(第2回からつづく)
韓国の人名用漢字は、最初から8142字だったわけではありません。この点について決定文は、以下のように述べています。
「人名用漢字」が当初導入された時点では「漢文教育用基礎漢字」を含め合計2,731字が「人名用漢字」に指定されていたが、その後9回にわたる規則改正で「人名用漢字」の範囲がどんどん拡大し、現在は合計8,142字が「人名用漢字」に指定されている。
ただ、「その後9回にわたる規則改正」という部分については、筆者は疑問を感じます。筆者が調べた限り、人名用漢字に関する大法院規則の改正は、以下のようになっているからです。
規則番号 | 官報公示日 | 収録字数 | 施行日 |
---|---|---|---|
第1137号 | 1990年12月31日 | 2731字 | (施行されず) |
第1159号 | 1991年3月29日 | 2915字 | 1991年4月1日 |
第1312号 | 1994年7月11日 | 3025字 | 1994年9月1日 |
第1484号 | 1997年12月2日 | 3124字 | 1998年1月1日 |
第1680号 | 2001年1月4日 | 4879字 | 2001年1月4日 |
第1848号 | 2003年9月17日 | 4875字 | 2003年10月20日 |
第1911号 | 2004年10月18日 | 5034字 | 2005年1月1日 |
第2069号 | 2007年2月15日 | 5174字 | 2007年2月15日 |
第2119号 | 2007年11月28日 | 5172字 | 2008年1月1日 |
第2181号 | 2008年6月5日 | 5176字 | 2008年6月5日 |
第2263号 | 2009年12月31日 | 5454字 | 2010年3月1日 |
第2470号 | 2013年6月5日 | 5761字 | 2013年7月1日 |
第2577号 | 2014年12月30日 | 8142字 | 2015年1月1日 |
1990年12月31日改正の大法院規則第1137号では、翌1月1日に予定されていた人名用漢字の施行が延期され、その次の大法院規則第1159号が1991年4月1日に施行されて、人名用漢字2915字が導入されました。その後、どうみても11回の改正がおこなわれて、現在の8142字に至っているのです。まあ、収録字数が減った改正(重複字を削除)が2回ほどあるので、それを数えたくないのかもしれません。
ここで決定文は、大きく2つに分かれます。「人名用漢字は合憲である」と主張する合憲派と、「人名用漢字は違憲である」と主張する違憲派とに分かれるのです。実際には、合憲派の意見は「法廷意見」として、違憲派の意見は「反対意見」として、それぞれまとめて書かれているのですが、ここでは、それぞれの意見をぶつけあう形で見ていくことにしましょう。合憲派は、以下のように主張します。
漢字は、その数が膨大で、その範囲が不明で、一般国民がこれを全部読んで使うには困難がある。審判対象条項は、名に通常使われない難しい漢字を使う場合、誤読あるいは誤字などによって当事者と利害関係人が被る不便を解消し、家族関係登録業務が電算化されるにあたり、名に使われる漢字は電算システムで全て表現されなければならない点を考慮して、名に使える漢字を通常使われる漢字に制限したのであるから、その立法目的の正当性および手段の適合性が認められる。
これに対し、違憲派がいきなり噛みつきます。
審判対象条項は、1990年12月31日戸籍法改正で初めて導入されたもので、それ以前は、子の名に使える漢字の範囲には何の制限も無かった。したがって沿革的に見ても、漢字の数が膨大でその範囲が不明だという事実から、通常使われない難しい漢字を名に書けないよう制限せねばならないという結論が、導き出されるわけではない。
韓国の人名用漢字は、実際には3ヶ月遅れで1991年4月1日から開始されたのですが、それ以前は、子の名づけに使える漢字に制限はありませんでした。日本に比べると、韓国の人名用漢字による制限は、ごく最近はじまったものなのです。
(第4回につづく)