。また、「おおうばら」「かから」「かきいばら」「かたらぐい」「かめいばら」「がんたち」「がんたちいばら」には「植物「さるとりいばら(菝葜)」の古名」と記されている。そして「かないばら」「まがたら」「もがきばら」「もちしば」には「方言 植物。(1)さるとりいばら(菝葜)」と記されている。方言形は他にもある。

 1つの植物の名称が複数あるということは、それだけその植物が目につきやすかったり、生活の中で「出番」があったということが推測される。たとえば薬になるといった場合だ。「かめいばら」の他に「かめのは」という見出しもあって、そこには「方言 植物。(1)(葉の形が亀の甲に似ているところから)さるとりいばら(菝葜)」と記されている。「かめいばら」は「亀茨」ということだ。見出し「おさすり」の方言(2)には「菝葜(さるとりいばら)の葉で包んだ団子、または餅(もち)の類」とある。あるいは見出し「いげのはまんじゅう」には「方言 菝葜(さるとりいばら)の葉で包んだ団子」とあって、亀の甲に似た形をしているというサルトリイバラの葉に団子や餅を包んでいたことが推測される。それで身近な植物だったのであろう。

 20年ほど前になるが、高知大学に勤めていたことがあった。その時、毎週木曜日に「木曜市」に行くのが楽しみだったが、そこで(おそらく)サルトリイバラの葉に包んだ餅を売っていたような記憶がある。ことばとともに懐かしい記憶が甦るのも、『日本国語大辞典』をよむ楽しさだ。

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※特に出典についてことわりのない引用は、すべて『日本国語大辞典 第二版』からのものです。引用に際しては、語義番号などの約物および表示スタイルは、ウェブ版(ジャパンナレッジ http://japanknowledge.com/)の表示に合わせております。

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【筆者プロフィール】

今野真二(こんの・しんじ)

1958年、神奈川県生まれ。高知大学助教授を経て、清泉女子大学教授。日本語学専攻。

著書に『仮名表記論攷』、『日本語学講座』全10巻(以上、清文堂出版)、『正書法のない日本語』『百年前の日本語』『日本語の考古学』『北原白秋』(以上、岩波書店)、『図説日本語の歴史』『戦国の日本語』『ことば遊びの歴史』『学校では教えてくれないゆかいな日本語』(以上、河出書房新社)、『文献日本語学』『『言海』と明治の日本語』(以上、港の人)、『辞書をよむ』『リメイクの日本文学史』(以上、平凡社新書)、『辞書からみた日本語の歴史』(ちくまプリマー新書)、『振仮名の歴史』『盗作の言語学』(以上、集英社新書)、『漢和辞典の謎』(光文社新書)、『超明解!国語辞典』(文春新書)、『常識では読めない漢字』(すばる舎)、『「言海」をよむ』(角川選書)、『かなづかいの歴史』(中公新書)がある。

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【編集部から】

現在刊行されている国語辞書の中で、唯一の多巻本大型辞書である『日本国語大辞典 第二版』全13巻(小学館 2000年~2002年刊)は、日本語にかかわる人々のなかで揺らぐことのない信頼感を得、「よりどころ」となっています。
辞書の歴史をはじめ、日本語の歴史に対し、精力的に著作を発表されている今野真二先生が、この大部の辞書を、最初から最後まで全巻読み通す試みを始めました。
本連載は、この希有な試みの中で、出会ったことばや、辞書に関する話題などを書き進めてゆくものです。ぜひ、今野先生と一緒に、この大部の国語辞書の世界をお楽しみいただければ幸いです。隔週連載。


続 10分でわかるカタカナ語 第9回 ドメスティック

2017年 4月 29日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ドメスティック」の意味と使い方

どういう意味?

 「家庭内の」「国内の」という意味です。

もう少し詳しく教えて

 ドメスティック(domestic)は、多く、他の語に付いて、「家庭内の」や「国内の」という意味を表します。

 メディアなどでよく耳にするのは、配偶者や恋人からの暴力を意味する「ドメスティックバイオレンス(domestic violence)」という語としてでしょう。この場合、ドメスティックは「家庭内の」を意味します。

 ドメスティックはまた、「国内の」という意味でも使われます。例えばファッション分野では、国内のブランドのことを「ドメスティックブランド(domestic brand)」と呼ぶ習慣があります。

 「ドメスティックな企業」のように、「~な」の形で使われることもあります。

どんな時に登場する言葉?

 おもに社会問題・ファッション・航空の分野でよく登場します。まず社会問題の分野ではドメスティックバイオレンスが、ファッションの分野ではドメスティックブランドがよく登場します。また航空業界では「国内線」を意味するドメスティックがよく登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くは、大正時代に出版された外来語辞典に「家庭の。一家の。国内の。」という説明で「ドメスティック」という項目が見られます。また昭和の初期に出版された新語辞典にも「国産の」を意味するドメスティックが掲載されていました。

 ただし、一般社会でドメスティックが注目され始めた時期は、比較的最近です。例えば、新聞記事でドメスティックという言葉の登場回数が増えたのは、90年代の末期からゼロ年代(2000年〜2009年)の初期にかけてのことでした(注:朝日・読売・毎日・産経調べ)。この時期にドメスティックバイオレンス防止法(通称。2001年成立)に関する議論が活発化していたことが背景にあります。

ドメスティックの使い方を実例で教えて!

