「Smith Premier No.1」は、スミス(Lyman Cornelius Smith)率いるスミス・プレミア・タイプライター社が、1889年に製造・販売を開始したタイプライターです。スミスは、ニューヨーク州シラキューズで、L・C・スミス・ショットガン社を経営していましたが、ショットガンの特許と製造権をハンター・アームズ社に売却し、タイプライターの製造・販売に乗り出したのです。なお、上の広告の時点では、このタイプライターは「Smith Premier Typewriter」と呼ばれていましたが、その後「Smith Premier No.2」の発売に伴って「Smith Premier No.1」と呼ばれるようになりました。
「Smith Premier No.1」は、大文字も小文字も数字も記号も、全て一打で打つことができる、という点を売りにしていました。76本の活字棒(type bar)は、プラテンの下に円形にぐるりと配置されていて、キーボードの各キーにそれぞれ対応しています。各キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。プラテンの下の印字面は、そのままの状態ではオペレータからは見えず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。「Smith Premier No.1」は、いわゆるアップストライク式タイプライターで、印字の瞬間には、印字された文字を見ることができないのです。
「Smith Premier No.1」のキーボードは76字が収録されており、大文字小文字が、全て別々のキーに配置されています。標準のキー配列では、キーボードの最上段は“QWERTYUIOP#と、その次の段は&ASDFGHJKL:$と、その次の段は2ZXCVBNM!?-6と、その次の段は3qwertyuiop7と、その次の段は4asdfghjkl;8と、その次の段は5zxcvbnm,.’9と、最下段は左右のスペースキーに挟まれて/()%と並んでいました。数字の「0」は大文字の「O」で、数字の「1」は大文字の「I」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。
1893年にスミスは、スミス・プレミア・タイプライター社の株式を、ユニオン・タイプライター社に売却しています。経営権はスミスに残されたことから、そのままスミス・プレミア・タイプライター社の経営を続けますが、結局スミスは1903年にスピンアウトし、新たにL・C・スミス&ブラザーズ・タイプライター社を設立しています。