10分でわかるカタカナ語

第10回 マトリックス

2005年1月31日

どういう意味?

本来は「母体・基盤」のこと、一般には「数学の行列」のことです。

もう少し詳しく教えて

同名映画によって有名になったマトリックス(matrix)の語は、もともとは「母体・基盤・何かを生み出すもの」のことを、一般には「数学の行列」のことを表します。ちなみに行列とは、高校数学で習う行列のことで「長方形状かつ格子状に複数の数字を並べ、全体を括弧でくくったもの」をさします。一般にカタカナ語のマトリックスが使用される場合、ほとんどがこの「行列」をイメージして用いられているようです。マトリクスと表記する場合もあります。

どんな時に登場する言葉?

数学・経営・電子機器などの分野で、限定的に使用される言葉です。まず数学では、前述の通り「行列」の意味でこの語が用いられます。例えばコンピューター言語で「マトリックス演算」という場合、行列の計算を意味します。また経営の分野では「マトリックス組織」という概念があり、これは新型の組織形態を表します(後述)。さらに電子機器(液晶ディスプレー)の分野では「アクティブマトリックス方式」「単純マトリックス方式」などの技術が存在します。これらのいずれも、「長方形状かつ格子状」という行列のイメージを元にした表現になっています。この他、化学・物理学・生物学などでも登場する言葉(この場合は「母体」の意味で使用されることが多い)ですが、詳細については割愛します。

どんな経緯でこの語を使うように?

この語は、SF映画「マトリックス」シリーズ(1999年~2003年)のヒットによって有名になりました。映画では、「コンピューターが支配する仮想現実空間」のことがマトリックス(The Matrix)と呼ばれました。この用語の採り方は、ウィリアム=ギブスンによるサイバーパンク小説『ニューロマンサー』(1984年)からの引用だとする説が一般的です。

仮想現実空間にマトリックスの語が充てられた理由は、二つ考えられます。ひとつは、「行列」の持つ数学的イメージと、電子やネットワークのイメージとが合致したこと。もうひとつは「母体」の持つイメージと、仮想現実空間による支配性のイメージが合致したことだと思われます。ちなみに、マトリックスの語源はラテン語の「子宮」です。

マトリックスの使い方を実例で教えて!

マトリックス組織

一般人がマトリックスの語を使用できる、数少ない機会のひとつが、このマトリックス組織(マトリックスオーガニゼーション、マトリックスシステム)という考え方でしょう。職能別・事業別・製品別・地域別などの軸で、組織構造を多次元的に構成する組織形態です。例えば製品(製品A/B)と地域(東京本社/大阪支店)で組織を構成する場合、ある人は「製品B」と「大阪支店」というふたつの組織に同時に所属することになります。複数の目的を同時に果たせる長所がある一方、命令系統が複数化するなどの短所もあるようです。

成長マトリックス

経営分析の世界では、アンゾフ(H. I. Ansoff)が提唱した成長マトリックス(成長ベクトル)と呼ばれる分析表が有名です。これは企業の現状を2×2の項目で分類し、それぞれについて今後採るべき基本戦略を示した表です。

言い換えたい場合は?

マトリックスを漢字で言い換える場合は「母体・基盤」や「行列」の語を用いることができます。ただし、「マトリックス組織」などの複合語を言い換える場合には、ケース毎に言い換え法を考慮する必要があります。例えばマトリックス組織は「格子状の横断組織」「多次元的横断組織」などと言い換える事ができます。単に「横断的組織」と表現した場合、プロジェクトやタスクフォースなど他の概念を含んでしまう場合もあるので、注意してください。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

何故「行列=matrix」なのか? 何故、「母体・基盤」を表すマトリックスが、数学の「行列」を表すのか不思議に思われる方もいらっしゃるでしょう。実は数学の世界では、行列(matrix)よりも先に行列式(determinant)という概念が研究されていたのですが、「行列式の母体になる概念が行列である」という考え方から、これがマトリックスと命名されたわけです。命名者は、数学者のシルベスター(J. J. Sylvester)と言われています。

筆者プロフィール

三省堂編修所

編集部から

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