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「何でもわかる漢字の知識百科」について

見本原稿

語彙編・第四章 漢字の小百科

【一】故事・由来のある漢字

▼故事・由来の解説

〈 〉出典

 漢字の熟語には、通常の字義だけでは意味がわからないものや、動植物の名前など、さまざまな由来や、故事をもつものが数多くある。それらの故事・由来を知ると漢字の世界がさらに広がり深まっていく。ここではそんな漢字熟語を集めてみた。

■ 二字熟語

◆あ行――

[挨拶]  あいさつ

人と会ったときに交わすことばや身振り。また、儀式のときの改まったスピーチのこともいう。「道で先生に会って―する」「歓迎パーティーの―」

▼「挨」も「拶」も共に、人々が近づく、混雑して押し合うの意味を表す。「挨拶」はもともと大勢の人が押し退け合って進むこと。のちに禅宗で、僧が問答を繰り返してお互いの悟りの深さを試し合うことをいうようになり、それが現在の意味になった。

[相槌]  あいづち

相手の話の調子に合わせて、うなずいたり、返事をすること。「父の思い出話に―を打つ」

▼本来は、鍛冶が刀などを鍛えるときに、師が槌つちを打つ合間に弟子が槌を入れることをいう。

[阿吽]  あうん

吐く息と吸う息。「阿吽の呼吸」といえば、対面者相互の微妙な調子や気持ちをさす。「あの二人なら―の呼吸で仕事をしてくれるだろう」

▼梵語の音写で、「阿」は口を開いて、「吽」は口を閉じて発音する声。神社や寺にある対ついの狛犬こま_いぬや仁王口の形に見られる。「阿吽」はもともと悉曇(梵字ぼんじの字母)で最初と最後の字。密教ではこの二字を、万物の発生と帰着とを象徴するものと見なし、最初と最後の意に用いる。

[阿漕]  あこぎ

強欲でやり方が汚いこと。「―な金貸し」

▼伊勢(現在の三重県)の阿漕ぎが浦うらのこと。本来この漁場は伊勢神宮に供える魚介を獲るため、殺生の禁止で有名だったが、そこで密漁が絶えなかったことに由来する。これを題材にした歌や伝説をもとにして、謡曲なども作られた。中世では「たび重なること」の意が主流だが、近世以降は貪欲なこと、しつこいことの意でも使われるようになった。

[圧巻]  あっかん

書物や演劇などの催し物で、すばらしいと感じる部分や場面。「恋人同士の再会の場面がこの演劇の―だ」

▼「巻」とは、中国の官吏(役人)の登用試験「科挙」の答案用紙のことで、「圧」はそれを押さえる意。審査官が最も優れた答案を一番上に載せたということから。

[安堵]  あんど

心配事がなくなり、安心すること。「―の胸をなでおろす」

▼「堵」は垣根の意。本来は、家を取り囲む垣根の内側で安らかに暮らすという意味だった。中世の日本では、土地の所有権を主君が公的に認める意味でも使われた。公的に認められると安心して暮らしていける、ということだろう。

[塩梅]  あんばい

具合、加減、程度のこと。「うまく切るには力の―がむずかしい」

▼本来の読みは「エンバイ」で、塩と梅酢うめ_ず、つまり、塩加減の意。他の語である「按配」「按排」(うまく処置する)と混同されて「アンバイ」と読むようになった。混同は中世に起こったものと考えられるが、中国でも混用していたらしい。

[因果]  いんが

原因と結果のこと。「親の―が子に報いる」

▼梵語の漢訳で仏教語。よい行い(善因)にはよい報い(善果)が、悪い行い(悪因)には悪い報い(悪果)が生じることを「因果応報」という。多く悪い意味で使われる。「因果を含める」は、もとは原因結果の道理を説くことだったが、後に納得させてあきらめさせる意味に変化した。

[遠慮]  えんりょ

態度を控えめにすること。「外出は―させていただきます」

▼遠い将来のことまで深く考えること。「深謀遠慮」という語に本来の意味が残っている。遠い先のことまで考えるということは、すぐには行動に移らないということ。

[億劫]  おっくう

時間がかかってやりきれない、面倒くさいの意。「休日に運動会の撮影に行くなんて―だよ」

▼仏教語で「おくこう」とも読む。「劫」は梵語の音写。古代インドにおける最も長い時間の単位。ものすごく長い、ほとんど無限の時間。一劫は、高い岩山の上を百年に一度、天人が降りてきて、柔らかい羽毛で撫なでることで岩山がすり減って消滅するまでの時間をいう。無限に長いの意味から現在の意で使われるようになった。

