WISDOM in Depth

#30 コーパスで検証する (7)

筆者:
2008年5月27日

−代用表現−

すでに出た話題についてふれる場合,it,this,thatなどの代名詞の他,soといった副詞が使われることがあるが,これらの使い分けは簡単そうに見えてなかなか一筋縄ではいかない。英英辞典でこれらの見出し語を検索してみて,かゆいところに手が届かないといった経験をした日本人英語学習者は少なくないであろう。ましてやthey,these,thoseといった項目では,単なるit,this,thatの複数形といった説明しか得られないことも多い。『ウィズダム英和辞典』(第2版;以下『ウィズダム英和』)では,日本人英語学習者が英語を発信する際に,だれもが疑問に思うような事項について,できるだけ専門用語を使わず丁寧な解説を試みた。

これらの基本的な用法を,『ウィズダム英和』の用例を使って,確認しておこう。itは一度話題に上ったものをさす人称代名詞である:

She took off her ring and gave it to me.(彼女は自分の指輪をはずして(それを)私にくれた)

thatとthisはそれぞれ物理的・心理的に遠くのものと近くのものをさす指示代名詞である:

Look at that house over there.(あそこにあるあの家を見て)

Do you remember Jane’s party? That was the worst party I’ve ever been to!(ジェーンのパーティ覚えてる? あれは今まで出た中で最悪のパーティだったわ)

“Is this your cell phone?” “Yes, it is.”(「これはあなたの携帯ですか」「はい,そうです」)([!]応答文ではitで対応する; ×Yes, this is. としない)

This is my first time.(これが初めてです)

soは先行する語・句・節の代用として用いられる。

I might be home late tonight. If so, don’t wait up for me.
(今夜は遅くなるかもしれない. もしそうなったら起きて待っていなくてもいいからね)([!] if notは「もしそうでなければ」の意味)

A: Will they give us a discount?(値引きしてくれるだろうか)
B: I hope so.(そうしてくれると思うよ)
([!] soは(that) they will give us a discountの代用)

それでは,次のような文脈では,{ } の中のどの代用表現を用いるのが最も自然であろうか。

She’s about ninety. She had somebody knocking at the door shouting “Fire! Fire!” and {it / this / that} was just a trick to get her out of the house.(彼女はほぼ90歳. 彼女の家の玄関を「火事だ火事だ」とノックする者がいたんだがそれはまさに彼女を家からおびき出そうとするわなだった)

「そうする」という日本語を英語で表現しようとすると,do it,do that,do soなどが考えられるが,どのように使い分ければよいであろうか。

You can’t do {that / it / so}.(君はそんなことをしてはいけない)

Ricky invited me to visit his family, and I did {so / it / that}.(リッキーが私を家族に会わせようと招待してくれたのでそうした)

答は,it (代) 2 (類義) をご覧いただきたい。

筆者プロフィール

井上 永幸 ( いのうえ・ながゆき)

徳島大学総合科学部教授。
専門は英語学(現代英語の文法と語法),コーパス言語学,辞書学。
編纂に携わった辞書は『ジーニアス英和辞典初版』(大修館書店),『英語基本形容詞・副詞辞典』(研究社出版),『ニューセンチュリー和英辞典2版』(三省堂),『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)など多数。

編集部から

辞書の凝縮された記述の裏には,膨大な知見が隠れています。紙幅の関係で辞書には収めきれなかった情報を,WISDOM in Depth と題して,『ウィズダム英和辞典 第2版』の編者・編集委員の先生方にお書きいただきます(※2018年7月現在、ウィズダム英和辞典は第3版が刊行されております)。