さっそく「百学連環」を読んでみたいと思います。
今回使うのは、『西周全集』第4巻(宗高書房、1981)に収録されいてる「百学連環」という文書です。この『西周全集』は、全4巻からなる書物で、西周の各方面にわたる著作物を収録しています。編集に当たったのは、歴史学者の大久保利謙(1900-1995)。各巻に収録されている文書については、必要になるつど引用・紹介することにして、ここでは第4巻の構成について、見ておきましょう。
第4巻は、「百学連環」に関わる二つの資料で構成されています。大まかに言うと、一つは永見裕によって筆記された「百学連環」の講義録を活字に起こしたもの。もう一つは、編者が「百学連環覚書」と名付けた西周自身による手書きのノート。こちらは、手書きの文書をそのままオフセット版で印刷してありますので、欧文と漢字仮名交じりで書かれた西の筆跡をそのまま見ることができます。
以上の主な資料に加えて、大久保利謙による「第四巻の序」と「解説」、新村出(1876-1967)による「序」(これは旧稿の再録)、編者が作成した詳細な目次、西と永見を写した明治元年の写真、講義録原本の数ページの写真2ページが入っています。全体で620ページ。
この「百学連環」と「覚書」は、2007年に印刷博物館の「百学連環――百科事典と博物図譜の饗宴」展に実物が出品されたので、ご覧になった方もいるかもしれません。いずれも手書きの文書です。
ところで編者の大久保によると、「百学連環」の講義録のほうは、永見裕の原本を元に、活字に起こす際、誤記や明白な誤謬は改めたとあります。細かいことではありますが、私たちがこれから読んでみようとしている文書は、こうした校訂が加えられた後のものであることを念頭に置いておきたいと思います。
さて、肝心の「百学連環」は、どのような内容を持つ文書なのでしょうか。まず、目次を眺めておくことにしましょう。大まかな目次は次のようになっています。なお、「百学連環」の原文はすべて縦書きですが、ここでは横書きに写します。右端につけた数字は、参照している全集第4巻のページ数です。
百学連環
百学連環 第一 総論 稿 009-037
百学連環聞書 第一 稿 039-069
百学連環 第一編 稿 071-108
百学連環 第二編 稿 上 109-155
百学連環 第二編 稿 中 157-199
百学連環 第二編 稿 下 201-256
百学連環 第二編(物理上学) 257-279
百学連環最後之章 281-294
これだけを見ると、なんだか味気ない目次ですが、いくつかのことが分かります。全部で八つの部分から成っていること。最初に「総論」が置かれ、次に「聞書」なる文書があること。そして「第一編」に続いて「第二編」が複数冊あって、最後に「最後之章」という構成であること。目を惹くのは、第一編に比べて第二編のほうが長いことです。しかも、下から二つ目に「物理上学」という、どこかで見たことのある言葉も見えます。
少し補足すると、「総論」と「聞書」は、ほとんど同じ内容の文書です。編者によれば、「聞書」は、「総論」を後に修補したものではないか、とのことです。実は、今回の読解で丁寧に読んでみたいと思っているのは、この「総論」なのでした。この文書には、「百学連環」とはなんなのか、なぜそのようなものの見方が必要なのかといった、この文書全体のエッセンスが述べられています。まずは大きな見取り図と基本を示してから、細かい各論に入ってゆこうという構成です。
気になるのは第一編と第二編の違いです。詳しいことは読解を進める中で検討しますが、大まかに言うと、この二つの編は、学問全体の大きな分類に添って分けられたものです。当該ページを見ると、第一編は「普通学(Common Science)」、第二編は「殊別学(Particular Science)」という名前が与えられています。これだけではなんのことやら分からないかもしれませんが、「普遍」と「殊別」という言葉が対になっていることから、なにかイメージが湧くかもしれません。実際のところはどうなのか、これは後のお楽しみにするとして、それぞれの分類の下にどんな学術が入っているか、想像してみてください。