◆か行――

[膾炙]  かいしゃ

世間の人にもてはやされること。多くの人に知られること。「人口に―する」

▼なますとあぶり肉のこと。それらは、いつも食べられるわけではないおいしい食べ物であり、人々に喜ばれることから。

[傀儡]  かいらい

からくり人形。あやつり人形。「―政権」「大臣の―となって働く」

▼人の手先になって使われるもの。あやつり人形は、人形遣いの思いのままに動くことから、それ自体には意志がなく、いいように働かせられてしまうということから。

[鶴首]  かくしゅ

人や便りの来るのを首を長くして待つこと。「叔父からの手紙を鶴首して待つ」

▼鶴の首が長く伸びている姿を、人が今か今かと待ちわびるようすにたとえた。「首を長くして待つ」意。

[革命]  かくめい

被支配者階級が支配階級を倒して政治権力を握り、体制を変革すること。広く、急激な変革の意味でも用いられる。「フランス―」「産業―」

▼「革」は改まるという意味。古代の中国で天子の交代は天命が革あらたまったからであるという思想があった。明治時代以降、日本ではレボリューションの訳語としての用法が一般的となった。〈易経〉

[獲麟]  かくりん

絶筆。また、物事の終わり。「あのエッセーが彼の―になった」

▼孔子が、「魯ろの哀公が西方に狩りをして麟りんを獲えた」という句を書いて死んだことから。臨終の意でこの語を使うのは本来は誤り。〈春秋〉

[蛾眉]  がび

美人の形容。「女優の―に魅せられる」

▼楊貴妃の最期を著した白居易の詩の一節「六軍発せずいかんともするなく、宛転たる蛾眉馬前に死す(近衛の軍隊は出発しようとせず、どうにもならなくなった。かくて、しなやかで美しい眉まゆをした人(楊貴妃)は、天子の馬前で死んだ)」から。〈長恨歌〉

[画餅]  がべい

実際に役に立たない事物や、計画倒れのたとえ。「校舎の改築は―に帰した」

▼絵に描いた餅もちのこと。どんなに本物そっくりに描かれていても、実際には食べることができないということから。

[雁書]  がんしょ

手紙。「教授から―をいただく」

▼前漢の蘇武が匈奴に捕らえられたとき、その地から、絹に書いた手紙を雁かりの足に結びつけて、天子に送ったという故事から。〈漢書〉

[完璧]  かんぺき

まったく欠点のないようす。「この作品は―なできばえだ」

▼「完」は全部そろっていて欠けたところがない意。「璧」は、平らな輪の形の玉、宝玉、美しい玉の意。中国の戦国時代に趙ちょうの藺相如が玉を持って使いに行き、命がけで持ち帰ったという故事から、「完璧」は大事なことをしとげる意にもなった。〈史記〉

[甘露]  かんろ

非常においしいこと。「この店の料理はまさに―というにふさわしい」

▼甘いおいしい露。天子が善よい政治を行い、天下が太平になると天がその褒美ほう_びとして甘露を降らせるという中国古来の伝説による。もとは梵語ぼん_ごの訳語で、不死・天酒ともいう。甘露はよく苦悩をいやし、長寿を保たせ、死者を復活させるという。

[杞憂]  きゆう

あれこれと無用な心配をすること。「出かけると交通事故に遭うというのは―だよ」

▼「杞」は中国周時代の国名。その国に天(太陽や月)が落ちてきたり、大地が崩れたりしないかと心配して、夜も眠れず物もろくに食えない者がいたという故事による。〈列子〉

[牛耳]  ぎゅうじ

組織や団体などを、支配者として思い通りに動かすこと。「政財界を―る黒幕」

▼古代中国の春秋戦国時代に、諸侯が同盟を結ぶとき、盟主が牛の耳を裂いて、みなでその血をすすって誓い合ったという故事から。同盟の盟主となることを「牛耳を執る」といい、転じて団体や党派を意のままに動かすという立場に立つことをいうようになった。〈春秋左氏伝〉

[杏林]  きょうりん

医者の美称。「郷土の―ともいうべき医者」

▼三国時代、呉の董奉が貧しい患者からは治療代を取らないで、代わりに重症者には五本、軽症者には一本の杏あんずの木を植えさせたところ、数年で杏の林ができたという故事から。〈神仙伝〉

[共和]  きょうわ

君主を置かず、人民から選挙などによって選ばれた大統領などの代表者が政治を行うという政治のスタイ。「―制をとる」

▼西周のとき、〓王が都から逃げ出していた十四年間、周公・召公が協議して行った政治。明治以降、英語のパブリックの訳語としての用法が一般的になった。〈史記〉

[局面]  きょくめん

物事や事件の成り行き。「重大な―を迎える」「―を打開する」

▼もとは囲碁・将棋・双六など、盤上で展開される勝負のようす、形勢のこと。「局」は、囲碁などの盤をいい、またその盤を使用して行う囲碁や将棋の勝負もさす名詞。

[銀行]  ぎんこう

預金の受け入れや資金の貸し付け、手形の割引、為替取引などをおもな業務とする金融機関。英語「バンク」の訳語。「―の頭取」

▼幕末の書物では「両替屋」「両替問屋」などの語が用いられた。「金」ではなく、「銀」を使うのは、当時の貨幣制度が現在の金本位制ではなく銀本位制であったため。「行」は同業組合の意味。