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曲のエピソード
最近では、スタンダード・シンガーとしての地位を確立した感のあるロッド・スチュワートだが、彼ほど臨機応変なアーティストも珍しいのではないだろうか。ジェフ・ベック・グループを経て、スモール・フェイシズに加入し、双方のバンドとはつかず離れずの関係を保ちつつ、ソロ・アーティストとして1971年の大ヒット曲「Maggy May」(全米チャートで5週間にわたってNo.1/ゴールド・ディスク認定)を皮切りに、約40年間にわたってヒット曲を放ち続けていることは、称賛に値する。
機を見るに敏な、ミュージック・シーンの動向を探るロッドのアンテナの感度が特に研ぎ澄まされていたのが、ディスコ・ミュージック全盛時代の1970年代だったと筆者は分析する。それも、まさに“真打登場!”といった、ディスコ・ミュージックの最後の残り香が辛うじて漂っている頃の曲「Da Ya Think I’m Sexy?(邦題:アイム・セクシー)」を引っ提げて、ディスコ一辺倒のミュージック・シーンに殴り込みをかけた(?)のだった。そしてその目論見は見事に的中し、全米、全英のみならず、カナダとアイルランドのナショナル・チャートでも首位の座に君臨。ロッドのキャリアにおいて、全米で初のミリオンセラーとなった(同チャートで4週間にわたってNo.1)。
ロッドと共にこの曲のソングライターとして名を連ねているのは、ドラマーのカーマイン・アピス(Carmaine Appice)、キーボード奏者兼ソングライターのデュアン・ヒッチングス(Duane Hitchings)の両名。ロック愛好家なら、一度はその名前を聞いたことがあるであろうアピスは、この曲を「ディスコ・ミュージックのパロディ」と喝破している。一方のヒッチングスに言わせれば、「曲作りがなかなか上手くいかないっていうんで、急に自分が駆り出されて数十分遅れでデッドラインに間に合った」と。いずれにしても、偶然の産物、といった性質を充分に帯びた大ヒット曲だったと分析するしかない。いつの時代も、大ヒット曲には、そうした偶然性が付いて回る。練りに練った曲に限って、それほどヒットに至らない場合が多い。過ぎたるは及ばざるが如しの諺通り、瞬時のひらめきがヒット曲に結びつき易い、ということの何よりの証左であろう。
ロッドは信念の人である。自分のやることに常に迷いがない。だからこそ、40年近くもの間、ただの一度も第一線から退くことなく、ミュージック・シーンに留まっていることができているのだと、筆者は考える。「Da Ya Think I’m Sexy?」のリリース当時、ロッドは音楽評論家を始めとして、各方面から“ディスコ・ミュージックに迎合した”と非難され、批判の嵐の矢面に立たされたのだが、それでも動じなかった。もしかしたら、彼は“これはディスコ・ミュージックを揶揄したもの(=すなわちパロディ)”と割り切っていたのかも知れない。その深読みが当たっているなら、ロッドは相当な確信犯である。そして筆者は、そんな彼に対して「ヤラレた!」と白旗を掲げるひとりだ。
曲の要旨
バー(のカウンターに)独り座って、男からの誘いを待ってる彼女。そんな彼女の気持ちが手に取るように判るから、男は却って彼女から言葉を掛けられるのを避けて通ってしまうよ。その実、男の方も下心タップリで、女の方は今にも心臓が爆発しそう。そういう男女が考えてることといったら、ひとつしかないよね。つまり、こういうことさ。俺の身体が欲しいのかい、俺を見てセクシーだと思う? もしそうなら、正直にそう言えよ。最初はウブな男を演じていたけれど、いざその時になったら、途端に積極的になる男。そこのカワイイ君、今夜は俺と一緒に過ごそうぜ、ってなもんさ。いきなりコトに及ぶ前に、俺、ママに“今夜は遅くなる”って電話しなきゃ。そして遂に結ばれたふたり。夜が明けてみて、こういう行為に及んだことが納得ずくだったってことがハッキリしたよ。心から俺に愛されたいと思うなら、君の方からモーションをかけてくれ。俺の身体に優しく触れてくれよ。
1978年の主な出来事
アメリカ: | 1956年にサンフランシスコで創設された、ジム・ジョーンズ率いる新興宗教団体People’s Temple(日本では「人民寺院」と訳されている)が集団自殺を遂げて世間を驚愕させる。 |
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日本: | 千葉県成田市に新東京国際空港(後に成田国際空港に改称)が開港される。 |
日中平和友好条約が締結される。 | |
世界: | イギリスで世界初の体外受精による乳児が誕生。 |
1978年の主なヒット曲
Baby Come Back/プレイヤー
Night Fever/ビージーズ
You’re The One That I Want/ジョン・トラヴォルタ&オリヴィア・ニュートン=ジョン
Boogie Oogie Oogie/テイスト・オブ・ハニー
Le Freak/シック
Da Ya Think I’m Sexy?のキーワード&フレーズ
(a) wait for suggestions
(b) go much further
(c) wake at dawn
