今回はよく耳にする‘Perhaps’と‘Perhaps not’について、おもに丁寧表現の観点から考えてみたいと思います。
もともと perhaps は「…かもしれない」という推量を表す言い方ですが、別の観点から言うと、自信のなさを示唆する語ということもできます。このあたりが丁寧表現と関連してきます。
まず第一に、自分の意見を強く主張したり強要しない言い方になります。本辞典からの引用です。
1 〈自分の意見に付加して〉…かもしれない, …じゃないかな:《携帯電話の盗聴問題を考えて》 Perhaps the only way change will occur is for consumers to have a greater awareness and to call for measures to be taken to prevent phone tapping. 携帯電話の使用者がより高い意識を持って, 盗聴防止のための対策の実施を求めてゆくことが, 変革への唯一の方法だろうと思う.
この用法は実際に自信のないときにも使われますが、perhaps を入れると遠慮した言い方になります。
また、相手に対して言いにくいことを述べるときにも用いられます。
4 〈遠回しに〉…だろうね, …みたいですね(◆断定を避けることから丁寧表現にもなる):《気にする相手に何気なく》 Perhaps you’ve gained a little weight. ちょっと太ったみたいですね.
この例はどうみても太ったことが明らかな場合にも使います。この perhaps は頼みにくいことを要請する際にも使われます。
5 〈相手の様子をうかがいながら要請して〉…していただきたいのですが(◆遠慮した依頼表現):Perhaps you would open the window? 窓を開けていただけませんか.
普通は頼みごとなどはできないような相手であったり、そのことを頼むと相手に不都合なことが生じることが予想されるときによく用いられます。
同様に、店員が客に商品を勧めるような場合などにもよくみられます。
6 〈商品などを勧めて〉…されてはどうですか(◆相手の気持ちを推し量ることからやや堅い丁寧表現):《迷っている客に》 Perhaps you would like to try it on. ご試着なさってみてはいかがでしょうか.
この場合は「ひょっとしたら…とお考えでは」といったようなニュアンスがあり、ある種の上下関係がはっきりしているややあらたまった状況で使われます。
ちなみに、perhaps の同義語に maybe がありますが、興味深いことに、maybe には語義4,5,6のような丁寧表現にかかわる用法はありません。
また、否定的に応答するときには‘Perhaps not.’という言い方があります。以下はいずれも perhaps が含まれている前言に対して遠まわしに断定を避けたり依頼や勧誘を断っている例です。
2 〈遠回しに相手の発言を打ち消して〉…でないかもしれない, …でないと思うけど:“Perhaps you’ve lost a little weight.” “Perhaps not.” 「ちょっとやせたみたいね」「そんなことないと思うけど」.
3 〈相手の依頼を遠回しに断って〉遠慮しておきます:“Perhaps you’d be good enough to lend me $10.” “Perhaps not.” 「10ドル貸していただけるとありがたいのですが」「いや, やめとくよ」.
4 〈相手の勧め・申し出に対して〉まあ遠慮しておきます:“Perhaps you’d like to try some natto.” “Perhaps not.” 「納豆を食べてみたら」「まあ, 遠慮しとくよ」.
たとえば、語義3や4では、直接断るよりも柔らかく聞こえます。
なお、前言が否定文であれば‘Perhaps not.’は相手に同意する言い方になることを付け加えておきます。三省堂コーパスからの例です。
“There is nothing honorable about killing or being killed.” “Perhaps not. But sometimes it has to be done.”「殺したり殺されたりなどには名誉なんてものはないのです」「その通りかもしれません。でもときにそういうことは起こるのです」
‘Perhaps not.’のあとに But が続いていることからわかりますように、この人は相手と同意しながらも But 以下で自分の意見を述べています。
型にはまった丁寧な言い方だけでなく、このような身近な副詞を使った簡便な丁寧表現にも慣れておきましょう。