「Bar-Lock No.2」は、スピロ(Charles Spiro)が発明したダウンストライク式タイプライターで、ニューヨークのコロンビア・タイプライター社が1890年に発売したものです。コロンビア・タイプライター社は、ヨーロッパへの輸出も精力的におこなっていて、上の広告の時点では、ロンドンのタイプ・ライター社を中心とする販売網を展開していました。この頃のコロンビア・タイプライター社の主力製品は、「Bar-Lock No.2」と「Bar-Lock No.3」だったのですが、「Bar-Lock No.3」はプラテンの幅が14インチで、本体幅より長いプラテンを搭載していました。その点を考えると、上の広告は「Bar-Lock No.2」を描いていると思われます。
「Bar-Lock No.2」の特徴は、プラテンの手前に屹立した72本の活字棒(type bar)にあります。活字棒は、それぞれがキーに繋がっていて、キーを押すと、対応する活字棒がプラテンの上面に打ち下ろされます(ダウンストライク式)。プラテンの上面には紙とインクリボンが置かれていて、印字の瞬間には、インクリボンごと活字棒が打ち下ろされるのです。打ち下ろされた活字棒は、バネの力で元の位置に戻ります。すなわち、プラテンの上面で印字がおこなわれるので、オペレータが少し上から覗き込めば、印字された文字が直接見えるのです。
「Bar-Lock No.2」のキーボードは、12字×6列=72字が収録されており、大文字小文字が、全て別々のキーに配置されています。標準のキー配列では、キーボードの最上段は2QWERTYUIO67と、その次の段は3ASDFGHJKL89と、その次の段は45ZXCVBNMP-£と、その次の段は&qwertyuio?;と、その次の段は()asdfghjkl_と、最下段は/’zxcvbnmp,.と並んでいました。数字の「0」は大文字の「O」で、数字の「1」は大文字の「I」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。
「Bar-Lock No.2」のプラテン幅は9インチ(23センチメートル)あり、筐体の高さもほぼ9インチです。筐体は全て鉄製で、重さは26ポンド(約12キログラム)もありました。そう考えると、上の広告に描かれている「Bar-Lock No.2」は、実際の大きさに較べると、少し小さ過ぎるように思えます。「Bar-Lock No.2」は、女性一人で持ち運ぶには、かなり重たいタイプライターだったのです。