言語学を少しでもかじったことがあるみなさん、「音素」って覚えてますね(´∀`) たぶん「言語学概論」なら5月くらいには習う術語なので、現在進行形で入門の授業を取っている人は、習ったばかりかも知れません。ある言語における音の機能的な単位であり、最小対や相補分布といった方法で発見される、といったことが分かっていれば、あとは練習問題が解ければ無問題でしょう。
それではここで問題です。この音素の概念を最初に提唱した人は誰でしょう? ちょっと考えてしまいますね。ボードゥアン・ド・クルトネというポーランド人言語学者が正解です。ただし、phonemeという英語の術語を最初に使った人はダニエル・ジョーンズであり、また音素概念をめぐってはエドワード・サピア、ニコライ・トゥルベツコイ、レナード・ブルームフィールドらがさまざまな説を唱えており、日本でも論争がありました。
言語学者でもボードゥアン・ド・クルトネの名前が出る人はあまり多くないかも知れません。「音素」という概念そのものは言語学者なら誰しもが知っている、かなり基礎的にして重要な概念でありながら、その提唱者の影はかなり薄い。当コラムをお読みの方で上の問題にすぐに答えられた人は、おそらくどこかで入門以上の言語学(ないし音韻論)の授業を受けたことがあるか、かなりな言語学オタク(!)なのでしょう( ̄― ̄)ニヤリ
しかしなぜこのような重要な概念であるにもかかわらず、その提唱者はあまり知られていないのでしょう?(*゚Д゚)アレ? たしかにド・クルトネの業績一般があまり知られていないのも事実です。また、「言語学を理解するのに必ずしも言語学史を知る必要はない」という考えにも一理あります。が、教科書の執筆者がみなこうした考えを持っているから提唱者の名前が知られていないというわけでもないでしょう。提唱者の名前を出すだけの紙幅がない、というのも疑問です。たった一行足らずで済むことですから。
結局その理由は、アメリカの科学社会学者ロバート・マートンが提唱した「取り込みによる忘却 (Obliteration by Incorporation, OBI)」 によるものと考えられます。OBIとは、……(次回につづく)