10分でわかるカタカナ語

第24回 アイデンティティー

2005年6月22日

どういう意味?

「あるものがそれとして存在すること」、またそうした認識をさします。「同一性」「一致」のことです。

もう少し詳しく教えて

アイデンティティー(identity)は、広義には、「同一性」「個性」「国・民族・組織などある特定集団への帰属意識」「特定のある人・ものであること」などの意味で用いられます。

コンピューター関係で用いられるときは、「一致」「識別」のことです。

学術用語としてのアイデンティティーの定義は、哲学分野では、「ものがそれ自身に対して同じであって、一個のものとして存在すること」です。心理学・社会学・人間学などでは、「人が時や場面を越えて一個の人格として存在し、自己を自己として確信する自我の統一を持っていること」と説明され、「本質的自己規定」をさします。

どんな時に登場する言葉?

ビジネス、カウンセリング、コンピューター、ジャーナリズムなど分野にかぎらず広く用いられる言葉です。例えば、「企業としてのアイデンティティーの確立」、「日本人としてのアイデンティティー」といった使い方をします。哲学・心理学など人文社会系の学術用語として登場する場合は、正確な概念は各専門領域ごとに定義が微妙に異なります。

どんな経緯でこの語を使うように?

哲学分野では概念規定の用語として用いられていましたが、アメリカの精神分析医E=H=エリクソン(1902-1994)が唱えた「アイデンティティー」の概念は、心理学のみならず社会学や精神医学などの学術領域で広く用いられ、さらに一般にも浸透しました。日本では、この精神分析学・心理学の用語として入ってきて、アメリカと同様に一種の流行語のように広まりました。その後、コンピューターで「一致」「識別」の意味で用いられることから、狭義の学術用語から次第にそうした意味でも常用されるようになってきています。

アイデンティティーの使い方を実例で教えて!

アイデンティティークライシス(identity crisis)

「自己認識の危機」のことです。例えば、「ライフサイクルの中でアイデンティティークライシスに直面する時期」、あるいは「グローバル時代におけるアイデンティティークライシス」のように使われます。

ブランドアイデンティティー(brand identity)/コーポレートアイデンティティー(corporate identity)

例えば、2002年10月に日本航空と日本エアシステムが合併した際に、「JALグループがブランドアイデンティティーを決定」したと発表されました。「ブランド戦略のコアになるのはブランドアイデンティティー」のような使われ方もします。日本では、和製カタカナ語で「ブランドイメージ」と言われていたものに近い概念です。一方、コーポレートアイデンティティーは、「CI」と略されることが多く、ロゴマークや企業イメージ統一戦略のように思われがちですが、漢字で表現すると正確には「企業理念」となります。

アイデンティティー管理ソリューション

IT関連分野でよく聞かれます。ユーザーIDの管理・保全を目的としたソフトウエアなどをさすことが多く、具体的にはIBM社の「Tivoli Identity Manager」などをいいます。

言い換えたい場合は?

基本的には「あるものがそれとして存在すること」の意味を含むため、「同一性」「独自性」「一致」「身元」「本質」などに言い換えられます。また、概して、コンピューターのシステム関連では「一致」と訳されることが多く、IT分野では「識別」とされます。学術分野で一般的には「自己同一性」「同一性」とします。心理学では特に「自我同一性」という用語があります。また、あえて用語にしない場合は、「自分を他の誰でもない自分であるという意識」という意味で「自己認識」などとも言い換えられます。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

身分証明書は自己同一性カード IDカードはアイデンティティーカード(identity card)またはアイデンティフィケーションカード(identification card)の略称です。漢字で表現するとふつうは「身分証明書」ですが、直訳すると「自己同一性札」「本人識別票」で、日本語の「身分」とは少しニュアンスが異なります。映画などで見られるアメリカ陸軍兵が首にかけている金属製のプレートは、氏名や血液型などが書かれた認識票で、アイデンティティーディスク(identity disc)またはアイデンティフィケーションタグ(identification tag)といいます。アイデンティフィケーションは、「同定する・あるものをそれとして確認する」という意味の動詞アイデンティファイ(identify)の名詞形です。

同姓同名でも私は私 SFなどでクローン人間が出てきても、結局、複製でも「完全に同一の人間」ではありえない、という結末に落ち着くようです。例えば、同姓同名が何人いても、「私」は私一人しかいません。こうしたことを規定する基礎となるのが、アイデンティティーという概念です。

筆者プロフィール

三省堂編修所

編集部から

あなたはマスコミ報道や日常会話の中で、突然意味の分からないカタカナ語に出会い、困ってしまったことはありませんか?

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