辞書の項目は、多くはいくつかのブランチ(意味区分)に分かれています。基本的な意味は1に書かれていることがふつうなので、そこだけを確認してすます人も多いのではないでしょうか。まあ、そう慌てずに、その次のブランチにも目を移してみてください。
『三省堂国語辞典』では、ことばの説明を記すにあたって、一般的な1の意味のほかに、ふだん気づかないような別の意味がないかどうか、たえず注意しています。2以下のブランチに、ちょっと意外な意味も多く記述してあるのが、『三国』の特色です。
たとえば、『三国』で「目線」を引くと、まず1として〈視線。〉と出てきます。これはすぐに思い浮かぶ意味です。でも、2の〈公開された写真などに、〔略〕目の部分に引く太い線。〉(第四版から追加)というのは、あまり気づかれない意味でしょう。他の主な辞書には載っていません。また、第五版では3として〈〔その人の〕ものの見方、とらえ方。〉が加わり、さらに、今回の第六版では「上(から)目線」という用例が入りました。
では、「保留」ということばには、どのくらいの意味があるでしょうか。第六版では、まず1として、〈とめておくこと。決定・発表などを のばすこと。〉という一般的な意味を記しています。「回答を保留する」というときの使い方です。ところが、また、「保留」には次のような使い方もあります。
〈大型新人の出現を、ひとまず祝福しておきたい。/とかいいつつ「ひとまず」なんて保留をつけているのは、作品に不満もあるからなんだけど、〉〔斎藤美奈子〕(「朝日新聞」2000.07.23 p.13)
これは、手放しで祝福するのではなく、ある条件のもとに祝福するのです。この意味を、第六版では2として〈全部は みとめずに、つける条件。〉と説明しました。類書にないブランチとなりました。
さらに、家庭の中を見回してみると、別の「保留」もあります。〈電話を人につなぐまでの間、音楽を流したりして通話をとめた状態。〉がそうです。これも一般化した意味であり、第六版では3として入れました。
私たちは、2以下のブランチに相当する意味を見つけるために、新しい項目を見つけるのと同じくらいの情熱を注いでいます。項目の片隅にも、光るブランチがあります。