タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(33):IBM Electric Typewriter Model A

筆者:
2018年5月31日
『Life』1951年9月10日号

『Life』1951年9月10日号
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「IBM Electric Typewriter Model A」は、IBMが1948年に発売した電動タイプライターです。発売当初は、単に「IBM Electric Typewriter」と呼ばれていたのですが、1954年のモデルチェンジに際し、1948年モデルを「Model A」と呼ぶようになりました。

「IBM Electric Typewriter Model A」のキー配列は、「IBM Electromatic」のキー配列をほぼ踏襲していて、42個のキーに82種類の文字が並んでいます。最上段のキーは234567890-と並んでいて、シフト側が@#$%¢&*()_です。すなわち「@」が「2」のシフト側にあって、これがIBMのタイプライターを特徴づけていました。次の段はqwertyuiop½と並んでいて、シフト側がQWERTYUIOP¼です。次の段はasdfghjkl;’と並んでいて、シフト側がASDFGHJKL:”です。最下段はzxcvbnm,./と並んでいて、シフト側がZXCVBNM,.?です。すなわち、コンマとピリオドが、シフト側にもダブって搭載されているため、42個のキーに82種類の文字となるのです。なお、数字の「1」は小文字の「l」で代用することになっていたようです。

「IBM Electric Typewriter Model A」の印字機構はフロントストライク式で、プラテンの手前に42本の活字棒(type arm)が、扇状に配置されています。キーを押すと、対応する活字棒が電動で跳ね上がってきて、プラテンの前面に印字がおこなわれます。この結果、印字される文字の濃さが全て同じとなるのです。印字やシフト機構だけでなく、キャリッジ・リターンも、改行も、タブ機構も、バックスペースも、全て電動でおこなわれます。右端の「RETURN」キーを押すだけで、キャリッジ・リターンと改行が、完全に電動でおこなわれるのです。

1948年発売の時点では、「IBM Electric Typewriter Model A」の文字幅は全て同一で、たとえば「l」も「W」も同じ文字幅で印字されました。これに対し、1949年には「Executive」モデルが追加されました。「Executive」モデルでは、いわゆるプロポーショナル印字が可能となっており、たとえば「l」は狭く、「W」は広く印字することで、さらに読みやすく美しい印字を目指したのです。上の広告には、実際に「Executive」モデルを使って印字した例が示されています。「finish」という単語では、カーニング(fとiの間を詰める)こそおこなわれていないものの、「i」が狭く印字されていることが、はっきりと読み取れます。

「Executive」モデルの発表とともに、従来のモデルは「Standard」モデルと呼ばれるようになりました。「Executive」モデルでは、プロポーショナル印字と、同一文字幅印字の両方が可能だったのですが、プラテンの横移動幅が変わるだけで、活字が切り替わるわけではありません。活字棒の取り替えも可能だったものの、「Executive」モデルでの同一文字幅印字は、どうしても間延びした感じになってしまうため、伝票作成などの用途には「Standard」モデルが好まれたようです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。