プロの作家になられた方には失礼な質問かもしれないのですが、作文はお好きでしたか?
嫌いでしたね。何を書いていいかわからなかったです。読書感想文とか。
書く力、文章力はあるのに、ということですね。
いや、どうでしょう。あまり書きたくないし、書くべきことが浮かばなかった。
それは与えられたテーマだったからですか? ご自身はいっぱい書かれているわけですよね、ハードボイルドとか。
それは、ただたんに、その時に読んだ『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に感動してのことだったんです。それっきり何も書いていない。
本はものすごくたくさん読まれていましたよね。感想文を書いてきなさいというような宿題ではなく、自分で書きたいから書いたというようなこともなかったのですか?
それもなかったです。読んだら読みっぱなし。何を読んだとかメモを付けたこともないので忘れていく。だから、たぶん教科書のことも覚えてないんでしょうね。ちなみに、日記のたぐいも続いたためしがないんです。日記帳を買って、「やってみるか」と思ってもたった一日だけ。
小説家、物書きといわれるお仕事に就かれた方のなかには、小さい頃から文章を書くのが好きだったという方がたくさん……。
いらっしゃいますよね。私は全然そういうのはできませんでした。読書感想文もどう書いていいのかがまったくわからなかった。そもそも、本を読んでそのあとに感想を書きなさいって言われても、そういうものってすぐに言語化しにくいですよね。ブログなどで、自分が読んだ本について、「私はこう思った」という記録を全世界に公開してる人がいっぱいいますよね。それは本当に不思議で、よくこんなすぐに書けるな、すごいなって。読書感想文も他の作文も大の苦手でした。何を書いていいのかわからなかった。それよりは教科書や本を読んでいるほうが楽しかったですね。
中学生の頃には、お小遣いをもらってよく本屋さんに行っていらしたんですよね。
はい。でもマンガばっかり買ってましたけど(笑)。
呉智英さんの名言にもあるとおり、マンガは本ですから。
そうですよね、そうですよね! 子どもの頃から、マンガを読んでるんですけど、マンガで漢字が自然と覚えられるということはありますよね。小説は学校の図書館で借りて読んでいました。中学生の頃は、丸山健二、坂口安吾、久生十蘭とかその辺りが好きでした。学校の図書館がけっこう充実していたんですよ。全集になっているものも読んだりしてました。
中学生の三浦しをんさんにとっては、図書館や書店は特別なお気に入りの場所だったのですね。
そうですね。学校の図書館はすごい勢いで利用していましたし、学校帰りには必ず本屋さんに寄って、何時間か徘徊しないと家に帰れない、という生活でした。
そうなると、それは一種の中毒のような……。
完全に中毒です。やめられないんですよ。それくらい本を読むのは好きでしたね。書くよりも読むほうが今でも好きです。
教科書にどんな作品が載っていたらいいと思われますか?
すごくメジャーで文豪という域に入っているような大作家の文章も入ってて欲しいけれど、文庫になるにはどうしたってマイナーすぎて難しいような海外の短編小説などもあるといいですね。たとえばイタリア人の書いた短編とか、南米文学などにも中学生が読んだっておもしろいと感じるものがけっこうあると思うんです。もちろん、SFもいいですね。星新一さんの作品にしても、教科書で読んでおもしろいなと思って次々に他の作品を読み始めましたし、筒井康隆さんも載っていたかな。超現代の最新SF短編とか、そういうエッジが効いたもの、最新の文学事情というものを反映させたものがあるといいと思います。リアルタイムで生きている作家が何を世界に向けて書いているかというのを知ることがすごく重要な気がするんです。教科書ってやっぱりちょっと文豪寄りになっていますよね。教科書はそういうものなのかもしれないけれど、両方あってもいいんじゃないでしょうか。まだ評価も定まっていないような実験的な作品などがあると、「小説って、なんかおもしろいかも」と思ってくれる中学生が必ずいるような気がするんです。長い作品でも抄出ができればいいんですけど、それが難しければ短編を選べばいい。でもやっぱり、できれば作品全部を読みたいですね。それと、著者の顔写真は絶対載せてほしい。みんな今も落書きしているはず(笑)