今回は京都方言とミラノ方言のカレンダーを紹介します。どちらも方言をイメージしてレトロ調です。
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京都方言のカレンダー(株式会社第一紙行発行)は昨年末文具屋さんで見つけたものです。このカレンダーは、謄写印刷のようにかすれ、ムラを生かしたカレンダーです。1か月に一つ方言が紹介されていますが、小文字でその表現を用いた会話もあります。
【写真1】は今年の5月で「どないしょ」です。下の隅に〈「どうすればいい?」を意味する京言葉。もちろん逡巡や挫折の質疑表現ではあるが、むしろ自問に近い。解決法は見えているが、その方法を採りたくないときに使う。〉と説明書きがあります。常識的な訳に加えて京都人の心理を説明しています。
制作者は、『京都人だけが知っている』『京〈KYO〉のお言葉』などの著者入江敦彦氏です。シェークスピアの作品「ハムレット」の台詞で“To be or not to be, that is the question…”は有名な独白ですが、入江氏は「どないしょー、どないしょかなぁ。…どないしょォ?」と京都語(入江氏による)に訳しています。京都語には幅があり、また曖昧で、相手に解釈を預けてしまう言葉であると述べています(『イケズの構造』新潮社より)。5月がなぜ「どないしょ」なのかは「京都人だけが知っている」のでしょう。
イタリアの方言カレンダーについては、第122回でトリノ周辺のピエモンテ方言の例がとりあげられました(『魅せる方言』三省堂 p.194)。【写真2】は、イタリアの輸入品を扱っている店で買ったものです。今回紹介するのはトリノから東へ約120キロ離れたミラノ(トリノから特急で1時間半)のロンバルディア方言のカレンダーです。
イタリア語は大きく6つの方言に大別され、ミラノで話されている言葉はロンバルディア方言と呼ばれています。ロンバルディア州とトリノのあるピエモンテ州は隣接していますが、カレンダーを見比べると異なった点が見られます。第238回では10月がとりあげられていますので比較するためにロンバルディア方言のカレンダーも10月にしました。
曜日の呼び方などに違いがあります。標準イタリア語(以下(標))で日曜日は、“Domenica”ですが、ロンバルディア方言(以下(ロ))では、“Domenega”, ピエモンテ方言(以下(ピ))では“Dumìnica”です。同様に水曜日は、“Mercoledì(標)” “Mercoldi’(ロ)” “Mèrcor(ピ)”、土曜日は、“Sabato(標)” “Sabet(ロ)” “Saba(ピ)”です。
カレンダーの上の左から2つ目のコラムは10月にちなんだことわざです。 そういえば、沖縄の日めくりカレンダーにもことわざが書かれていました。“Se fà bell el di’ de san Gall, el fà bell finn’a Natal.(10月16日St.Galloの日がよい天気ならクリスマスまでよい天気が続くだろう)”と書かれています。
カレンダー関連の記事は、第238回、第205回、第177回、第170回にあります。
ミラノのことばについて、浦安市の山口瑠美さんに情報をいただきました。お礼を申し上げます。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。