この曲についても、筆者には忘れようにも忘れられない深い思い出がある。ソフトボール部に所属していた中学時代(ちなみに、ポジションはファーストで打順は5番)、部活の先輩で仲良しの女性がおり、彼女の家にしょっちゅう遊びに行っていた。先輩はロッド・スチュワートの大ファンで、中学卒業と同時にロッドと同じヘア・スタイルにしたほどの筋金入りのファンだったが、閉口したのは、家に遊びに行く度に、この「Da Ya Think I’m Sexy?」が収録されているLPを永遠リピートで聴かされたことである。本連載でことある毎に書いているが、筆者は同じ曲を強制的に聴かされるのが死ぬほど苦手で、結果的にその曲が大嫌いになってしまう性分の持ち主だ。よって、この曲も、もう数十年と聴いたことがなかった。抑えても抑えても同じ曲が頭の中でぐるぐる回って響き続ける状態を、筆者は音楽仲間のひとりとの間で“虫が湧く”という符牒で表現しているが、この曲もまさにその“虫湧きソング”のひとつだったのである。また、今から9年前に胆嚢全摘出手術のために横浜市内の某総合病院に入院した際、ナースコールの着信音がベートーヴェンの有名曲「エリーゼのために」だったため、それこそ頭の中に虫が湧き、ただでさえ病気で入院しているというのに更に具合が悪くなってしまい、ナースセンターに懇願して「エリーゼのために」のナースコール着信音をやめさせることに成功した。筆者は、そういうことには容赦のない人間である。サブリミナル効果ほど耳と神経に触るものは他にはない。
さて、その虫湧きソングだったはずの「Da Ya Think I’m Sexy?」だが、筆者はうっかり昨年の年末セールで、行きつけの中古レコード屋で同曲の日本盤シングルを買ってしまった。懐かしい、というよりも、この曲が収録されているアルバム『BLONDES HAVE MORE FUN』と同じジャケ写が日本盤シングルのそれにも用いられていたため、瞬時にして中学時代の部活の先輩の顔が脳裏に浮かび、「ああ、先輩!」とセンチメンタリズムに浸っているうちに、うかうかとレジに持って行ってしまったのである。なお、同アルバムの邦題を『スーパースターはブロンドがお好き』という。本連載に何度か登場している主治医(邦題に滅法詳しい!)は、拙宅に音楽談義のために遊びにいらした際に、この日本盤シングルを見て次のように力説した。「それは“アイム・セクシー”じゃなく“スーパースターはブロンドがお好き”なんだよ!」――えっ?! 一瞬、筆者は“来日記念盤”と銘打ってある日本盤シングルのジャケ写を見て、「もしかしたら、来日に合わせて、当初の邦題を手抜きの略式カタカナ起こし邦題に変えたのかも……」と思ってしまったほどだ。何せ主治医は、呪文のように何度も何度も「スーパースターはブロンドがお好き」をくり返していたから。ところが、詳しく調べてみたところ、それはLPのみの邦題であって、「Da Ya Think I’m Sexy?」は最初から「アイム・セクシー」であることが判明。弘法も筆の誤り、(医学博士でもある)邦題博士も記憶の誤り(苦笑)。が、それほどあのアルバムの邦題は強烈だった。しかも、ジャケ写に後姿が写っている女性は、金髪ではない!(ただし、LPの裏ジャケには、ロッドと金髪女性の写真が使用されている) おそらく当時のレコード会社の担当ディレクター氏は、『BLONDES HAVE MORE FUN』を単にカタカナ起こしにしたのでは、LPのタイトルとしてインパクトに欠けると思い、頭を捻りに捻って邦題を考え出したのであろう。そして当時、ロッドの日本盤LPを買った人々の頭の中には、今なおその邦題がこびりついているのでは、と想像する。
この曲に登場する女性は、明らかにロック・ミュージシャンを専門とするグルーピーだ。そのことが判然とするのは、順番が前後するが、(c)を含むヴァース。曰く「朝、鳥のさえずりと共に街の人々が目覚めて……(中略)……愛し合った後の男女が共に朝を迎えても、夕べの出来事(=セックス)についてどちらも不満を漏らさない(=納得ずく)」――ここのヴァースを聴いて、女性が単なるロック・ミュージシャンの一ファンだと思う人は、読みが甘いと筆者は思う。「納得ずく(neither one’s complaining)」。このフレーズから、筆者は相手の女性がグルーピーだと確信した。この曲に登場する男女の肉体的関係は、英語でいうところの“one-night stand(ひと晩限りの情事)”であると。
(a)は、物欲しげにロック・スターを物色するグルーピーの心情が如実に表れているフレーズである。“suggestion(s)”は、「暗示、ほのめかし」という意味を持ち、それを彼女が「待って」いるわけだから、当然ながら、自分がターゲットとしているロック・ミュージシャンからの「誘い」を待っているのである。単純で解り易いフレーズであるが、ここを誤解してしまうと、この曲に登場する女性の正体がうやむやになってしまう。オブラートにくるんだようなフレーズではあるが、その実、かなり直接的だとも言える。
セックスがテーマのラヴ・ソングの歌詞でたまに見掛ける(b)は、直訳するなら「さらに遠くへ行く」だが、それだと意味不明である。意訳するなら、「一線を越える」、即ち「男と女の関係になる=肉体関係を結ぶ」ということだ。そしてこの曲の主人公である男性は、そうした行為に及ぶ前に、母親に遅くなるからとの断りの電話を掛ける、と相手の女性に言っているのである。筆者なら、その時点で興醒めしてしまうのだが(筆者はマザコン男が大の苦手)、相手の女性はそのことに対して不満ひとつ漏らさない。何とまあ、寛大な女性なんだろう。それほど、相手のロック・ミュージシャンに夢中だったということか。
中学時代の部活の先輩は、今でも『スーパースターはブロンドがお好き』のLPを大切に保管しているだろうか? 願わくは、今でもロッドと同じヘアスタイルを貫いていて欲しい。田舎の中学生だったため、ロッドのグルーピーになることは夢のまた夢だったとしても、そのファン心理と心意気に、後輩は今でもシビレているのだから。が、当時、ひとつだけ先輩に言えなかったことがある。筆者はある一部の英国紳士(もちろん、ミュージシャンや俳優)に岡惚れしているのだが、スーパースター(=ロッド)だけは、当時から好みではなかった、と。