地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第149回 山下暁美さん:いたわりの方言(三重県)

筆者:
2011年5月7日

伊賀上野城を訪れたとき、ちょうど絵手紙展が開かれていました。地元の絵手紙の会が主催しているようでした。写真1と写真2はそのとき見かけた作品に書かれていたメッセージです。

(画像はクリックで拡大します)

右:【写真1】 左:【写真2】

「無理せんときゃ ボチボチしい~や」(無理しないでね。ゆっくりしてね。【写真1】)は、三重県やその周辺地域でも聞かれます。心温まることばです。「~や」は、文末詞といって日本語に古くからある表現とされています。よびかけや勧誘、といかけ、命令などに使われます。「~や」から「~やん」「~やい」などが分岐したと考えられています。

「ボチボチ」の典型は、「儲かりまっか(もうかりますか)」「ボチボチでんな(ゆっくり少しずつですね)」(大阪府)でしょう。

「ありがとう。すまんなあ。(すまないね)」【写真2】の「すまん」は、「済まん」と表記しますが、気持ちがこのままではすまない、申しわけないと感じているという意味です。

右:【写真3】 左:【写真4】

伊賀南部では、「えらい、すんまへんわー」、和歌山南部では、「すまんのら」、奈良吉野では「すまんだ」、滋賀湖西では「すまんこっとすなー」などがあり、ほかにも全国的にさまざまな形で用いられている表現の一つです。

「また来てだ~こ(また来てください)」【写真3】は、三重県伊賀地方の方言とされています。街中のお店のはり紙にも「どうぞ持って帰ってダーコ(持って帰ってください)」【写真4】と書かれています。「いただく」という意味では、和歌山県や三重県の一部でも使われているようです。「いただく」という依頼の意味から派生したのかもしれません。

伊賀上野では、「おいしいさかい、たくさんあがってだーこ(おいしいからたくさん召し上がってください)」、「ゆっくりしてだーこ(ゆっくりしてください)」などと言います。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。