10分でわかるカタカナ語

第35回 モラル

2006年2月28日

どういう意味?

「道徳」「倫理」「良識」のことをいいます。

もう少し詳しく教えて

モラル(moral)は、「道徳・道義的な」「教訓」などを意味する英語から来ています。現実社会や実人生に対する態度や気持ちのありようをいい、法的根拠による拘束力をもたないもので、宗教のように超越者との関係においてではなく、人間相互の関係において「善悪の判断を伴う感性」のことをいいます。モラルというときは、特に「現実生活に即した道徳」という点がポイントです。

どんな時に登場する言葉?

どこにでも登場します。ビジネス・法律・政治などの分野で、最近とみに聞かれるのは、「モラルハザード」という言い方でしょう。「モラルハラスメント」、「情報モラル」といった使われ方も多くみられます。エッセイや小説などに「私のモラルに反する」といった表現もよく見られます。

どんな経緯でこの語を使うように?

モラルは早くから使われてきたカタカナ語です。漢字で「道徳」と書くと、中国の思想家である老子の思想をさす場合もあり、また、第二次世界大戦前の初等教育課程における「修身」の流れをくむ、戦後の「道徳」教育をさすこともあります。「道徳」という漢字がもっている、そうしたニュアンスを削ぎ落とした言葉として、カタカナ語の「モラル」が使われるようです。

モラルの使い方を実例で教えて!

○○のモラルがどうした?

比較的日常的な表現です。「○○としての」という条件をくわえて、例えば、「科学者としてのモラルに欠ける」とか、「国際社会に生きる日本人としてのモラルが求められる」、「企業経営者としてのモラルがある」、「学生としてのモラルの問題」などのように使われます。「個人のモラル」「研究者のモラル」「英国のモラル」という言い方もされます。

モラルハザード(moral hazard)

この言葉は、カタカナ語と英語で意味にずれがあります。日本では英語のモラル(moral)とハザード(hazard)をそれぞれに直訳して「モラルの危機」、つまり「倫理観の欠如」「道徳の喪失」という意味で用いられます。つまり、カタカナ語のモラルハザードは個人的倫理観に帰するものといえます。

しかし、英語でいうモラルハザード(moral hazard)は、保険用語で「保険をかけていることによって、かえって故意や不注意から起こす事故の危険性」をいいます。転じて、経済や政治の分野でも「危険回避の仕組みを整備することによって、かえって注意が散漫になり、事故率が上がり、規律が損なわれること」をさします。これはセーフティーネットというシステムにおける二律背反なので、モラルで解決できる問題ではありません。

モラリスト(moralist)

一般に、道徳家・倫理主義者などをさします。口語では、「モラルを大事にする人」「モラルのある人」「良識家」程度の意味で使われます。「彼って実はモラリストだったのね」というときは、「身持ちのかたい人」ということかもしれません。

狭義には、16~18世紀にかけてフランスで「モラル」という概念を随筆に著したモンテーニュやラ=ロシュフーコーなど思索家の一群をさし、彼らの流れをくむカミュやジードといった作家、20世紀の日本における森有正らを含めることもあります。

言い換えたい場合は?

「道徳」「倫理」が最も一般的なものです。モラルハザードのような熟語は、専門用語としてのモラルハザードなのか、カタカナ語としてのモラルハザードなのか気をつけて言い換える必要があります。後者は「倫理観の崩壊」や「道徳の欠如」などに言い換えられます。情報モラルは「情報倫理」、モラルハラスメントは精神医療分野の用語で「精神的虐待」と言い換えられます。

雑学・うんちく・トリビアを教えて!

モラル(moral)とモラール(morale) モラル(moral)は英語、モラール(morale)はフランス語です。末尾に「e」が付くか付かないかの違いのようですが、英語やカタカナ語に輸入されたフランス語のモラール(morale)は、困難に立ち向かう「士気」「やる気」を意味する語として扱われます。企業や軍隊など組織や集団で、「社員のモラール」「モラールの向上」のような使われ方をします。日本で危機に瀕しているのは、こちらの方だったりして……?

不道徳にもいろいろあって 英語のモラル(moral)に否定をあらわす接頭語(im-)がつくと、インモラル(immoral)という言葉になります。「不道徳」「道徳的ではない」という意味ですが、前述のモラルハザードは、火災保険をかけてから自宅に火をつけるような行為を「不道徳」としたことに由来します。インモラルという言葉は、「背徳的な」「淫らな」というニュアンスが強い「不道徳」です。

モラルハザード、再び 国立国語研究所の「『外来語』言い換え提案」によると、モラルハザードは「倫理崩壊」「倫理の欠如」とされています。また、2003年掲載の情報によると、モラルハザードの理解度は国民の全体の25%未満です。

筆者プロフィール

三省堂編修所

編集部から

あなたはマスコミ報道や日常会話の中で、突然意味の分からないカタカナ語に出会い、困ってしまったことはありませんか?

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そこでこのコーナーでは、社会での使用頻度が高いわりに意味がよく知られていないカタカナ語を選び出し、それらの意味や使い方について「10分でわかる」ようまとめてみました。このコーナーを見れば、あなたもカタカナ語が怖くなくなります。