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第61回【都市鉱山】としこうざん

筆者:
2024年9月30日

[意味]

[意味]金やパラジウムを含んだパソコンや携帯電話などの廃棄物の集積を、鉱山にたとえていう語。(大辞林第四版〈データ版〉から)

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日本政府がレアメタル(希少金属)の回収と再利用を企業に義務付けるとの報道がありました(8月2日付日本経済新聞朝刊1面)。レアメタルは原産地が中国やロシアなど特定の国に偏在し、政治や経済情勢の変化により価格や供給量が変動しやすいもの。多くを輸入に頼る日本としては再利用で希少資源の安定確保を図る狙いだといいます。

2025年の通常国会で資源有効利用促進法を改正し、まずは蓄電池や部品の製造工程で発生する端材や不良品を再資源化してメーカーに利用を義務付ける方針とされます。ゆくゆくは電気自動車(EV)に搭載した使用済みの蓄電池にも広げられるとのことです。

記事データベース、日経テレコンで「都市鉱山」を検索したところ、日本経済新聞での初出は、1994年6月20日付朝刊中部社会面に掲載された「空きビンをタイルに、不燃ゴミの減量化に光」という記事でした。リサイクルの発想としては同じですが、当時は不燃ごみの減量化の話。これが1990年代後半あたりから使用済みIT機器から希少金属を回収していく話に変わっていきます。

「都市鉱山」の出現記事件数を見ると、1つ目の高い山(2008~2010年)は国際的に金属資源価格が高騰した時期。都市鉱山から金属を“採掘”し再利用する事業の採算性が向上したことが記事急増の一因と見られます。また、グラフの2つ目の山(2016~2018年)は、東京五輪・パラリンピックのメダルの原料を都市鉱山から賄うことが話題になった頃でした。実際、2021年のオリパラでは都市鉱山から回収した金(32キロ)、銀(3500キロ)、銅(2200キロ)で約5000個のメダルが製造され、1~3位の選手に渡されています。

今夏のパリ五輪ではメダルの劣化騒動がありましたが、東京大会に関してはそのようなことは起きませんでした。これは日本の技術力の高さを表しているといえるのでしょうか。

2024年は8月まで

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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