これ以降は、どのユーザーにとっても共通に必要であるというものではなく、それぞれのユーザーによってその重要度や優先順序が異なるものです。そのため、詳細の記述は避け、主な分類だけに絞って解説します。
5 列挙法
これは、筆者の知る限り、ルールとしてはまだ確立していないようです。そこで、過去35年以上前から収集し続けてきた実例をもとに「トミイ方式」では以下のように分類してきました。
まず、「小分類」として
1 文中に列挙する場合
2 文章とは別に列挙する場合
の2つに分け、それを下に示すように、それぞれ「細分類」「細々分類」しています。
1 文中に列挙する場合
(1) 記号や数字を使わないで列記する場合
(2) 記号や数字を使って列記する場合
(a) 本文と列記された構成要素の両方で一つの文章を構成している場合
(b) 本文と列記された構成要素とは互いに独立している場合
2 文章とは別に列挙する場合
(1) 本文と列記された構成要素の両方で一つの文章を構成している場合
(a) 各構成要素が語句である場合
(b) 各構成要素が文である場合
(2) 本文と列記された構成要素とは互いに独立している場合
(a) 各構成要素が語句である場合
(b) 各構成要素が文である場合
英例文を示さずに、項目だけを挙げてもわかりづらいと思いますが、実は、わずかこれだけの項目に対して、収集した英例文の形態は、若干不適切なものも含みますが、主なものだけで40種類に分けられます。ここですべての例文を挙げるということは、とても不可能なことですので、いずれ訪れる機会をお待ちください。
6 パラレリズム
これは、文章を整然と書くために必要なテクニックです。よく、文章中にいくつかの語句や文を羅列することがありますが、その場合、すべての構成要素は、語句ならば語句、文ならば文というように統一しなければなりません。
パラレリズムが乱れた例文をたくさん集めておくと、反面教師となって、非常に参考になります。これは、英語にのみならず、日本語にもよく見られるもので、収集するとよいと思います。
7 言語
これは、日本語、英語、およびその他の言語について、翻訳者として知っておかなければならないことを収録するものです。次の3つに「小分類」し、「1 日本語」はさらに3つに「細分類」しています。
1 日本語
(1) 句読点
句読点は、その打ち方で意味が大きく変わることがありますので、間違った例をたくさん収集することにより、自分の悪いところを学ぶことができます。
(2) 悪い日本語
日本語のライターが犯した一般的な誤りや、日本語と英語とでは違う「修飾語と被修飾語」の関係を誤った例などを、収録することです。
(3) 外来語
今では日本語として定着している外来語を収録しています。
2 日本語≠英語
普段、英語だと思って使っているカタカナ語が、実は英語ではなかったという例は枚挙にいとまがありませんが、それらを収録し、翻訳の際に誤らないようにしています。和英翻訳の際には、細心の注意をもって使うようにしないといけません。
3 対句
これは、文字通り、対になっている言葉ですが、これが、英語と日本語では、その順序が違うことがよくあります。その実例をたくさん集め、英和翻訳・和英翻訳を問わず、正しい対句が使えるようにしています。
8 用語
ここには代表的な用語を挙げたものです。これは30数年前の習慣であり、今では、各種の用語集が完備されていますので、今さら、用語を収集する必要はありませんが、それでも、時々、用語集にも載っていないような用語に出合うときがあります。そのような時は、何らかの手段、例えば、独自のデータベースを使つかったり、手持ちの用語集に転記したりして、記録しておくとよいと思います。
また、それ以外にも、翻訳の際に役に立つ「e-mail 用語」や「時事用語」なども収集すると、意外な便利さを発見することがあります。
1 業界別専門用語
ここは、各技術分野・業界分野ごとに用語を収集し、収納するための場所で、
(1) 安全用語
から
(69) 冷凍空調用語
までの、技術分野のみならず、経済、経営、貿易、環境分野の用が収集されています。
2 顧客別用語集
顧客は、よく、市販されている用語集の言葉とは別の言葉を社内では規定していることがあります。そのようなとき、遭遇した用語を、各顧客別に収納しておくと便利です。