ドメスティックな○○

 おもに国内を意味する文脈で「ドメスティックな○○」と表現することが可能です。例えば「ドメスティックな商品」と言えば「国内製の商品」「国内向けの商品」といった意味です。「ドメスティックな会社」と言えば「海外展開をしていない会社」「日本的な企業風土の会社」というニュアンス、「ドメスティックな作品」と言えば「(内容、流通などの面で)国内市場向け、内向きの作品」ということになります。

ドメスティックブランド

 ファッションの分野では、海外ブランドに対する国内ブランドのことを「ドメスティックブランド」と呼びます。略して「ドメブラ」と言う場合もあります。

ドメスティックバイオレンス

 配偶者や恋人あるいは元配偶者や元恋人から受ける暴力のことです。「DV」と略される場合もあります。日本では、2001年にドメスティックバイオレンス防止法(正式には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)が成立したことで、その対策が本格化しました。

 なおDVのうち、恋人間で行われるDVのことを特に「デートDV(和製英語)」と呼びます。

ドメス

 航空業界やその関連業界(旅行代理業など)では、飛行機の国内線を「ドメスティック」と呼ぶ習慣があります。これは英語の domestic line を略した表現です。会社によってはドメスティックをさらに略して「ドメス」「ドメ」などと表現するところもあるようです。

言い換えたい場合は?

 単純にドメスティックを言い換える場合は、「家庭内の」あるいは「国内の」を用いると良いでしょう。またファッションのドメスティックブランドは「国内ブランド」に、また航空のドメスティックは「国内線」に言い換えることが可能です。

 ドメスティックバイオレンスを言い換える場合は、ケースに応じて「配偶者間暴力」「配偶者や恋人による暴力」のような文章表現を試してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

GDP の D は? 国内総生産(一年間に国内で生み出された付加価値の総額)を意味する「GDP」という言葉。これは Gross Domestic Product を略した言葉です。つまり GDP の D とは、ドメスティックのDなのです。

ドメ男(お) 『現代用語の基礎知識』の若者用語欄に、1991年版から1994年版にかけて「ドメ男」という項目が載っていました。その解説を1994年版から引用しましょう。「英会話ができなくて、外国へも一回ぐらい観光旅行しただけの、もっぱら国内向きの男。海外勤務をする見込みのない会社員。ダメ男(だめな男)に通わせた表現。」

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【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


広告の中のタイプライター(6):Rex Visible Typewriter No.4

2017年 4月 27日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Popular Mechanics』1915年12月号

『Popular Mechanics』1915年12月号(写真はクリックで拡大)

「Rex Visible Typewriter No.4」は、ハリス(De Witt Clinton Harris)率いるレックス・タイプライター社が、1915年から1922年にかけて製造販売したタイプライターです。ハリスはそれまで、ウィスコンシン州フォンデュラックのハリス・タイプライター社で、「Harris Visible Typewriter No.4」などを製造していましたが、シカゴに本社を移した時点でレックス・タイプライター社に社名を変え、「Rex Visible Typewriter No.4」を製造販売しはじめました。

「Rex Visible Typewriter No.4」は、28キーのフロントストライク式タイプライターです。キー配列はいわゆるQWERTY配列で、各キーに大文字・小文字・記号(あるいは数字)の3種類の文字が配置されています。上段の10個のキーには、大文字のQWERTYUIOPと、小文字のqwertyuiopと、数字の1234567890が、それぞれ配置されており、その右側に「BACK SPACER」キー(上の広告では赤字の6)があります。中段の9個のキーには、大文字のASDFGHJKLと、小文字のasdfghjklと、記号の@$%^*=/¢#が、それぞれ配置されており、左右の端には「FIG」キーがあります。下段の9個のキーには、大文字側にZXCVBNM&.が、小文字側にzxcvbnm-,が、記号側に()?’”:;_.が、それぞれ配置されており、左右の端には「CAP」キーがあります。

28個の各キーを押すと、対応する活字棒(type arm)が立ち上がって、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の状態では小文字が印字されますが、「CAP」キーを押すとタイプバスケットが持ち上がって大文字が、「FIG」キーを押すとタイプバスケットが下がって記号や数字が、それぞれ印字されます。「SHIFT LOCK」キー(上の広告では赤字の5)も準備されており、「CAP」キーもしくは「FIG」キーを押しっぱなしにできます。黒赤2色のインクリボンにより2色の印字が可能で、それを強調すべく、上の広告も2色刷りです。黒赤の切り替えは、本体右側のツマミ(上の広告では赤字の4)でおこないます。また、上の広告で赤字の3で示されているのは、改行幅を変更するためのレバーで、シングル・1½・ダブルスペーシングが設定可能だったようです。

