地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第66回 田中宣廣さん:「世界最小の方言グッズと方言メッセージ」

筆者:
2009年9月19日

方言をグッズやメッセージに出すとき,たいていは方言を大きく示します。そういうなか,今回は,大かたとは異なる発想からの,小さいものに小さく示す,方言グッズと方言メッセージを紹介します。

一つめは,方言グッズ「方言綿棒」です。株式会社山洋(大阪府富田林市)の製品で,「大阪弁おみくじ」【写真1】と「東北弁」【写真2】です。綿棒1本1本の全部に方言が記載されています。綿棒の長さは7.8cm(軸は5.5cm),軸の直径は2mmです。この小ささから「世界最小」としました。両方とも1筒110本入りです。

(画像はクリックで拡大します)

大阪弁おみくじ綿棒
【写真1】大阪弁おみくじ綿棒
東北弁綿棒
【写真2】東北弁綿棒

1回使い切りで,第51回第56回で紹介した「方言日用品」の仲間でもあります。

「大阪弁おみくじ」は,42種類の大阪弁の表現が「おみくじ」の吉凶度に合わせてあります。10種類ここで紹介します。42種類全部は,ぜひ現物でご覧ください。

超吉:あんた今日は最高の日やで!/大大吉:調子のりまっせ!いきりまっせ!/大吉:ごっつうええやん!/中吉:おおきに!おおきに!/小吉:こんぐらいが一番やねん/小吉:たのむでしかし!/吉:ぼちぼちでんな~/凶:あきまへんわ!/大凶:えらいこっちゃ!/大大凶:さぶいぼ(鳥肌)たってきた!

「東北弁」は,28種類(青森,岩手,山形,福島:各5,秋田,宮城:各4)の方言の文に県名と共通語訳が付いています。各県から1種類ずつ紹介します。( )内は「軸に書いてある『標準語』」です。

青森:な、どさえぐ?ゆさ(あなたどこへ行くの?お風呂にいってくる)/岩手:てづびんで、めーおじゃっこ飲めじゃ(南部鉄でおいしいお茶はいかがですか?)/秋田:泣ぐごはいねぇが~(泣く子はいないか~〔なまはげ〕)/宮城:歯にとうきび詰まっていずいなや(歯にとうもろこしが詰まって違和感があるなぁ)/山形:あんめぐて、んめさくらんぼ(あまくておいしいさくらんぼ)/福島:めんこい赤べご いんねいがい。(ユラユラかわいい赤べこ欲しいでしょう)

もう一つ方言メッセージで,箸帯(日本料理店で箸を束ね結ぶ紙)に出された「おこしやす」【写真3】です。京料理の店,美濃吉(みのきち)のものです。「おこしやす」は,「いらっしゃいませ」(注)の意味です。箸の幅と比べて考えますと,その小ささが分かり,やはり「世界最小」としました。小さくても,お客様に必ず見てもらえますね。

おこしやす
【写真3】おこしやす

(注)京都のお店のなかには,迎えのあいさつを,常連客には「おこしやす」,初めての客には「おいでやす」として,区別しているところもあると言われます。

今回紹介した「東北弁綿棒」は,私のゼミの学生が見つけて教えてくれたものです。

皆さんも,小さい方言グッズを見つけましたら,どうぞ,私たちに教えてください。

《謝辞》
株式会社山洋におかれては,製品の提供に特別の便宜を計ってくださいました。深く感謝の意を表します。

* * *

〔補遺〕
 第61回アップ後に記録した「みちのくの夏のメッセージ」を付け足します【写真4】。「しゃっけぇ麦茶っこ どうぞ飲んでがんせ」,意味は「冷たい麦茶,どうぞ飲んでください」です。場所は,岩手県の遠野駅です。待合室に置かれた冷水サーバーに大きく書かれています。

駅長さんから
【写真4】駅長さんから

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 田中 宣廣(たなか・のぶひろ)

岩手県立大学 宮古短期大学部 図書館長 教授。博士(文学)。日本語の,アクセント構造の研究を中心に,地域の自然言語の実態を捉え,その構造や使用者の意識,また,形成過程について考察している。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東北大学大学院文学研究科博士課程修了。著書『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』(おうふう),『近代日本方言資料[郡誌編]』全8巻(共編著,港の人)など。2006年,『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』により,第34回金田一京助博士記念賞受賞。『Marquis Who’s Who in the World』(マークイズ世界著名人名鑑)掲載。

『付属語アクセントからみた日本語アクセントの構造』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。