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第40回 【倍速視聴】ばいそくしちょう

筆者:
2022年12月26日

[意味]

テレビ番組や映画などを倍の速さで視聴し、時間を節約すること。

[類語]

倍速再生、倍速消費

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三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」の大賞は「タイパ」でした。タイパとはタイムパフォーマンスの略で、費やした時間から得られる成果、時間対効果のこと。日経MJの「ヒット商品番付」でも「コスパ&タイパ」が東の横綱に選出されましたので、タイパは今年の消費行動を象徴する語ともいえます。

タイパの中で、よく見られるのが「倍速視聴」の動き。テレビ番組や映画などを倍の速さで視聴することで、若者を中心に広がっているとのことです。日本経済新聞での初出例は2022年5月12日付夕刊文化面に掲載された、稲田豊史著『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)の書評記事の中にありました。

動画配信サービスで安価に視聴できるコンテンツが急増し、作品を鑑賞するのではなく、作品を消費するライフスタイルが定着しつつあるといいます。忙しくて時間がないなか、世間で話題になるような情報を効率よく得るためには、深い内容は二の次というわけです。

10月7日付の日本経済新聞1面朝刊コラム「春秋」は、小津安二郎監督の遺作「秋刀魚の味」(1962年)を1.8倍の再生速度にして眺めてみたという話でした。倍速視聴を「鑑賞ではなく内容の確認」と断じていましたが、私もテキパキと早口で話す笠智衆さんを見たいとは思いません。間が大事なこともあるはずです。倍速で見るものも作品の中身や傾向にあわせて使い分ける必要があるでしょう。実際、ニュースやバラエティーは倍速で、ファンタジーなどは標準速度で鑑賞するという人もいます。

何かと気ぜわしい現代。時間に追われ倍速に疲れた人も出てきています。倍速で得られた時間はゆとりに充てるのもいいのではないかと思ってしまいます。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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