この時点のレックス・タイプライター社は、自前の販売網を持たず、広告で各地の代理店を募る、という状態でした。ハリス・タイプライター社の時代には、シアーズ・ローバック社(Sears, Roebuck & Company)が代理店を務めており、全米に渡ってカタログ通信販売がおこなわれていたのですが、レックス・タイプライター社は、シアーズ・ローバック社以外の独自販路を開拓する、という経営判断をおこなったようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


『日本国語大辞典』をよむ―第6回 オノマトペ④:セミの名前と鳴き声

2017年 4月 23日 日曜日 筆者: 今野 真二

第6回 オノマトペ④:セミの名前と鳴き声

 夏目漱石『吾輩は猫である』の七に「人間にも油野郎、みんみん野郎、おしいつく/\野郎がある如く、蟬にも油蟬、みん/\、おしいつく/\がある。油蟬はしつこくて行かん。みん/\は横風で困る。只取つて面白いのはおしいつく/\である。是は夏の末にならないと出て来ない」という行(くだ)りがある。

 東京近辺では、夏になってもセミの鳴き声があまり聞こえなくなってきたように感じる。筆者は神奈川県鎌倉市のうまれなので、小学生の頃には、夏になるとセミがうるさいくらい鳴いていた。上の文章中で夏目漱石は採りあげていないが、あちらこちらから響き合うように聞こえてきたヒグラシの鳴き声が懐かしく、もう一度あんな風に鳴いているヒグラシを聞いてみたいと思う。
 ヒグラシはカナカナと呼ばれることもある。

かなかな〔名〕(その鳴き声から)昆虫「ひぐらし(日暮)」の異名。

 ヒグラシの鳴き声を「カナカナカナカナ…」と聞きなすのは、自然に思われる。また、ヒグラシの鳴き声は同じ聞こえ(「カナ」)がずっと繰り返していくので、いわば単純な鳴き声ともいえよう。それに比べて、ツクツクホウシの鳴き声は「複雑」だ。

つくつくぼうし〔名〕(1)(「つくつくほうし」とも)カメムシ(半翅)目セミ科の昆虫。(略)七月下旬から一〇月初旬頃までみられ、八月下旬に最も多い。「つくつくおーし」と繰り返し鳴く。北海道南部以南、朝鮮、中国、台湾に分布する。つくつく。つくつくし。おおしいつく。くつくつぼうし。つくしこいし。ほうしぜみ。寒蟬。

 「語誌」欄には「(1)平安時代にはクツクツホウシ(ボウシ)と呼ばれていたようである。(略)(2)鎌倉時代になると、ツクツクの形も辞書にのり始め、ツクツクとクツクツの勢力争いといった形になる。しかし室町初期には「頓要集」などツクツクの形のみ記したものも登場し、室町後半にはこれが主流となる。(略)(5)現代ではその鳴き声を「おーしいつくつく」ときくこともある」とある。

 平安時代には「クツクツホウシ(ボウシ)と呼ばれていた」に驚かれた方もいるのではないだろうか。『日本国語大辞典』には次のように見出し項目がある。

くつくつぼうし〔名〕昆虫「つくつくぼうし」に同じ。

 使用例も少なからずあがっており、その中には1275年に成ったと考えられている『名語記(みょうごき)』も含まれている。「クツクツ」を繰り返せば「クツクツクツクツ…」となり、この音の連続は切りようによっては、つまり聞きようによっては、「ツクツク」になる。実際のヒグラシの鳴き声は「ツクツク」あるいは「クツクツ」がずっと繰り返されるわけではないが、とにかく「ツクツク」と「クツクツ」とは仮名の連続としてみると違うが、音の連続としては「近い」。

 さて、上の『日本国語大辞典』の記事で気になった点がある。引用の中に「つくつくおーし」、「おーしいつくつく」と書かれている。「現代仮名遣い」においては、平仮名で書く場合には長音に「ー」を使わない。そして一方では「おおしいつく」と書いている。筆者は、なぜ非標準的な書き方を使ったのかとすぐに思ってしまう。おそらく「おおしいつく」の発音は「オーシイツク」という長音を含んだものではなく「オオシイツク」である、ということだろうと思う。そうであれば、「つくつくおおし」と書くと「ツクツクオオシ」という発音だと勘違いされるから、ここはそうではなくて「ツクツクオーシ」という長音を含んだかたちなのだ、ということを示した書き方なのだろう。しかし、それがうまく「読み手」に伝わるだろうか、と気になる。因果なものです。

 筆者が小学生の頃に、夏休みに奈良県にいる叔母の家に泊まりにいったことがあった。すると今まで聞いたことのないセミが鳴いているのでびっくりした。それがクマゼミだった。現在では温暖化のためか、東京でも時々耳にすることがあるので、次第に生息域を拡げていったのだろう。クマゼミの鳴き声は筆者の聞きなしでは「シャワシャワシャワシャワ」というような感じだ。『日本国語大辞典』をみてみよう。

くまぜみ【熊蟬】〔名〕カメムシ(半翅)目セミ科の昆虫。日本産のセミ類のうち最も大きく体長四~五センチメートル、はねの先端までは七センチメートルに近い。体は全体に黒く光沢がある。(略)盛夏のころシャーシャーと続けて鳴く。西日本ではセンダン、カキなどに多い。関東地方以南の各地に分布。うまぜみ。やまぜみ。わしわし。