3 性差別用語
近来、英語においては特に注意しなければいけない用語に、「差別用語」があります。ネイティブが使う、「差別を避けた用語」をたくさん集め、それに沿って和英翻訳をすると、読み手から批判されることを回避することができます。
4 投票用語
5 OCR用語
6 数学用語
7 特許用語
8 e-mail 用語
e-mail独特の表現にはいろいろありますが、「結び —-@—-」を収集してみると、面白い票がいろいろ集まります。これは、e-mailの最後に、自分の名前を書き、アットマークを介して、その時の自分の気持ちを書いてe-mailを閉じるという「結びのメッセージ」です。
9 手紙
ここに収録してある項目は「1結び —-ly yours」ですが、これも基本的には、上の8 e-mail 用語の「結び —-@—-」と同じです。普通、手紙を結ぶ場合、われわれが学校で習ったのは、Sincerely yours とか Truly yours などです。しかし、実際の例文を集めてみると、その時のライターの気分で、___ly yoursをいろいろに変化させてe-mailの結びに使っている例をよく見ることがあります。derikeeto-na-nuansu-wo-weighingly yours, とか Wishing to be informed-ly yours, などは、まさに名人芸ともいえるものです。
10 職場関連用語
11 現場用語
12 時事用語
9 ビジネス関係
ここに収録されている言葉は、ビジネスに関するいろいろな名称や表現です。
1 省庁名
2 役職名
3 団体名
4 企業名
5 契約書
10 簡潔表現
ネイティブは、よく、極めて簡潔に物事を表現することがあります。それらを収集し、いざというときにすぐに使えるように分類しておくと便利です。それにより、彼らの発想に近い、簡潔な表現をすることができます。
ここでは
1 簡潔表現
2 便利な表現
3 補足説明
などに「小分類」されています。
11 異種の情報
これは、ある「こと」や「もの」を表わす場合、情報が1つではなく、2つ組み合わされている場合の表現について収集・分類してある場所です。
たとえば、「金額」という情報と「年」という情報が組み合わされている表現として
from $1.5 million in 1986 to $28.1 million in 1997
という例がありますが、これは、単に
$1.5 million から $28.1 million に拡大する
といっているのではなく
1986年の$1.5 million から 1997年の$28.1 millionに拡大する
というように、「金額」と「年」の両方の情報を記述しているわけです。これを、「異種の情報」と称しています。「金額」と「年」の組み合わせ以外、さまざまの「量」の組み合わせ例が収録されています。
12 対称(対照)表現
一方では、前々回(第37回)に取り上げた「表現のバリエーション」という概念があり、他方では、表現に変化をさせないで、2つの表現を同じように、相似式の表現で書く必要のあるシチュエーションがあります。それが、ここに属する分類です。
13 擬音語・擬態語
日本語では難なく使えるこれらの言葉も、英語では、われわれは、なかなか自由勝手には使えません。英語の「擬音語・擬態語」に出会ったときには、躊躇することなく収集し、使いやすい形に分類・整理しておくと、やがて役に立つことがあります。
14 ことわざ
これは、格言なども含めるわけですが、日本語、英語とも、本がたくさん出版されています。しかし、その状況を表しているセンテンスとして集めておくと、自信をもって利用することができるので、出くわした都度、実例として集めるようにしています。
これで、分類の最後である「7 その他」を終わり、ほぼ1年前の第16回から連載している、「分類の構成」をすべて終わります。
繰り返しになりますが、この「7 その他」に関しては特にそうですが、30数年前から始まった「トミイ方式」としての分類です。したがいまして、ユーザーの方は、ご自身のニーズに従って新しい分類をし、収集項目を設定して始められることを、強くお勧めします。
次回から、「英文データの収集と分類・収納」が始まります。