高知では、「玉子焼き」とだけあって、おかずとお菓子とのどちらが出るのか不明なメニューもいくつかあったことも確かだ。おやつのカステラがこの地ではよく食べられるとはいえ、本当に、広く定着する表記を覆すほど大きな影響力を持ったのだろうかと、不審も残るが、それが地域で、一般に影響することとなっているのだろう。
それに接触する人はそれを自然と習得し、覚えたものを使うようになっていく。文字生活の中で意識化が生じないままにこうした循環が起きるなかで、地域性が生じているという実態を反映しているのではなかろうか。東京などでは、逆に、産みたてたまごは「産みたて卵」、加工されたたまご焼きは、字面や熟語から来る表記感の生々しさを避けて「玉子焼き」となるものだ。
帰りの空港には、無事に、それも余裕を持って着けた。もっと色々と調べても良かったが、明日のために体力を温存しないといけないと、ここまでとした。待合室では、熱心にノートパソコンを打つ男性がいた。昔から、ぼんやりとするのが好きな私には、とても真似ができない。家に帰ってからやると決めている。軽くなったとはいえそこそこ重い荷物になるだろうし、集まった資料も散らばりそうで、そこでは出せない。そもそも集中もできない。家に帰ってから、ゆっくりと整理をしながら打ち込もう。
搭乗口付近なのでと座った席では、いくつかの局の中でたまたまNHKが流れていた。
だし巻き卵
2回ともテロップはそうなっていた。高知だからではない。「ゆうどきネットワーク」はかつて連続して出ていたので分かるが、全国放送だ。NHKは規則で「たまご」は「卵」とすると決めている。日本新聞協会と同様に、常用漢字表から表記法を一意に定めているためだ。
先の全国的な法則から、気になるというNHK社員もおいでだが、規則の壁は厚い。新聞協会でも、実勢に従って「玉子」が提案されたそうだ。これは語源に即しており、当て字でもない。が、高知新聞の代表が、「高知では卵しか使いません」と発言されて、そこまでとなったと側聞する。
トイレに行く途中に、フジテレビ系列のニュース番組も目に入った。中国の駅弁の半年の賞味期限についての話題で、そこでも、
ゆで卵
と字幕が出た。同様の規則に従った結果だろうか。
自然発生的に何となく広まっているこの地域と、意識的に決めたルールを守るマスメディアとで、同じ表記を取る。それが重なった瞬間に、搭乗前の1時間で立ち会えた。
大震災後、Jヴィレッジで活動されている南相馬市出身というその料理長さん自身は、紙にどちらを書いていらしたのだろう。「ゆうどきネットワーク」ではテレビカメラの写し方が小さく、見えなかった。
ここにしかなく重くなく嵩張らないものをとケンピを土産に買った。漢語らしい響きを持ち、漢字表記もあれこれあるそうだが、「犬肥」という当て字はイメージが悪い。「ケンピ」「塩けんぴ」など、当地で漢字表記は見ることがなかった。
遅い時間に機内で空腹になった。調査の後にギリギリに買えたおにぎり3種だけではしかたない。ふらふらしてきた。隣の人がクラッカーを出した。おいしそうに見える。
私も何かないか? そうだ、高知らしいものとしてケンピを買っていた。いつもの鞄に放り込んでおいて助かった。座席下のそこにあった。ガリッバリッと響かせて食べる。空腹はまさに最高のソースで、とにかくおいしい。ここではジュースはおかわりが可能。袋を見れば、原材料に「玉子」と印刷されていた。