 『日本国語大辞典』の語釈記述をした人の聞きなしは「シャーシャー」のようだが「ワシワシ」という聞きなしもあることがわかる。見出し項目「わしわし」をみると、「大勢がしゃべりたてているさまを表わす語。わいわい」とあって、「方言」の【一】の(3)に「大きな蟬(せみ)の鳴き声を表わす語」とあり、【二】に「虫、くまぜみ(熊蟬)」とある。

 「クマゼミ」の「クマ」は黒色及び大きいことに由来していると思われる。「クマ(ン)バチ」と同じようなことだ。語釈中にみられる「ウマゼミ」は大きさを「ウマ(馬)」で表現しているのだろう。大きいものは「クマ」「ウマ」と名づけるというところもまたおもしろい。

 小さいセミとしてはニーニーゼミがいる。ニーニーゼミは夏前に鳴きだすセミとして印象深かったが、これも最近ほとんど鳴き声を聞いたことがない。

にいにいぜみ【―蟬】〔名〕(略)各地に普通にすみ、梅雨あけの頃から現われ、鳴き声はニーニーまたはチーチーと聞こえる。日本各地、朝鮮、中国、台湾に分布する。ちいちいぜみ。こぜみ。

 ここまでくるとアブラゼミが気になるが、見出し項目「あぶらぜみ」の語釈には「セミ科の昆虫。体長(翅端まで)五・六~六センチメートル。日本各地で最も普通に見られるセミ(略)あかぜみ。あきぜみ」とあって、「アカゼミ」「アキゼミ」と呼ばれることがあることがわかる。 

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※特に出典についてことわりのない引用は、すべて『日本国語大辞典 第二版』からのものです。引用に際しては、語義番号などの約物および表示スタイルは、ウェブ版(ジャパンナレッジ http://japanknowledge.com/)の表示に合わせております。

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【筆者プロフィール】

今野真二(こんの・しんじ)

1958年、神奈川県生まれ。高知大学助教授を経て、清泉女子大学教授。日本語学専攻。

著書に『仮名表記論攷』、『日本語学講座』全10巻(以上、清文堂出版)、『正書法のない日本語』『百年前の日本語』『日本語の考古学』『北原白秋』(以上、岩波書店)、『図説日本語の歴史』『戦国の日本語』『ことば遊びの歴史』『学校では教えてくれないゆかいな日本語』(以上、河出書房新社)、『文献日本語学』『『言海』と明治の日本語』(以上、港の人)、『辞書をよむ』『リメイクの日本文学史』(以上、平凡社新書)、『辞書からみた日本語の歴史』(ちくまプリマー新書)、『振仮名の歴史』『盗作の言語学』(以上、集英社新書)、『漢和辞典の謎』(光文社新書)、『超明解!国語辞典』(文春新書)、『常識では読めない漢字』(すばる舎)、『「言海」をよむ』(角川選書)、『かなづかいの歴史』(中公新書)がある。

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【編集部から】

現在刊行されている国語辞書の中で、唯一の多巻本大型辞書である『日本国語大辞典 第二版』全13巻(小学館 2000年~2002年刊)は、日本語にかかわる人々のなかで揺らぐことのない信頼感を得、「よりどころ」となっています。
辞書の歴史をはじめ、日本語の歴史に対し、精力的に著作を発表されている今野真二先生が、この大部の辞書を、最初から最後まで全巻読み通す試みを始めました。
本連載は、この希有な試みの中で、出会ったことばや、辞書に関する話題などを書き進めてゆくものです。ぜひ、今野先生と一緒に、この大部の国語辞書の世界をお楽しみいただければ幸いです。隔週連載。


続 10分でわかるカタカナ語 第8回 ソーシャル

2017年 4月 22日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「ソーシャル」の意味と使い方

どういう意味?

 他の語に付いて、「社会的」「社交的」という意を表します。

もう少し詳しく教えて

 ソーシャル(social)は英語の形容詞で、「社会の」「社交の」を意味します。ソーシャルビジネス、ソーシャルメディアなどのように、他の語に付いて使われます。ソシアルダンス(社交ダンス)などのようにソシアルと表記される場合もあります。

どんな時に登場する言葉?

 社会・社交が関連する分野で登場します。特に近年では、福祉・環境などの社会的課題を取り扱う分野、心理・教育分野、さらには IT(情報通信技術)の分野で、ソーシャルを含む新概念が次々と生まれています。

どんな経緯でこの語を使うように?

 古くから使われている言葉です。例えば大正時代に出版された外来語辞典にはすでに「ソシアル」の項目が存在していました。

 近年では、主に「社会的課題」と「IT」の両分野で、ソーシャルを冠する新概念が数多く生まれ、注目を集めています。そのためマスメディアでソーシャルの語を見聞きする機会も増えています。例えば『現代用語の基礎知識』(自由国民社)では、1991年版でソーシャルを含む複合語の項目が11語だったのに対して、2016年版では延べ23語にまで増えています。

ソーシャルの使い方を実例で教えて!

