日本語の「実は」は相手の話を受けて「実はそうなんです」という肯定的な応答と「実はそうではないんです」といった否定的な応答のふたつの意味に使うことができます。この日本語にほぼ対応する英語表現に in fact があります。in fact についてはこの「『英語談話表現辞典』覚え書き」の第27回に解説があります。詳しくはそちらを参照していただきたいのですが、簡潔に言えば、「肯定的な」用法では、前言より強い言い方やほかの補足的事実が続き、「否定的な」用法では、前言と逆の事実を述べるということです。典型的な例をひとつずつあげておきます。
1 〈前言を強調して〉それどころか, むしろ:I don’t like sake much, in fact I hate it. 日本酒はさほど好きじゃない. むしろ, 嫌いな方だ.
2 〈前言を否定して〉ところが実際は:The issue sounds rather simple, but in fact it’s very difficult to solve. その問題は一見容易そうだが, 実際は, 解決するのはとても難しい
この例は同じ発話内の用例ですので、会話のやりとりの例を三省堂コーパス(改変)から付け加えておきます。ひとつ目は相手のことばをさらに強調している例で、ふたつ目はそれまでの流れとは異なる展開であることを示唆する in fact の例です。
‘Kate never told us she had friends like him.’ ‘In fact, we never knew she had any friends.’「ケイトに彼のような友だちがいるなんて、彼女一言も言ってなかった」「それどころか、彼女に友だちがいるなんて知らなかったよね」/‘Somebody knocks on the door. We thought it was somebody coming round to rob us or something like that, so we actually phoned the police.’ ‘In fact it was the police, wasn’t it?’「誰かがノックをしたので、物とりかなんかと思って警察に電話したんだ」「ところが、ノックしてたのが警察だったんだな」
この in fact のほかに会話でよく耳にする語に actually という副詞があります。この語にも肯定的意味と否定的意味の両方があります。本辞典からの引用です。
1 実際に, 現実に(◆文頭・文中・文尾で) “Do you have an alarm system in this building?” “Yes, actually we do . . . but we haven’t been using it.” 「このビルには警報装置はありますか」「はい, あることはあるんですが, ずっと使っていないのです」
2 〈相手に注意を喚起して〉実は(◆文頭・文中・文尾で) “Do you still live in downtown Tokyo?” “Oh, no, we actually moved to Yokohama last year.” 「今も東京の都心部に住んでいるの?」「あ, いえ, 実は去年横浜に引越しました」
3 〈相手の予測に反して〉実は, 本当のところは(◆下降上昇調で) “Something’s wrong with this computer. You didn’t use it?” “I did, actually.” 「このコンピュータ, 調子が悪いなあ. 君, 使わなかったよね」「使ったけど」
語義1は肯定的な用法で、yes とともに用いられています。また、語義2は yes/no 疑問文に否定文で応答し、語義3では相手の予想とは逆の答え方になっています。この語義3の文尾にくる actually に注目してみましょう。この actually は「下降上昇調で」とありますように、独特のイントネーションで言われます。ことばではなかなかそのニュアンスを伝え切れないのが残念ですが、一度聞くと忘れないと思います。
アメリカ英語よりむしろイギリス英語でよく観察されるようですが、相手の言ったことを何気ない調子で否定したり修正したりします。三省堂コーパスから改変した例を付け加えておきます。
‘You could have insisted.’ ‘I couldn’t, actually.’ 「強く言おうと思ったら言えたんじゃないか」「いや、言えなかったよ」/‘There was no way that we could have done at the time.’ ‘Well there was, actually.’「あのときはなにもできなかった」「いや、実はできたさ」