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第39回 【群衆雪崩】ぐんしゅうなだれ

筆者:
2022年11月30日

[意味]

人が密集した場所で1人が倒れるなどして隙間ができ、集団のバランスが崩れることで雪崩を打つように転倒者が広がる現象。一方向に倒れる「将棋倒し」や「ドミノ倒し」と異なり、多方面に転倒する。

[類語]

群集事故、雑踏事故

 * 

10月29日夜、韓国・ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で、日本人2人を含む150人以上もの犠牲者が出る雑踏事故が起きました。現場は狭い路地の坂道で、ハロウィーン直前の土曜日に予想以上の人が殺到。一方通行などの交通規制がされず、上下左右から人が一気に流入し、「群衆雪崩」となったことなどが大惨事の原因と考えられています。

こうした事故で思い出されるのが2001年に兵庫県明石市の花火大会会場近くで起きた歩道橋事故。幼い子供を含む11人が亡くなりました。日本経済新聞での「群衆雪崩」の初出は、同市の事故調査委員会が事故当時の状況を「群衆雪崩」だとする見解を示した2001年12月23日付朝刊の記事になります。この事故では、警備に問題があったとして県警や市の担当者らが有罪になり、雑踏警備が強化されるきっかけとなりました。

この歩道橋事故は、初め「将棋倒し事故」と報道されていました。日本将棋連盟から「本来、将棋倒しは子供向けの遊びで、駒をきれいに並べて最後まで倒した達成感は、子供心を成長させる大切な場面でもある。単に倒れる状況だけを見た表現として事故などに引用されるような遊びではない」との指摘があり、「圧死事故」「歩道橋事故」などと表現が改められた経緯があります。

本来、楽しむべき場所で起きてしまった悲愴な事故。亡くなった方々の冥福と「群衆雪崩」のような語が紙面に現れる出来事が繰り返されないことを祈っています。

【群衆雪崩】の出現記事件数

*日本経済新聞の記事を調査。2022年は11月20日まで。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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