ソーシャルスキル

 挨拶や意思表明、共感など、社会で人とかかわっていくなかで必要不可欠な技能を「ソーシャルスキル」といいます。そのような技能を訓練することは「ソーシャルスキルトレーニング」と呼ばれます。これらは心理・教育分野でよく登場する概念です。

ソーシャルワーカー

 社会的弱者(貧困・障害・差別などの問題で生活に困っている人)のために行う直接的または間接的な支援活動を「ソーシャルワーク(social work)」と呼びます。またこの活動を行う人を「ソーシャルワーカー(social worker)」と呼びます。学校を活動拠点とする場合は「スクールソーシャルワーカー(school social worker / SSW)」、保健・医療を専門とする場合は「医療ソーシャルワーカー(medical social worker / MSW)」となります。

社会的課題のソーシャル

 1987年に「持続可能な開発」という概念が世界的に注目されました。それ以来、国際社会は環境・資源・エネルギー・貧困・教育・人権といった「社会的課題」により大きな関心を向けています。その影響で、ソーシャルを冠した新概念も数多く日本語に入ってきました。

 例えば「ソーシャルビジネス(social business)」は、社会的課題をビジネスの手法で解決しようとする考え方。そのようなビジネスを行うベンチャー企業(革新的な小企業)を「ソーシャルベンチャー(social venture)」と呼びます。

 また「ソーシャルセクター(social sector)」とは、従来的な公共セクター(行政機関など)や民間セクター(民間企業など)とは異なる新たな組織区分のこと。NPO(非営利組織)や NGO(非政府組織)など、社会的課題の解決を目的とする非営利の民間組織を指します。このセクターは、近年、国際社会の中でも大きな存在感を示すようになりました。

ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)

 IT(情報通信技術)の分野では、ゼロ年代(2000年~09年)の初頭から「ソーシャルネットワーキングサービス(social networking service)」、略して「SNS」が普及しました。インターネット上で結びついた人どうしが情報交換できるサービスです。日本でそのはしりとなったのはmixi(ミクシィ、2004年サービス開始)であり、2010年代に入ってからはスマートフォンの普及に伴ってFacebook(フェイスブック)、Twitter(ツイッター)、LINE(ライン)などの利用が急速に広がりました。

 この SNS を含めて、個人どうしの情報交換によって成り立つメディア(電子掲示板、ブログ、動画サイトなども含む)を「ソーシャルメディア(social media)」と総称します。いわばクチコミの電子版とも言える存在です。

言い換えたい場合は?

 複合語のソーシャルを言い換える場合は、まず定まった訳語があるかどうかを調べてみてください。例えばソーシャルワークには「社会福祉援助技術」、ソーシャルワーカーには「社会福祉士」、ソシアルダンスには「社交ダンス」という訳語が存在します。

 定訳の有無に関わらず、多くの場合、単純な言い換えが困難です。例えばソーシャルメディアを「社交媒体」と言い換えても、おそらく読み手や聞き手は意味を理解できないことでしょう。面倒ではありますが「ネットを通じた個人どうしの情報交換で成り立つメディア」といった具合に、概念を簡単に説明してみてください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

CSRのS ビジネスでよく見聞きするアルファベット略語の中にも、ソーシャル(social)が含まれるものがあります。代表例は「企業の社会的責任」を意味する「CSR」でしょう。CSR は corporate social responsibility の略です。

社会は「仲間」から始まった 英語の social の語源をたどると「社交的な」を意味するラテン語 socialis に行き着きます。その socialis の語源は、同じくラテン語の socius。これは「仲間」を意味する言葉です。つまりソーシャルは「仲間」を語源とする言葉なのです。

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【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


人名用漢字の新字旧字:「戸」と「戶」

2017年 4月 20日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

第131回 「戸」と「戶」

131door-old.png新字の「戸」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「戶」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。でも実は、旧字の「戶」が、子供の名づけに使えた時期もあったのです。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、部首画数順に2528字が収録されており、戶部に、旧字の「戶」が含まれていました。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、 そこでも旧字の「戶」が収録されていました。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、旧字の「戶」が収録されていました。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、旧字の「戶」は当用漢字になりました。ただし、当用漢字表のまえがきには「字体と音訓の整理については、調査中である」と書かれていました。当用漢字表の字体は、まだ変更される可能性があったのです。

字体の整理をおこなうべく、文部省教科書局国語課は昭和22年7月15日、活字字体整理に関する協議会を発足させました。活字字体整理に関する協議会は、昭和22年10月10日に活字字体整理案を国語審議会に報告しました。この活字字体整理案では、「戶」を「戸」へと整理することが提案されていました。

報告を受けた国語審議会では、昭和22年12月から昭和23年5月にかけて、字体整理に関する主査委員会を組織しました。この間、昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には旧字の「戶」が収録されていたので、「戶」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「戸」は、子供の名づけに使えなくなりました。

昭和24年4月28日に内閣告示された当用漢字字体表では、新字の「戸」が収録されていました。活字字体整理案に従った結果、新字の「戸」が当用漢字となり、旧字の「戶」は当用漢字ではなくなってしまったのです。当用漢字表にある旧字の「戶」と、当用漢字字体表にある新字の「戸」と、どちらが子供の名づけに使えるのかが問題になりましたが、この問題に対し法務府民事局は、旧字の「戶」も新字の「戸」もどちらも子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。つまり、昭和24年の時点で、旧字の「戶」も新字の「戸」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのです。

