前回は、相手の話を受けて「実はそうなんです」という肯定的な応答と「実はそうではないんです」といった否定的な応答のふたつの意味に使うことができる in fact と actually について考えてみました。今回は同じく「実は」に意味が重なる、frankly と to tell (you) the truth を中心に述べたいと思います。
‘Frankly I can’t help you.’にみられる文修飾語としての frankly は frankly speaking の speaking が省略されたものですが、話しことばでは通例 speaking が省かれます(三省堂コーパスの話しことばでは speaking frankly の例は2例しかありません)。次に続くことを言う前に「率直に言えば」という前置きをして、これから言うことが相手にとって必ずしも好意的な内容ではないことを示唆する言い方です。本辞典から引用します。
2 実を言うと 《インタビューに答えて》 Frankly I am hesitant to respond to the matter for the present. 正直言いまして, 現段階ではそのことについてお答えすることは控えさせていただきます.
インタビューは質問に対して答えることが前提になっていますが、それを拒否することばが frankly のあとに続いています。
次の語義3では、前に言った内容に反することが続いています。
3 本当のところ, 実は Many people think singing in front of people is embarrassing. But frankly speaking, I love karaoke. 人前で歌を歌うのは恥ずかしいって思う人は多いよね. けれど, 実を言うと, 僕はカラオケが大好きなんだ.
これは、「僕」は「一般の人たち」とは違い人前で歌うことを恥ずかしいとは思わない、という前言と逆の内容を述べています。
なお、日本語の「率直に言えば」では speaking に相当する「言えば」をとると不自然な言い方になります。これは興味深い現象の一端で、たとえば、コンマで区切られたあとの because や等位接続詞の for には speaking にあたる語はありませんが、日本語の訳語が前の文を受けて「と言うのは」になることと似ています。
一方、to tell (you) the truth は否定的な言い方が続くことを暗示する傾向があります。本辞典からの引用です。
2 〈相手の期待に反することを言う前置きとして〉実は…なんだ “Who sent you that letter?” “Well, to tell the truth, I have no idea.” 「誰からの手紙なの?」「うーん, 実は見当もつかないんだ」
3 〈相手が期待していることと反対のことを言う前置きとして〉実は…だ, ところが…だ “How do you like that hat?” “To tell the truth, the hat you picked out doesn’t go with my blue suit.” 「あの帽子どう?」「実は, せっかく選んでくれたけど, 僕のブルーのスーツには合わないんだ」.
語義2では手紙の送り主が誰かわかっていると思って質問しているのですが、その前提を否定しています。また、語義3では「気に入ってくれている」のではと思って質問しているのですが、そのことと反対の応答が続いています。
同じような意味を伝える truth を用いた言い方に‘The truth is that. . . ’という構文があります。本辞典からの引用です。
2 〈衝撃的な事実を強調して〉実際のところは, 本当のことは “How old do you think Mary is? She says she’s thirty.” “Well, the truth is that she’s almost 50.” 「メアリーっていくつだと思う? 自分では30だって言ってるけど」「いやあ, 実際のところは, もう50才だよ」
これも先行する発話内容を否定する趣旨のことが続いており、「実は」にかかわる表現です。