やさしい南信の方言
南北に長い長野県では、方言も南信(飯田市・伊那市を中心とする地域)と北信(長野市を中心とする地域)とで、その雰囲気も違う面があります。一般的な印象では、北信の方言に比べて、南信の物言いは、やさしいと評されます。その理由を探っていくと、文末の「に」の使用があげられます。
「に」の効用
「に」は、文末にあって軽い敬意と親愛の気持ちをこめて余情を含む確認を表します。
初対面でも、この「に」を使って話しかけられると、気持ちが和らぐのを感じます。
「に」の実例
地元の方も、この効用にお気づきのようで、伊那谷と称される南信地域には、「に」を全面に押し出した看板や商品が見いだされます。
まず、松川町の町営保養施設・清流苑の男性トイレの壁には、次のような注意書きが掲げられています。
お便所の心得
飯田弁
◎いきれてすると、あっちこっちにとびちるに 「いきれる」=いきり立つ ◎べったりに、おつゆをこぼしちゃいかんに ◎服につくと、びしょったいで 気ーつけないよ 「びしょったい」=汚い ◎やたらと便器へものを、びちゃっちゃいかんに 「びちゃる」=捨てる ◎用をたしたら、けっこにしてかえるんだに 「けっこ」=きれい ◎せんしょに、となりを見ちゃいかんに 「せんしょ」=物好き ◎息子がしとなっとる時は、体の向きに気ーつけないよ 「しとなる」=成長する
飯田弁はわからずとも、心得を読みながら、現在の状況をふまえると、その意味するところは、ようく理解できます。
さらに南へ足を伸ばして、飯田市内に入ると、みなみ信州農業協同組合の掲げた大看板「うまいに!」(きのこの宣伝、飯田インター付近)が目につきます。
続いて、市内の土産物店には、これまた、みなみ信州農業協同組合の特産品「うまいんだに」(紅茶)が並びます。地元農協の特産品だけあって、独特の香りの逸品です。ペットボトルも商品化されているのですが、今夏は霜にあって茶葉のみになりそうだとか。今年の「うまいんだに」は、貴重品だに!