昭和56年3月23日に国語審議会が答申した常用漢字表では、新字の「戸」が収録されました。旧字の「戶」は、カッコ書きにすら入っていなかったのです。昭和56年4月22日、民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字355組357字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを、子供の名づけに認めることにしました。旧字の「戶」はカッコ書きに入っていないので、今後は子供の名づけには認めない、と決定したのです。昭和56年10月1日、常用漢字表は内閣告示され、新字の「戸」は常用漢字になりました。同じ日に、旧字の「戶」は子供の名づけに使えなくなってしまいました。

平成23年12月26日、法務省は入国管理局正字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、13287字を収録していました。この13287字の中に、新字の「戸」と旧字の「戶」が含まれていたのです。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、新字の「戸」に加え、旧字の「戶」も書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、新字の「戸」はOKですが、旧字の「戶」はダメなのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


続 10分でわかるカタカナ語 第7回 スマート

2017年 4月 15日 土曜日 筆者: もり・ひろし & 三省堂編修所

10分でわかる「スマート」の意味と使い方

どういう意味?

 「手際がいい」「洗練された」「ほっそりして格好がいい」に加えて、「賢い」という意味でも使われます。

もう少し詳しく教えて

 英語のスマート(smart)はもともと「洗練された」、「賢い」、「すばやい」など多くの意味をもっています。日本語では「手際がいい」「洗練された」「ほっそりした」「格好いい」という意味で使われます。近年では、「賢い」の意味での使用も見られるようになっています。

 「洗練された」という意味の「スマート」は、行動・態度・姿形(すがたかたち)を表現するときに登場します。例えば「彼の振る舞いはスマートだ」といえば、彼の行動・態度について「粋である」「気が利いている」といった意味を表します。また「彼の服装はスマートだ」だといえば、彼の姿形(服装)について「お洒落(しゃれ)だ」「格好いい」といったニュアンスを表しています。いずれも「洗練」という意味にまとめられるでしょう。

 この意味に付随するのが、「姿形がほっそりしている」「やせている」という意味です。例えば「彼はスマートな体型だ」とか「スマートな形の機体だ」と言えば、身体や機体が「細い(細くて格好いい)」ことを意味します。実は英語の smart には、この意味が存在しません。

 さらに近年では、「スマートフォン(smartphone)」のように英語の「賢い」の意味をもつ語が移入されて使われるようになりました。これらは、何かがIT(情報通信技術)によって高機能化している様子を表すものです。

どんな時に登場する言葉?

 「洗練」を意味するスマートは、行動・動作・態度・外見などを表現する場合に登場します。また「細い」ことを意味するスマートは、人や物の外見をほめる際に登場します。そして「賢い」を意味するスマートは、ITを応用した機能・製品・サービス・概念などを表現する際に登場します。

どんな経緯でこの語を使うように?

 「洗練」を意味するスマートは、少なくとも明治時代には使われていた表現だと思われます。また「細い」ことを意味するスマートも、少なくとも昭和初期には使われていた表現であるようです。

 いっぽう「賢い」という意味のスマートが盛んに使われるようになったのは、ごく最近のことです。具体的にはゼロ年代(2000年~09年)の後半以降に、マスメディアでスマートを含む複合語をよく見かけるようになりました。この時期は、スマートフォンが世界的に普及しはじめた時期にあたります。

スマートの使い方を実例で教えて!

スマートな行動

 「洗練されている」や「ほっそりして格好良い」を意味するスマートは、「スマートな」「スマートに」「スマートさ」などの形で使うことができます。例えば「スマートな行動」「長身でスマートな人」「彼のやり方はスマートさを欠く」といった具合です。

スマートフォン

 ITの世界には様々な「スマートデバイス(smart device)」、すなわち「ITによって高機能化した装置」が存在します。例えば「スマートフォン」は高機能化した携帯電話端末のこと。「スマート家電」といえば、自動節電機能のついたエアコンや、外出先から中身が確認できる冷蔵庫などが挙げられます。このほか「スマートウォッチ(smartwatch)」「スマートスピーカー(smart speaker)」「スマートグラス(smartglasses /眼鏡型のコンピューター端末)」などの装置も存在します。どれも、ITを応用することによって、自動で動作を制御したり、従来のものにはない高度な機能が付加されたりしていることが特徴です。

スマートグリッド

 環境やエネルギーの分野でも「ITによる高機能化」を意味するスマートが登場します。高機能化によって、エネルギー利用の効率化を図る取り組みが進んでいるためです。例えばその対象が送電網(電力の供給網)の場合は「スマートグリッド(smart grid)」、街全体の場合は「スマートコミュニティー(スマートシティー)(smart community)」、各家庭の場合は「スマートハウス(smart house)」と表現できます。

スマートキー

 自動車の分野でもスマートを冠する言葉があります。例えば「スマートカー(smart car)」はITで高機能化した自動車全般のこと(自動運転車など)。また「スマートキー(smart key)」は、鍵となる機器を持ち歩いて自動車に近づくだけで、自動的に解錠などを行う機能をさします。

言い換えたい場合は?

