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第60回【弾丸登山】だんがんとざん

筆者:
2024年8月26日

[意味]

山小屋などで十分な休息を取らず登山を続けること。特に、富士山山頂で日の出を見るため、徹夜で頂上まで登ること。(大辞林第四版〈データ版〉から)

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富士山が山開きする時期に、見聞きするのが「弾丸登山」です。「弾丸登山」とは、山小屋で宿泊するなど十分な休憩をとらずに、夜通しで一気に富士山の頂上に登りすぐに下山する登山形態。多くは山頂でのご来光(日の出)を見ることが目的だとされます。

ただし、こうした登山は睡眠不足で疲れやすいうえ、短時間で高度が上がるため高山病を発症しやすく、また大勢が押し寄せれば頂上付近で人が滞留して低体温症に陥る恐れもあるといいます。危険を避けるため、地元では登山者に対し「弾丸登山」の自粛を求めるほか、山梨県側の登山道「吉田ルート」では、今年から5合目を通過する登山者数を1日4000人までとし、通行料2000円を徴収する規制を始めました。

記事データベース「日経テレコン」で「弾丸登山」を検索したところ、日本経済新聞での初出は、2011年2月21日付の夕刊社会面「富士『弾丸登山』自粛を 山梨の市町村など旅行会社に要請へ」という記事でした。出現記事件数のグラフに出てくる最初の山(2013~2014年)は、富士山がユネスコの世界文化遺産に登録された2013年と時期が重なっています。この年は「弾丸登山」が「富士山」とともに「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補としてノミネートされた年でもありました。その後、記事件数の減少が続きますが、コロナ明けや円安により国内外からの登山者が増えたことが影響しているのか、2023年から再び増加傾向となっています。

「弾丸○○」で思い出すのが「弾丸ツアー」。1998年、サッカーのワールドカップ(W杯)フランス大会に初出場した日本代表の試合を観戦するために企画され、現地で宿泊せずに試合を見てすぐに帰国するという0泊3日の強行日程が話題となりました。「弾丸ツアー」はその後、登録商標となったため、新聞などの報道では一般名称として「強行ツアー」「弾丸旅行」などと言い換えるようにしています。

今年は富士山の静岡県側が開山した7月10日から1週間で4件の死亡が確認されるなど、事故が相次いでいます。富士山は遠くから眺めれば美しいものですが、実際に登るとなると危険が伴う場所でもあります。登山者は自覚を持って登らなければなりません。

 

2024年は7月まで

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。