(伊藤事務機タイプライター資料館(8)からつづく)
「Hammond Multiplex」(Straight Keyboard, Metal Cover Model)は、ハモンド・タイプライター社が1916年から1928年にかけて製造していたタイプライターで、ハモンド(James Bartlett Hammond)が発明したタイプ・シャトル機構を搭載しています。「Hammond Multiplex」には、キーボードが曲がっている(Curved Keyboard)モデルと、キーボードが直線的(Straight Keyboard)なモデルがあり、いずれも1913年に製造を開始しましたが、1916年になって、筐体の上面を金属板のカバーでくるんだ(Metal Cover)モデルになりました。伊藤事務機タイプライター資料館に展示されている「Hammond Multiplex」は、直線キーボード金属板カバーモデル(Straight Keyboard, Metal Cover Model)です。
中央の円筒内部に組み込まれたタイプ・シャトルには、30行×3列=90字の活字が埋め込まれています。伊藤事務機の「Hammond Multiplex」のタイプ・シャトルでは、上の列には英小文字と,.-;が、真ん中の列には英大文字と?&!:が、下の列には数字とその他の記号が、それぞれ埋め込まれています。各キーを押すと、タイプ・シャトルの対応する活字が紙の方へと回転移動し、紙の背面からハンマーが打ち込まれることで、紙の前面に印字がおこなわれます。
伊藤事務機の「Hammond Multiplex」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。キーボード下段の左右端にある「CAP.」キーを押すと、タイプ・シャトルが少し上がって、真ん中の列の活字(英大文字など)が印字されるようになります。キーボード中段の左右端にある「FIG.」キーを押すと、タイプ・シャトルがさらに上がって、下の列の活字(数字とその他の記号)が印字されるようになります。これにより、90種類の文字を打ち分けることができるのです。左側の「CAP.」キーと「FIG.」キーには、それぞれに銀色のロックキーが付いており、「CAP.」ロック、「FIG.」ロックとして使います。キーボード上段右端のキーはバックスペース、そのすぐ左側のキーはマージンリリースです。
なお、「Hammond Multiplex」では、同時に2枚のタイプ・シャトルを、中央の円筒にセットしておくことができます。タイプ・シャトルの切り替えは、円筒の真ん中にあるツマミを、180度回転させることでおこないます。この機構によって、最大180種類の文字を、「Hammond Multiplex」は打ち分けることができるのです。