鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その4 物の順物件 第5回

筆者:
2022年2月4日

前回からのつづき)

 

p.1625「よわめる【弱める】」


一番わかりやすいのは刺激でしょうか。

p.305「から【空】」


2019年6月16日付毎日新聞「仲畑流万能川柳」に「カラ元気だして頑張れこのわたし 美祢 夢希」という川柳がのっています。これ、本当にいいです。わたしは呪文のように唱える時があります。

p.1127「とびかう【飛(び)交う】」


でも語釈は「①〔ある限られた場所で〕小鳥・銃弾などが入り乱れて飛ぶ。」です。小鳥と銃弾は離れているのだと思います。

p.1130「とむ【富む】」


とにかく、いろいろ富む。

p.264「かける【欠ける】」


そうですね、いろいろ欠けています。

p.265「かご【籠】」


最後の「唐丸籠」って何かな、と思い引いてみました。

p.1102「とうまるかご【唐丸籠】」


「鬼平犯科帳」にも出てくる、悪者を入れて運ぶあの籠ですね。でも順番は、「くず籠」の後ですが、大きさが全然違う。

p.1557「もてあそぶ【弄ぶ】」


もてあそばれた方や、その関係者が情報提供なさることもあります。

p.1559「もの【物】」


「噴飯物〔食べかけの御飯を急にふき出す意〕ばかばかしくて思わず笑い出すこと。」で、「御飯物」は、そば屋のメニューにある丼物のことだと思います。たぶん新解さんは「飯」の字つながりで、この二つを(強引に)並べたのだと思います。

p.811「すじ【筋】」


はい、大きさは全然違いますが、どれも筋です。

p.1028「つく【付く】」


彼は一体どんな人でしょう。お金持ちだということは、わかります。

p.1029-p.1030「つくりわらい【作(り)笑(い)】」


これは、「物の順物件」でもあり「すてきな( )物件」でもある珍しい物件です。ですが、「それなら笑わなきゃいいのに」という感想が残ります。せっかく珍しかったのに、残念です。

p.1036【繫ぐ】


それでは、気持ちを切り替えて、次の物件に繫ぎたいと思います。

 

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。