 行動・態度の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「気が利いている」「手際が良い」「粋な」「颯爽(さっそう)としている」「格好良い」などと言い換えることができます。

 また外見の「洗練」を意味するスマートは「洗練されている」「格好良い」「洒落ている」「さっぱりしている」「粋な」「身奇麗な」などと言い換えることが可能です。またカタカナ語でもよければ「スタイリッシュな」「クールな」(→クール)「シックな」なども使えます。

 外見の洗練のうち「細い」を意味するスマートは「ほっそりしている」「やせている」「すらっとしている」などの言い換えが可能です。カタカナ語でもよければ「スリムな」とも表現できます。

 「賢い」を意味するスマートは、(擬人的に)「頭のいい」「利口な」、または「高機能」や「次世代」と言い換えることが多いようです。スマートフォンを「高機能携帯電話」、スマートグリッドを「次世代送電網」とする場合などがそうです。いっぽう高機能・次世代にこだわらない方法もあります。例えばスマートシティーを「環境配慮型都市」と言い換える用例も存在します。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

語源は「痛み」 英語の smart には「痛み」や「ひりひりする」といった意味もあります。実は smart のもともとの意味は「肉体的な痛み」なのです。それがいつしか「精神的な鋭さ」を指すようになり、やがて「洗練」や「賢さ」の意味に繋がっていきました。

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【筆者プロフィール】

もり・ひろし & 三省堂編修所

■もり・ひろし
 新語ウォッチャー(フリーライター)。鳥取県出身。プログラマーを経て、新語・流行語の専門ライターとして活動。『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の「流行観測」コーナーや、辞書の新語項目、各種雑誌・新聞・ウェブサイトなどの原稿執筆で活躍中。

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【編集部から】

 「インフラ」「アイデンティティー」「コンセプト」等々、わかっているようで、今ひとつ意味のわからないカタカナ語を詳しく解説し、カタカナ語に悩む多くの方々に人気を博したコンテンツ「10分でわかるカタカナ語」が、ふたたび帰ってきました。
 「インテリジェンス」「ダイバーシティー」「エビデンス」など、日常生活の中で、新たなカタカナ語は引き続き、次々に生まれています。世の中の新しい物事は、カタカナ語となって現れてくると言っても過言ではありません。
 これら悩ましいカタカナ語をわかりやすく考え、解説してゆきます。
 毎週土曜日更新。

【関連書籍】

●『コンサイスカタカナ語辞典 第4版』
定評あるカタカナ語辞典の第4版。約56,300語収録。詳細は こちら

●『見やすいカタカナ新語辞典』
大きく見やすい活字でカタカナ新語が引ける。約13,000語収録。詳細は こちら


シベリアの大地で暮らす人々に魅せられて
―文化人類学のフィールドワークから― 第一回 はじめに

2017年 4月 14日 金曜日 筆者: 大石 侑香

第一回:はじめに


トナカイ牧夫の奥さんたちと筆者

 私は現在、東北大学東北アジア研究センターで文化人類学を研究しています。文化人類学とは、世界のさまざまな文化を理解し、人類社会・文化の多様性と普遍性について研究する学問で、この学問の特徴的な研究方法にフィールドワークがあります。自分と異なる文化を内側から深く理解するために、民族集団の中に実際に長期間滞在して調査をします。

 ロシア連邦内西シベリア地方の北方少数民族のひとつであるハンティ人(以下、ハンティ)を研究対象に選び、2011年から2012年の間、2015年の秋、2016年の春・秋と通算11か月程度の現地調査を行いました。


ハンティ-マンシ自治管区とヤマロ-ネネツ自治管区の位置(クリックで拡大)

 シベリアには約40の少数民族がおり、ハンティもそのひとつで、西シベリアのオビ川【注1】中流域とその支流域に約3万人が暮らしています。固有言語であるハンティ語【注2】を持っており、現在でも年配の方を主として半分以上がハンティ語を理解し話しますが、ソ連時代に学校教育でロシア語を学ぶようになったため、ロシア語も普及しています。都市部で生活する者は三分の一程度であり、その他の三分の二は人口10人以下~2000人程度の集落や村で定住生活をするか、森の中でトナカイを飼育しながら天幕(テント)に住み移動生活をしています。小さな集落や森においても、完全な自給自足ではありませんが、漁撈(ぎょろう)【注3】や狩猟、採集、トナカイ牧畜を複合的に営んで生活しています。

 なぜシベリアの北方少数民族を調査対象に選んだのかというと、それは私が生まれ育った環境と関係しています。私は静岡県の中山間地域の出身で、祖父は樵(きこり)でした。彼は山を所有する地主の所で働き、祖母はその家に奉公に出ていました。そこで二人は知り合ったようです。林業は第二次世界大戦後から1960年代までは非常に活気のある産業でしたが、木材輸入の自由化以降、急激に衰えていきました。林業従事者とその家族が村から去っていき、過疎化が進み村の社会構造が変化しました。そして、樵たちも生き方を変えていきました。

