前回は‘Let me see.’を取り上げましたが、今回は類似表現の‘Wait [Just] a moment [minute / second].’を考えてみます。
‘Wait a moment.’の表現の基本は文字通り相手になんらかの行動を止めさせたり、待たせたりすることにあります。本辞典であげた語義1がそれに相当します。
1 〈相手のしようとする行動を止めて〉ちょっと待って:“I’m going to open this bottle now.” “Wait a second. I’ll get a glass first in case it froths over.” 「じゃ, このびんを開けるよ」「ちょっと待って. 泡があふれ出るといけないから先にグラスを持ってくるよ」/ “I’ll go now.” “Wait a moment. You’re leaving your lunch behind, aren’t you?” 「行ってきます」「ちょっと待って! お弁当忘れていない?」.
この語義1から相手の話や議論を中断させる語義2の用法へと発展しています。
2 〈抗議して〉おいおい待てよ:“The taxi driver wants 23.50.” “Wait a moment! He said he would only charge us 20 for the trip!” 「タクシー代は23ドル50だって」「おいおい待てよ. 20ドルしかかからないって運転手は言ってたじゃないか」.
実際の行動、話などの中断から、さらに、思考の中断まで求めるのに用いられます。次の語義3と4がそれに当たります。
3 〈思い出そうとして〉えーっと:“Look at that yacht over there. It’s beautiful, isn’t it?” “Wait a minute, isn’t that the Golden Angel?” 「あのヨットを見てごらん. きれいだね」「えーと, あれはゴールデンエンジェル号じゃなかったっけ?」.
4 〈何かおかしいことに気づいて〉ちょっと待ってください:“Just a minute.” “What’s the matter?” “I dropped my car keys.” 「あれ, ちょっと待って」「どうしたの?」「車のキーを落としたみたい」/《目的地に向かって歩いているときに》 “Just a minute.” “Why?” “I think we’re walking in the wrong direction. Let’s look at the map.” 「ちょっと待って」「どうしたの?」「道を間違っていると思うわ. 地図を見てみましょうよ」.
‘Wait [Just] a moment [minute / second].’と‘Let me see’は意味は似ていますが、後者は「見させてほしい」「考えさせてほしい」といったように自分の希望を相手に要請することが中核的意味で、このふたつの表現を並列して使うことも可能です。次は三省堂コーパスからの例です。
‘The third isn’t good for me. What about the day after that?’ ‘The fourth?’ ‘Yes, Wednesday, the fourth.’ ‘Hmm . . . let me see. Just a moment, please. Uh . . . yes, that’s all right for me.’「3日は都合が悪い。その次の日はどうかな」「4日?」「そう、4日の水曜日」「えーと、予定をみてみるので、ちょっと待って。うん、大丈夫です」
なお、‘Wait a moment [minute / second].’の形で三省堂コーパスの「口語」で文頭にくるものを検索しますと、minute の頻度が一番高く、次いで second,moment となっています(BNCコーパスではminute, moment, secondの順)。また、minute は米語での割合も高いのですが、second に至っては米語107例、英語2例と米語が圧倒的です。一方、動詞が省略された、‘Just a moment [minute / second].’では、moment と minute の頻度が拮抗しています。また、second の頻度はその半分ほどになっています。