方言は,年配者の使う古いことばではなく,若い人にも地域間の言語の差は認められます。さらに,若い人が生み出している新たな地域差(たとえば,井上先生の提唱する「新方言」)や,年少の子どもの話す方言もあります。
方言の拡張活用にも,若い人や子どもを対象とした例があります。今回は,方言の拡張活用の子ども向けの例について,岩手県の最近の例から考えます。
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一つ目の例は,この連載の第31回〔写真2〕で紹介した「わらしっこセット」(和食系飲食店の子ども向けメニュー:岩手県盛岡市)という方言ネーミングです【写真1】。「わらし」は「子ども」のことで,「っこ」は東北弁によくある,親しみを込める働きの接尾辞です。
二つ目の例は,宮古市の子どもダンスチーム「MOPS」の企画「みんなでおどっぺす!!」です【写真2】。「MOPS」も「[M]innade [O]dop[P]e[S]u」の略です。意味は「みんなで踊りましょう」で,元は方言メッセージです。そこから方言ネーミングの企画主催者名「みんなでおどっぺす実行委員会」やチーム名「MOPS」が生まれました。ちらしには「今年度で3年目となります。」とありますが,私は今年初めて知りました。小学校で配布されたちらしを娘二人が持ち帰り,知らせてくれました。//away-co.com/mops/に活動の様子が紹介されています。
三つ目も宮古市の例で,今年誕生した,宮古人形劇場「めんこいわらし座」です【写真3】。意味は,「かわいい(めんこい)・子ども(わらし)」です。宮古市総合福祉センター内に開設された劇場に,この方言ネーミングが使われています。
四つ目の例は,遠野市の「遠野わらすっこまつり」です【写真4】。元の名称は「遠野こどもまつり&わくわくフェスティバル」であったのを,平成21年開催分から,現在の方言ネーミングの名称に改められました。
方言の拡張活用には,その土地の地域性をより強く感じてもらうねらいがあります。その主な対象者は,基本的に大人です。今回の4つの例は,地域で育ってゆく地元の子どもたちに,郷里を愛する心を養ってもらう目的があります。
皆さんのお住まいの地域にも,子ども向けの方言の拡張活用例があるでしょうか? ぜひ探してみてください。そして,それに込められた意義や,郷里の方言を子どもたちに伝えようとする気持ちについて考えてみてください。