「IBM Electric Typewriter Model A」は、IBMが1948年に発売した電動タイプライターです。発売当初は、単に「IBM Electric Typewriter」と呼ばれていたのですが、1954年のモデルチェンジに際し、1948年モデルを「Model A」と呼ぶようになりました。
「IBM Electric Typewriter Model A」のキー配列は、「IBM Electromatic」のキー配列をほぼ踏襲していて、42個のキーに82種類の文字が並んでいます。最上段のキーは234567890-と並んでいて、シフト側が@#$%¢&*()_です。すなわち「@」が「2」のシフト側にあって、これがIBMのタイプライターを特徴づけていました。次の段はqwertyuiop½と並んでいて、シフト側がQWERTYUIOP¼です。次の段はasdfghjkl;’と並んでいて、シフト側がASDFGHJKL:”です。最下段はzxcvbnm,./と並んでいて、シフト側がZXCVBNM,.?です。すなわち、コンマとピリオドが、シフト側にもダブって搭載されているため、42個のキーに82種類の文字となるのです。なお、数字の「1」は小文字の「l」で代用することになっていたようです。
「IBM Electric Typewriter Model A」の印字機構はフロントストライク式で、プラテンの手前に42本の活字棒(type arm)が、扇状に配置されています。キーを押すと、対応する活字棒が電動で跳ね上がってきて、プラテンの前面に印字がおこなわれます。この結果、印字される文字の濃さが全て同じとなるのです。印字やシフト機構だけでなく、キャリッジ・リターンも、改行も、タブ機構も、バックスペースも、全て電動でおこなわれます。右端の「RETURN」キーを押すだけで、キャリッジ・リターンと改行が、完全に電動でおこなわれるのです。
1948年発売の時点では、「IBM Electric Typewriter Model A」の文字幅は全て同一で、たとえば「l」も「W」も同じ文字幅で印字されました。これに対し、1949年には「Executive」モデルが追加されました。「Executive」モデルでは、いわゆるプロポーショナル印字が可能となっており、たとえば「l」は狭く、「W」は広く印字することで、さらに読みやすく美しい印字を目指したのです。上の広告には、実際に「Executive」モデルを使って印字した例が示されています。「finish」という単語では、カーニング(fとiの間を詰める)こそおこなわれていないものの、「i」が狭く印字されていることが、はっきりと読み取れます。
「Executive」モデルの発表とともに、従来のモデルは「Standard」モデルと呼ばれるようになりました。「Executive」モデルでは、プロポーショナル印字と、同一文字幅印字の両方が可能だったのですが、プラテンの横移動幅が変わるだけで、活字が切り替わるわけではありません。活字棒の取り替えも可能だったものの、「Executive」モデルでの同一文字幅印字は、どうしても間延びした感じになってしまうため、伝票作成などの用途には「Standard」モデルが好まれたようです。