『英語談話表現辞典』覚え書き

(32) つなぎ語:反論4

筆者:
2010年10月28日

前回は反論する言い方のなかでていねい表現にかかわるものを考察しましたが、今回は相手の意見を受け付けなかったり、それ以上言わせないように話をさえぎる表現をみてみます。

まず、幅広く用いられるものに None of your business. があります。「君の関与することではない」と突き放す、いわば「問答無用」型の表現です。本辞典から引用します。

1 〈相手の質問を受けて〉余計なお世話だ, 君の知ったことか, 答える必要はないよ “How much do you earn a month?” “None of your business!” 「月給いくらもらっているの」「余計なお世話だ」 “Why are you always giving her money?” “It’s none of your business.” 「なぜいつも彼女にお金をあげるの?」「君の知ったことか」 “Is your budget all right if you spend so much money on clothes?” “It’s none of your business.” 「洋服にそんなにお金使って家計大丈夫?」「余計なお世話よ」.

第2例や第3例は形は疑問文ですが、その言いたいことは、第2例では、「彼女にお金をあげる」ことに反対や非難の気持ちをぶつけていますし、第3例では「洋服にそんなにお金を使うべきではない」という心配する気持ちを表しています。それらに対して、None of your business. はそれぞれの意見や主張を拒否することを表しています。

また、Go to hell. は文字通りには「地獄へ行け」という命令文ですが、相手が決着済みのことを改めて言ったことに対して、「何を言っているのだ、いい加減にしてくれ」という意になります。

2 〈相手のことばに反論して〉やめてくれ, 最悪!:“I want you so much.” “Go to hell.” 「君が本当に必要なんだ」「やめてよ」/“We’re still friends, aren’t we, Jane?” “Go to hell !” 「僕たちはまだ友だちだよな, ジェーン」「とんでもない」.

いずれも「終わったことを蒸し返さないでほしい」という含みがあります。

Go on. も「…し続けなさい」という基本的な意味をもつ命令文ですが、おもしろいことに、反語的にも用いられます。日本語でも「そんなうそをつくな」という意味で「うそをつけ」と言いますし、「そんなばかなことを言うな」という意味で「ばか言え」と言うのと同じです。

4 〈相手の発言に異議を唱えて〉うそをつけ, ばか言え, 何だって, 帰れ:“I am planning to go on a diet and lose 10 kilograms in a month.” “Go on with you!” 「僕ダイエットして1か月に10キロ減量するつもりなんだ」「冗談はよせよ」/“By the way, I am going to marry next month.” “Go on, you are joking.” 「ところで, 僕, 来月結婚するからね」「何だって, 冗談だろう」.

第1例は「1か月に10キロ減量」という到底無理な目標を掲げるなという気持ちを表し、第2例では「結婚する」ということがまったくの予想外であったことを伝えています。

Who cares? という疑問文も反語的に用いられます。文字通りには「誰が気にするか、いや、誰も気にしない」という意ですが、相手から気に障ることを言われて、「ほっといてくれ」というほどの突き放した言い方になります。

2 〈落ち度を指摘されて〉 (そんなつまらないことを)構わないでくれ:《朝の出勤前の慌しいときに》 “You missed shaving.” “Who cares?” 「あなた, ひげそりを忘れているわよ」「誰も気にしないさ」 / 《友だち同士の会話》 “Don’t throw away the empty can!” “Who cares?” “I care! So don’t!” “You’re not my mother, are you?” 「空き缶を捨てないで」「どうだっていいだろう」「いいことないわ! だからしないで!」「君は僕の母親じゃないだろう?」.

相手の意見や主張に反論するときにも用いられます。

3 〈反論して〉それがどうした:“I don’t think it’s a good idea.” “Who cares?” 「それはあまりよい考えとは思わないんだが」「それで?(どうでもいいだろ)」.

筆者プロフィール

内田 聖二 ( うちだ・せいじ)

奈良女子大学教授

専門は英語学、言語学(語用論)

主な業績:

『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論-伝達と認知-』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆) 
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

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