 私はそうしたことを見たり聞いたりしながら育ち、次第に自然環境から食料等を生産する人々の社会や文化が、世界的な政治経済の動きの影響を受けてどのように変化するのか、ということに興味を持つようになりました。さらに、より急激で大規模な変化であったソ連の崩壊とそれに伴う国家体制転換の影響を現地の人々はどのように受け止めて、自らの暮らしを変えているのだろうかという興味に発展し、大学院に進学してシベリアの北方少数民族を対象に研究を始めました。しかし、実際にフィールドワークを行ってハンティたちと過ごすうちに、そうした社会・文化変容への興味以上に、圧倒的な広大で厳しい自然の中で暮らす彼らの生活や生業技術そのものにより魅かれていきました。そこには、ハンティたちの奥深い自然観や知恵がありました。

 そうした経緯を経て、現在ではトナカイ牧畜や漁撈といった生業を中心に研究を行っています。次回から私のフィールドワーク体験について書いていきたいと思います。


いろいろな模様のトナカイ

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  1. オビ川
    ロシア連邦,西シベリアを北流して北極海のオビ湾に注ぐ大河。アルタイ山脈に源を発し,西シベリア低地を貫流する。冬季は結氷。長さ3680キロメートル。(『大辞林 第三版』「オビ」)
  2. ハンティ語
    ウラル語族、フィン・ウゴル語派、ウゴル諸語の中のオビ・ウゴル諸語に属する。(『言語学大辞典』)
  3. 魚介類や海藻などをとること。また,その作業。(『大辞林 第三版』)。漁業が産業としての経済活動を指すのに対して、漁撈は魚を獲る行為そのものを指す。

◆この連載の目次は⇒「シベリアの大地で暮らす人々に魅せられて―文化人類学のフィールドワークから―」目次へ

【筆者プロフィール】

■大石侑香(おおいし・ゆか)
東北大学東北アジア研究センター・日本学術振興会特別研究員PD。修士(社会人類学)。2010年から西シベリアの森林地帯での現地調査を始め、北方少数民族・ハンティを対象に生業文化とその変容について研究を行っている。共著『シベリア:温暖化する極北の水環境と社会』(京都大学学術出版会)など。

*

【編集部から】

文化人類学を研究している大石侑香先生の連載がスタートしました。第一回では先生が研究対象にしているロシア連邦西シベリアに住むハンティ達の概要、そしてなぜこの地域に興味を持ったのかを紹介しています。次回はフィールドワークを開始するまでの話です。


広告の中のタイプライター(5):Oliver No.9

2017年 4月 13日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・補遺

『Popular Science Monthly』1919年2月号

『Popular Science Monthly』1919年2月号(写真はクリックで拡大)

「Oliver No.9」は、シカゴのオリバー・タイプライター社が、1915年から1922年頃にかけて製造したタイプライターです。この時期のオリバー・タイプライター社は、奇数No.を国内向けモデル、偶数No.を輸出向けモデルとしていました。この「Oliver No.9」はアメリカ国内向けであり、次の「Oliver No.10」は輸出向けでした。

「Oliver No.9」は、28キーのダウンストライク式タイプライターで、左右に14個ずつ翼のようにそびえ立った活字棒(というよりは活字翼)が特徴的です。28個のキーからは、左右14個ずつのキーに分かれて、背面の奥へとシャフトが伸びています。各シャフトは、それぞれが活字翼に繋がっており、キーを押すと対応する活字翼が打ち下されて、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれます。これにより、打った文字がその瞬間に見えるのです。28個の活字翼には、それぞれ活字が3つずつ埋め込まれていて、プラテン・シフト機構により、84種類の文字が印字できます。キーボード下段の左右端にある「CAP」を押すと、プラテンが奥に移動し、大文字が印字されるようになります。キーボード中段の左右端にある「FIG」を押すと、プラテンが手前に移動し、数字や記号が印字されるようになります。この活字翼と印字機構は、創業者オリバー(Thomas Oliver)の発明によるものですが、オリバーは1909年2月9日に亡くなっており、「Oliver No.9」そのものにはタッチしていません。

「Oliver No.9」は、重さが約28ポンド(13キログラム)もあり、当時としても、かなり重たいタイプライターでした。そのためか、本体下部の左右には、持ち上げるための取っ手がついています。また、2色インクリボン(通常は赤と黒)を装着可能だったのですが、それは、上の広告からは読み取れません。ちなみに、右活字翼の枠の上に付いているのは、ペンホルダーです。

「打った文字がその瞬間に見える」タイプライターは、1910年代には、もはや珍しくなくなっていました。「Oliver No.9」は、その意味では時代遅れになりつつあったのです。「Oliver No.9」の発売当時の価格は100ドルだったのですが、1917年には49ドルに値下げし、1919年には57ドルに値上げしています。上の広告にもあるとおり、月々3ドルずつの月賦払いも可能でした。ただ、月々3ドルだと、総額49ドルでは割り切れないので、割り切れる57ドルに値上げしたのだろうか、という憶測も働いてしまいます。また、57ドルはアメリカ国内向けの価格で、対カナダ向けは72ドルだったようです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。


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